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美人はいかが? 09

●奈々島へ

 まだ夜も明けぬうちに。番小屋の竈で湯を沸かし、貯蔵庫にあった干し肉と干し豆とカラカラのチーズをぶち込んでスープ作り。

 出来たらこれまた貯蔵庫の堅パンを浸して早めの食事。

「疲れ難くなるから、予め脚に包帯まいておくといいよ。それとこれも持って行こう?」

「蜂蜜の瓶?」

 首を捻るデレック。

「一瓶持って行こうよ。ほら、疲れてへばった時甘い物を口にすると元気が出るし、蜂蜜ってちゃんと保管すれば腐らない食べ物だし、いざと言う時良い値が付くよ」

「そんなに保つのかよ!」

 デレックは目を真ん丸にした。

「売るかどうかは置いといて、甘い物があるのは素敵よね。デレック。これも荷物に入れて頂戴」

「えー!」

 男だし一番力があるもんだから、何も可にも彼に振られる。

 女で幼くて、しかも主筋のネル様は論外だし。荷物を重くして疲れ果てたネル様がおんぶを所望した時、背負うのはどう見てもデレックしかいない。

「判った。その代わりスジラドはこっち持てよ」

 と小振りのスコップが渡された。


 朝靄の中、僕達は出発した。

 普段の練習のせいもあるだろう。心が弾むせいもあるだろう。僕達の足取りは軽く順調に街道を歩いて行く。

 靄が消え陽が輝く頃。後ろの方から蹄の音が聞えて来た。

「スジラド。隠れるわよ!」

 ネル様が僕を引っ張って森の中に入る。ものすごい勢いで馬が走り過ぎたのは、それから百ほど数えた後だった。

「ネル様あれ、師匠ですよね」

 モーリ師匠が追いかけて来た。

「後から他にもやって来るかも。見つかるとヤバイわね。街道の見える浅い森の中を行くわよ」

 街道よりも移動スピードは落ちるけれど、追手に見つかり難くは成る。


「ネル殿ぉ~!」

 しばらく後、大声で呼ばわりながら、並足で通り過ぎたのは、ブルトン男爵公子だった。

 遠目にも必死さが良く判る。少なくとも彼は本気でネル様を心配しているようだ。

「どうします?」

「ちょっとばかり負い目を感じるけど、無視ね」


 夕方。あれから何人か街道を通ったり、ブルトン男爵公子が逆方向から駆けて来たりはした。

 しかし結局、五人の内三人がネル様と同年代のお子様とは言え、自らネル様を探しに駆けずり回っているのはブルトン男爵公子だけだった。


 で、僕達が今何をしてるかと言うと、森の開けた場所でスコップ仕事。断面がカタカナのレの字に掘った土を積み上げて土の壁を作ってる。堀の底から土壁の天辺までの高さが50センチ弱。それで中の二メートル四方を囲っている。一気に奈々島まで行く気だったけれど、森へ出たり入ったりを繰り返した為、お昼を過ぎても半分程。今日の到着が間に合わないと判った時点で野宿の覚悟を決めたんだ。


「もうそろそろいいかぁ?」

 ナタで枝を刈って来たデレックが、疲れて仰向けに寝転ぶけれど。

「まだまだ足りないよ。もっともっと持って来て!」

 と、土塁の上に先を尖らせた枝を植えるネル様が急かす。

 小石を沢山拾って来て、中央に切った炉の中で焚火をする。生木の杭を立てて紐を渡し、草と毛布で拝み小屋を作る。

「ほんと、スコップもナタも大活躍ね」

 完成すれば狼位はなんとかなる野営地だ。わざわざこんなのを作るのも、僕達の誰一人として不寝番を全う出来る自信がないからに決まっている。


 夜の(とばり)が音も無く森を包む。念の為持って来た火縄に火を移した後、熾火の上に枯れ木の太枝を載せ、集めた葉っぱや生木を目一杯()べて蚊やりを煙す。

 なんとか朝まで保つはずだ。

 こうして互いの背中を預けながら、僕達は眠った。


 ウォ~ン! 夜、沢山の狼の遠吠えに起こされるまで。


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