動乱の始まり-01
●白き虹
異変の第一報は、オリゾからの僕当ての私信。ハリーからの手紙だった。
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轟き亘る雷の月。
オリザの蠢々と伸び行く如く 開ける御国の御栄えを
上下心を一にして盛り立てんとする頃。
白き虹 天が徴と 君に告ぐ
兜の印 繙けよ君
とうとつの歌を失敬。昨日、白い虹が立ちました。妖しいばかりに美しい虹です。
くすんだ太陽に掛かる白い虹でした。そちらは何かありましたか?
にいさま司祭長の内示を得ました。とシアからの便りが届き、父も
げに、お家の誉れ。と喜んでおります。なにせ十五歳の成人の儀で司祭長ですよ。
よろこびようは尋常では無く、正室である僕の母も家の光を加えたと大満足。
伯父、つまり一族の惣領も改めてシアの養女の件を追認しました。
爵位は子爵相当の司祭長を一族に向かえる事に否はありません。
ははは。今更ながらに不明であったと愧じておられるようです。
殺人的な日程が、これからシアには待って居ますが、疲労のあまり
ささくれ無いよう僕が支えてやりたいと思います。君も気を付けて、地位に
れんれんとする人達から見て、君の出世もシアに負けません。
ただ、謙虚ばかりでも嫌味に思う人が居る事を覚えて下さい。
下手な手を打たず誠意を以って真摯に対処しても、恨む人は恨みます。
手を変え品を変え、君の足を引っ張る輩も生まれるでしょう。
人は理性では無く、心で生きる生き物なのですから。
不平不満は諍いの種。小さなことにも気配りを忘れずに。
明るい未来の展望を、君に関わる全ての人に示すことが出来るよう頑張って。
幸くませわが友
時維参伯陸拾漆年漆月肆日 ハリー・ヤガミ 拝
追伸
十日のシアの叙階に合わせ、ネル殿の兄上が参られるそうです。
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「へー。歌を贈るなんて雅ね。スジラドお嫁に行く?」
歌は恋人に贈るもの。それを見て僕を揶揄うネル様。
「ネル様、必ずしもそうじゃないですよ。親しい友人にも送りますし、部下へ命令に添えて送ったりもします」
「ほんと、刀筆の貴族の仕来りはややっこしいわよね」
「そうですね」
笑いながら僕は、白い虹に注目した。わざわざ行き成りこれを書いたのはなぜだろう?
と、思った瞬間。一つの文言が頭に浮かんだ。
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白虹 陽を貫く。
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その昔現れたシャッコウが持ち込んだラノベと言う物語。
その一つにこの言葉がある。白い虹は兵乱の兆し。
白き虹を天の徴と君に告げます。
兜の印を繙きなさい。
「兜の印、兜の印、……あ!」
以下の文の頭を拾う、つまり行の頭を読んで行くと。
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とく にげよ伯爵は 殺された 下手人不明
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と言う一文が浮かび上がる。
「ネル様!」
僕は急ぎ、ネル様達にこの事を告げた。





