開かれし記録-01
●禁域にて
ノブちゃんの生まれ変わりである神子様達神殿のお偉いさん方に付き添われ、僕は禁域に通された。
出迎えたのは先程のフードを被った男の人だ。
「改めてご紹介します。シン殿にしてライディン殿であるスジラド殿と、御一行様です」
最高権力者である筈なのに腰の低い神子様。そして改めてフードの男の紹介を受ける。
「こちらが枢機卿様です」
「守殿、大儀」
その言い方も彼が神子様より上位者なのを伺わせる。でもモリ殿って何だろう?
「邪神様の計らいにより、スジラド殿にはこれが与えられます」
枢機卿と呼ばれる怪しげな男は、魔物の物と思われる親指程の牙で作られた笛を、盆に載せて僕に寄越した。
だけどなんで、こうも怪しげな格好をしているのだろう? そう言えば、一番最初に見た神殿関係者もこんな格好をして、フードで顔を隠していたっけ?
ざわ。ざわざわざわざわ。
あれ? 神殿のお偉いさん方の雰囲気が変だ。
「スジラド殿。卿が十五歳の儀を超えし暁には、各地の神殿を巡る許可を与えます。
それから、決してその牙笛を手放さぬように。それは卿が権伴の比倫として許可された証です。
滅多な者には手にすることの適わぬ徴故、魔力と息吹を籠めて鳴らし、卿の魔力を登録なされよ」
「これを吹くのですか?」
頷く枢機卿。僕は言われた通り魔力を籠めて息を吹き込んだ。
ポゥー! ライター程の火が噴き出すと共に、G音つまりハ長調のソの音が長く響く。
「これでいいのかな?」
「今よりその牙笛は卿にしか吹けなくなりました。余人が吹いても決してその音では鳴りません。その音は徴であります故、いざと言う時はそれで身の証を立てられましょう」
そう告げると紐で綴られた二つの本を僕に手渡す。
「連枝世家刀筆参拾捌?」
「栞のページをお読みください。守殿より伺ったライディン殿の悩みは消えるでしょう」
言われるままに開いてみると、
『これは僕の父上の紋章だ。子爵家だったのか……』
興奮気味にライディンは言った。そしてページを捲って行くと、
『あった!』
――――
・三百五十ニ年
児を賜る。命名ジャック。
嫡として系譜に記さる。
・三百五十三年
女児誕生。命名アレクサンドラ。
・三百五十六年
流行り病にて一族死亡。
遠縁のチャールズ、家督を相続。
――――
マッチョさんに見せられた映像とは異なる流れだが、一家全滅で遠縁が家を継いでいる。
『ライディンも死んだことに成ってるぞ』
『うん』
言葉少なだが、ライディンのやるせない気持ちが伝わって来る。
『だけどこれで僕が、歴とした貴族の子供だってことだけははっきりしたよ。だって、子爵家が『賜る』生まれだもん』
確かに。子爵家より上からの養子だってことがはっきりする文言だ。
それだけしか判らなかったけれど、ライディンは確かめたかった回答を得た。
「宜しいかな? 本来持ち出し厳禁の物故、お返し願いたい」
素直に僕が差し出すと、今度は釋光志典と書かれた百科事典並みに分厚い一冊を渡された。
真名から読み解くと、シャッコウとは『解き明かす恵』かな? シャッコウがこの世界に恩恵を運んで来たと言うのかな?
さっと最初の数ページを確認すると、内容は千年以上前からのシャッコウの記録だ。
枢機卿は穏やかな声でこう言った。
「原本ですが、一晩お貸し致しましょう。神域の病室と為った部屋でお読みください。後ほど守殿に引き取らせます」





