待って居た者-03
●間に合った?
あの部屋より、通風孔を駆け抜けてショートカット。
スジラド本来の力がチカの力に上乗せされて、僕の心は勇む。
そう。まるでバブルのように自意識が膨らみ。同時に盛ん過ぎる力が捌け口を探している。
僕の真の中にある大人の分別が、何でもできちゃいそうな気持ちの昂りを、暴れ馬の手綱を引き締めるように絞ってはいる。しかし、50CCの原付自転車のエンジンがいきなりナナハンに入れ替わったように、乗り手の理性を振り切ろうと暴れて言う事を聞かない。
突然広い場所に出た。
あ、ネル様達が戦っている。でもどうした事だろう? 誰が得なのかデレックの鎧は剥ぎ取られ服も際どい所しか残って居ない。
あ、いや。何もネル様の方がそうだったら好いって言う訳じゃないよ。
見た所、相変らず一方的なスライムの攻撃で、ネル様達は凌ぐのがやっと。
「ケーン!」
僕は鳴く。敵はスライム。新手が来たと呼ばわって、ネル様達から注意を逸らさなきゃ。
本来なら電撃を飛ばすんだけれど、電撃はスライムとは相性が悪い。そのまま味方に投げ返されてピンチって言うのは一度で沢山。
デレックの属性の火はスライムと相性が良いせいか、物凄く善戦してる。けれども、デレックの魔法の腕前であの方法じゃ効率が悪過ぎる。纏わせるのは炎じゃなくて熱その物。
「ピィールルルル。ケーン!」
そうこのように。エーイ!
僕が集めた火の魔力を、口からデレックの剣に向けて放つと、忽ち剣は白い輝きを放ち始めた。
「な、なんだこりゃ!」
斬りつけた触手が真っ二つ。しかも後ろでボンと爆ぜた。
「ケーン!」
「あれは何?」「鳥か」
僕の一鳴きに、思わずネル様とデレックが口にすると、
「飛行機か! とでも言えばいいのかの」
スライムが笑った。
●確信
「あれは……スジラドよ!」
あたしは確信を持って断言する。
「ほう、よくわかったの」
愉快そうに笑う禍津神。
「だってこんなタイミングでくるなんてスジラド以外ありえないもの」
あいつの配下だったら攻撃を仕掛けたりしないはずだし、あの動きは明らかにデレックの動きを癖を知ってる。そんなの師匠でないならスジラドだけじゃない。
禍津神はまた、
「ふふふ」
と笑う。
「ようやくこれで役者が揃った……と言いたいところだが、そのような矮小な身で加勢になると思うのか?」
するとまるで禍津神の嘲りを聞き流すようにその鳥は炎を放つ。
「チッ」
舌打ちが早いか、噴水のように立ち上る水の壁。
火の攻めと水の護りがぶつかって、辺りを轟かす爆発の響き。
「デレック! その鳥はスジラドよ! 二人でその変態を叩き伏せなさい!」
スジラドの機転とデレックの力があれば、負ける気なんてしないわ。
「思う存分やりなさいスジラド。何をしてもあんただからで済ませてあげる」
あたしがそう言うと、燃え盛る鳥はそのまま羽を休めるようにあたしの頭の上に止まる。そして多分了解の意なんだろうピィと鳴いた。
デレックはそのまま突貫し、襲いくる触手を掻い潜りながら本体と思われる禍津神に近付いて行く。
触手の群れは焼き切られた部分がそれ以上伸びるのは難しいみたいね。切れば切るほどにデレックが優位になって行くのが判るわ。
「なんのまだまだ!」
触手が更に追加される。
「ピィ!」
鳥の嘴からゴー! と唸る焔。
「風よ!」
足元の水さえ逆巻かせ、焔を煽って注ぐ先を変えて行くあたし。
掻い潜った触手がデレックに達しても、白熱化した剣はバターを抉るように斬り落す。
やっぱりこの三人なら、何が相手でも大丈夫ね。
気が付くと、あたしの口元が笑っていた。痺れた苦みを感じていた舌もいつの間にか戻って居る。
今更ながらに狼狽していた自分に気が付かされた。





