待って居た者-05
●見当違い
こいつも防衛機構なら、重要地点を破壊しないはずだ。
僕はそう踏んで、マコト曰くハニワ傀儡を引きく受ける。重要そうな装置や画面を利用して、動きを封じる算段だ。
と、その積りだったんだけど……。大惨事。 重要と思われる物や設備が、悲惨な事になって居る。
受け流した傀儡兵の白い剣が画面を切り裂き操作桿を切落し、勢い余って突っ込んだ操作卓が、白い煙を吐きながらバチバチと火花を上げている。
「はにゃぁ!」
僕が背負う重要設備を顧みる事無く襲い掛かって来る傀儡兵。それを最小の動きで躱して進行方向にちょいと押してやる。
ドゴンと軋む音がして、ポカリへこんだ壁の大穴。
と、その拍子にポトっと何かが降って来た。その岩の様な塊は見る間に姿を変えて人型を取る。
薄衣を纏った、なんだかえっちな妙齢の女の人の姿。マコトの知識に照らすと、ギリシア神話の女神みたい。そいつが、
「何をやっておるこの粗忽者めが!」
傀儡兵に怒鳴り付ける。
居た。こんな所に居た。こいつが禍津神の本体だ。
禍津神は手を諸手を挙げて、
「見つかってしまったな。我は用意されし戦いの場以外で汝らと戦う事を禁じられておる。我との戦いは終いじゃ」
と宣言した。
「じゃあこれで、試練はお終い?」
僕が訊くと、
「終いじゃが、あ奴をなんとかせんとな。今口にしたように、我は手伝えぬぞ」
そう言って壁にめり込んだ傀儡兵を指差した。
●僕の役目は
イメージするのは受け流す盾。
ヘイトを稼ぎ注意を引き付け、隙あらばスライムを削って行く。
この方法に切替て、僕達の戦いは随分と楽になった。これ以上デレックの露出度が増す、誰得な窮地も防げたし、ネル様の早過ぎるサービスシーンも自然と回避。
だけど僕の心も少しずつ削られて行く。
本来戦力を小出しにするやり方は悪手であり、各個撃破の好餌となる。だけどその戦力が幾ら費やしても惜しくないまるで痛みを伴わないもので、しかも恐るべき物量を誇る場合はどうなる?
賽の河原かシーシュポスか。しかも一を斃せば二、二を斃せば四と、意図的に戦力を増やしながら小出しにするこの手口は、馬鹿げた戦力の浪費と引き換えに相手の心を圧し折っちゃうんだ。実際、僕もネル様もデレックも折られ掛けているもん。
「ピィ! ピピルピュン!」
ええい! まよよ!
僕は心の音楽プレイヤーに、萎えそうになる僕を鼓舞する音楽を掛ける。うんこれ決めた。勇気と力が湧いて来るこの曲だ。
景気の良い七十年代合体ロボットアニメのテーマに支えられて僕は飛ぶ。
息をも吐かず羽ばたく翼。僕は高い天井を利用して、位置エネルギーをこれでもかと貯えた。それと同時に火の魔力を集めに集める。すると飛び散る火の花は、弾けてバリバリと音を立てながら雹の如く降り注いだ。
今だ! 高さの限界に達するや、エネルギーを天井に向けて噴射。その反動と高さとを、一気に運動エネルギーに転嫁させる。
乱れ来るスライム砲弾をバレルロールの要領で躱し、捻り込んだその身を一本の征矢として仮面の女に突き刺さる。
貫き、抜けた僕は羽ばたくと、炎の刃が霰の如く敵を見舞う。
ああこの体当たりで突き抜ける感覚って悪く無い。
柔かいスライムの身体とは言え、触手を千切り、本体に穴を穿つ事が容易い。
でも斃すには程遠い。本来ならば何度も決着している位の手応えはあったけれど、ここがスライムの強さと恐ろしさ。焼き切っても貫き通しても、それだけじゃ死なない不死の躰。
それでも僕が折れていないのは、時間を稼げば良いだけだから。
ライディンが本体を、試練の終わりを見つけ出すまで。





