開かれし記録-04
●これからの事
下された予言。それは努力で変え得る未来だけれど、手を拱いていれば確実に訪れる未来なんだ。
僕達つまりマコトとライディンは、多少の負担を承知で二人ともスジラドの中で目覚める。
卓を挟んで、マコトの幼馴染である神子様と呼ばれる沢の巫女のノブちゃん。
そしてジャックと呼ばれていた頃のライディンの幼馴染で猫巫女と呼ばれる光の巫女のリア。
三つの身体で四つの人格が知恵を絞って解き明かしを試みる。
――――
天に二つの陽は照らず、六合に二人の君は無し、家に二人の主無し。
ああカルディコットよ千年の樹よ心せよ。汝は遂に蠱されん。
ああコーネリアよカルディコットが若枝よ。禍の日にも強くあれ。
血を分かつ、二枝は汝の寇となり。乳分かつ、一枝も遂に仇を為す。
忘るるな。斧に乳の枝が柄を貸して、遂に汝は横たわる。
耳あらば聞け荒が兄よ。
千年の樹が若枝の当に伐られんとするその時、君は黄泉の牢に入る。
繰り返す、死の定めは繰り返す。
汝が蒙われしその地にて、蒙きを包るその宇の中。
――――
恐らく本物の神子様から下された予言を、沢の巫女でありここの神殿長でもあるノブちゃんは書き記す。
深い瞑想の中で、夢として体験して来た事を元に文字に起こす。
『言葉の響きじゃ解んなかったけど、この蒙と言う真名が手懸りだね』
ライディンが指摘する。
『ああ。蒙は幼き者って意味もあったな』
この世界、予言や魔法の詠唱に現れる真名はそれ自体が深い意味を持って居る。
僕達がノブちゃんにその事を言うと、
「そうだね。蒙われしその地で蒙きを包るその宇の中。と言うのは、本当の出自を覆い隠し、幼き者を受け入れた家の中。多分お兄ちゃんが育てられた故郷のことよ」
と意見を述べ、リアも、
「繰り返される死という部分から死ぬ場所はお兄ちゃんが今のお兄ちゃんになった場所じゃないのかな?」
ジャックお兄ちゃんがその時死んで、今のスジラドに為ったんだから」
と推測する。
「なんだかこうして見てると、ノブちゃんとミカちゃんみたいだなぁ」
思わず僕、マコトがぼそりと口にすると、
「うん。姿が変わって、こんなに歳も離れちゃったけれど……」
リアが照れくさそうに口にした。
すーっと僕とノブちゃんの目がリアに向かう。
「いつから気付いていたの?」
ノブちゃんの問いに、
「お姉ちゃんが私のメロディーを吹いた時から」
と答えるリア。あの時か。
「この分だと、ひょっとすると他の二人もこっちに来てるかも知れないね」
僕が言うと、
「「まさかぁ」」
ノブちゃんとリアが、前世と同じノリで唱和した。
「でも、有り得るかも」
ノブちゃんの声。
「えー。やだよ。エロアキとオタクのマシロもどこかに居るって言うの?」
容赦ないリアの声。
でも、あの時の遊び仲間五人の内、こうして三人がここに居る。
「死ぬか元の世界に帰るか、どちらにも取れる予言だけれど。死ぬのは勿論嫌だし、僕が居なくなっちゃうとネル様達が死んじゃうって言うんなら、元の世界に帰れるとしても安易にそれを選べないね」
僕の発言に頷く二人。
「私は神殿でもっと情報を集めるよ」
ノブちゃんが言うと、
「じゃあ私は、お兄ちゃんを育てたおじさんおばさんの住んでいた所に行くよ。巫女が不在となったままの神域に。いいでしょ? お姉ちゃん」
リアがミカちゃんとしてノブちゃんにお願いした。
「「お兄ちゃんはもっと鍛えて!」」
また唱和する二人。
「そうだね。強くならなくちゃ。僕達は」
僕が僕で有るために。
ライディンは
『そろそろ寝るよ。身体に負担が掛かり過ぎる』
と言い、僕の、スジラドの中に沈んで行こうとする。
『待て!』
僕は呼び止めた。
『暫くそっちに身体を任す』
『いいの? スジラドになってから表で動いて来たのはマコト、君だよ』
ライディンは遠慮するが、僕は断固として言った。
『君も経験を積まなきゃ。後で色々困るぞ』
と。





