表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/308

美人はいかが? 10

●狼王

 夜の風。切り裂いて来る猛き咆哮。星の光に浮かび上がる金色の瞳。

「スジラド! ネル様を! ネル様! 盾を構えながら薪を()べるんだ!」

 槍のような短剣を抜き、長柄の鍔元を握るデレック。

 幸い狼はこちらを攻めあぐねている。浅くとも堀、低くとも土塁、貧弱でも逆茂木。備えて無かったら大変な事になって居ただろう。なにせあちらは多数なのにこちらはネル様を入れても三人なのだ。


 猛る一匹が跳躍し、植えた逆茂木に引っかかった。

「キェーイ!」

 デレックが繰り出す渾身の突き。

「グォウ!」

 常とは九十度寝かせた刃が、あばらの隙を潜って突き刺さる。俗にあばら三本、心臓を狙う攻撃だ。

 筋肉が刃を咬む前に素早く短剣を引くデレック。尖らせた枝々で作った逆茂木がたわむ。

「ギャイ!」

 デレックに鼻面を斬られた狼が転げ落ちる。


 並の狼の跳躍力が其の場で六十センチ。助走を着ければ百七十センチにも及ぶ。

 しかし全力で跳躍すれば反対側に飛び超えてしまうし、中途半端では中に入り込めない。

 現在、逆茂木が最後の砦となって狼を防いでいる。尖らせた枝が、丁度鉄条網のような役目を果たしてくれてるのだ。

「ギャウ!」

 入り込んだは良いものの、不幸な狼は火の上に飛び込んで、悲鳴を上げて外へ遁れた。


「あ!」

 一匹の狼が、今までの攻防で抉れて出来た足場を使い二段ジャンプ。逆茂木の上を超えて踊り込む。

 圧し掛かる狼を、咄嗟に大盾で防いだネル様だったが、転んでしまった。

「きゃあ!」

 僕が割り込むのと狼が食らい付くのがほぼ同時。

「うぐっ」

 衝撃が走る。狼の牙は、咽喉を庇った僕の左手に食い込んでいた。咄嗟に引き抜こうと押し返すけれど、牙は食い込んで外れない。いや、益々食い込んで来る。

『引くんじゃないの! 押し込むの!』

 ネル様とは違う女の子の声が響く。誰? と思う間もなく、身体は反応。

 音が聞えなくなった世界で、巴投げに宙に放り出された狼がやけに遅く浮かんで落ちて来る。握り込んだ僕の剣が狼の口の中に吸いこまれた。

 そして世界に再び音が戻った時、狼は剣の根元に牙を立てて事切れていた。


「大丈夫! 左手」

「うん。籠手とダークが防いでくれたから」

 牙は僕の肌に達していなかった。

「デレック! あたしも手伝う」

 デレック一人が戦っている所に、大盾を構えたネル様も参戦。当然僕も加わった。

 跳んで来る狼を、盾で外に叩き返すネル様。これが中々の妙手だった。盾だから剣よりは安全だし、面で受け止めるから逃しもしない。

 僕とデレックの手が狼の血で、剣を取り落としそうになった頃。


「ウォォォォ~ン!」

 天地を揺るがすような遠吠えが聞えた。

 埋め尽くしていた殺気が消える。

「一声吠ゆれば、十声答え、十声(とな)わば百声響かん」

 思わずネル様が口遊んだ古詩の一説に頷くデレック。

 一際大きく一際目立つ白銀の狼が、星の光に浮かび上がる。暫くこちらを見つめていた眸の光が横を向くと、

「グゥグルゥグルウォォォォォ~~ン!」

 高く吠えた。

 すると狼たちは精兵を揃えた軍隊のように、整然と行進を始めた。

「百? いや三百か! すげー」

 目を見張るデレック。

 うん。僕もかっこいいと思う。

「いつか、あの狼に成れるかな?」

 言って自分でも驚いた。かっこいいと思う余り、そんな言葉が口を吐いたのだから。


 その後、剣の血を拭った僕達は、興奮が醒めず寝れぬままに朝日を迎えた。

 夜ご飯と大差ないお腹を満たすだけの食事をとりながら、デレックは僕を見つめる。

「前から思ってはいたが、お前ほんとに大した奴だな。ネル様を守ってくれて感謝する」

 頭を下げた。

「良かったら五分(ごぶ)の、飲み分けの兄弟に成ろう」

「いいよ」

 僕が応じるとデレックは、

「武人の誓いだ。同じようにしろ」

 と、見本を見せる。

「俺はスジラドの兄弟として真心を尽くす。別して、スジラドがネル様を裏切らぬ限り、俺の武器がスジラドに向けられることがない事を誓う」

 鞘を握った左手の親指で柄を押し出し、カチャっと僅かに剣を押し出すと、右手でチンっと音を立てて押し込んだ。

「僕はデレックを兄弟として真心を尽くします。デレックが僕を裏切らない限り、絶対に僕の武器はデレックに向けられることはありません」

 同様に、カチャっとチンっの音を響かせた。

「じゃあ。乾杯だ。ほんとはお酒でするもんだが、俺もお前も子供だからな」

 酢を垂らした水を同量、木をくり抜いたコップに注ぎ、

「「乾杯!」」

 互いにコップを打ち合わせて同時に一気に飲み干す。


 そんな僕達を、ネル様は眩しそうに見つめていた。

 だけどこの時。僕達はまさかあんなことになるなんて思いもしなかったんだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
こちらもどうぞ。

転生したらタラシ姫~大往生したら幕末のお姫様になりました~
まったりと執筆中

薔薇の復讐 作者:雀ヶ森 惠


ブックマーク・評価点・ご感想・レビューを頂ければ幸いです。
誤字脱字報告その他もお待ちしています。

【外部ランキングで本作品を応援】(一日一回クリック希望)


メッセージと感想(ログインせずに書き込み可能)にて受け付けます。

ヒロインのビジュアル
ヒロインたち
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ