開かれし記録-03
●道を拓くには
「スジラド殿が死ぬ世界では、ネル殿は木に架けられて酷い最期を遂げるでしょう。スジラド殿に与する者も、皆滅んでしまいます。クリス殿もリアもシアもシレーヌも滅びを免れないでしょう。
しかも運命の力は強く、遁れたと思ってもどこまでもスジラド殿を追い掛けて来ます」
なんか凄い事を言われてる。
「ねぇ。僕が死んだら皆死んじゃうの? なんで!」
理不尽な予言を跳ね除けようと語気が強まった僕は、気が付くとノブちゃんを怒鳴りつけていた。
「それは、お兄ちゃんがシャッコウだから。そして、お兄ちゃん達の影響で、八つの神璽が飛び去ったからだよ」
神懸かった語りから、幼馴染の口ぶりに戻るノブちゃん。
「八つの神璽?」
「うん。八種の偉力を帯びた伝説級のマジックアイテム。それがお兄ちゃんが生まれた時、世に放たれたと聞いたよ。
この後、神璽の偉力が人と成った八人の媛が、お兄ちゃんの運命に関わって来るんだって。
今、私に判るのは、少なくとも二人がお兄ちゃんの味方って言うことだね」
「えーと。それって?」
僕が合いの手を入れると、
「風の媛ネル。地の稚媛クリス。ここまでは枢機卿様より聞いてるよ」
ノブちゃんは言い切った。
「でさ。それでどうすればいいの? 何もしなければと言うからには、運命を変えちゃう方法があるんでしょ?」
するとノブちゃんは頷いて、
「お兄ちゃんも薄々気付いていたと思うけれど。
邪神様の試練を超えて魂の位階を上げることが出来れば、運命の渡を越す力を手にすることが出来るよ。
お兄ちゃん。十歳の時の戦い程じゃないけれど、今回の十二歳の儀でも新しい力を身に付けたでしょ?」
ノブちゃんの言いたいことが解って来た。実際チカの身体に入ったおかげで新しい技を会得出来た。いくらこの身体に引っ張られているとは言え、あれは僕の厨二病爆発かもね。呆れるより先にわくわくしてる。
それは何より、この身体で遣る事も可能だからだ。しかも火が雷に置き換わり、合体ロボアニメの必殺技みたいに凄い代物になるだろう。
「お兄ちゃん可愛い」
記憶はノブちゃんのままの神子様に、上背のある大人の身体で抱き締められた。
「今までの例から言って、十五歳の儀は廻国修行となる筈だよ。各地の神殿や指示を受けた遺跡を回って、お兄ちゃんのシャッコウとしての格を上げて行くの」
「そうだね」
僕は頷く。
「それにね。ここの記録はダイジェスト化されたもので、集約の際に端折られた記録の原本がの幾つかが残っている筈だよ。
それを調べれば、ひょっとしたら本屋っ子のお兄ちゃんが元の世界に戻れる方法が見つかるかも知れないし、ライディンが本当の家族を見つける手助けになるかも知れないよ」
ノブちゃんの言葉に僕達は話し合う。良くも悪くもこのスジラドの身体は僕達二人の物なんだから。
『ライディンはどうする積りだ?』
『決まってるよマコト。死にたくないのは同じだよ』
『だよな』
『それよりマコト』
『うん?』
『予言のこと話す?』
『取り敢えず、ネル様だけには伝える必要があるだろうな』
『理由は? デレックには内緒にする?』
ライディンが訊く。
『ネル様の方でも、破滅回避に動いて貰う必要がある。知らないと何の手も打てる訳がない。
デレックの方は……。止めておこう。却って予言に縛られそうだ』
『だよねー』
僕達の考えは纏まった。
取り敢えず、来るべき日の為に少しでも強く成っておかなきゃ。
僕達は運命を変えたいのだから。





