待って居た者-02
●秘密のリスト
百年前の日付にあった双子の名前の一方は、
「晋む兄弟の兄、熾輝琉って確か不死鳥帝と呼ばれた烈火皇帝の眞名だよね。中興の祖とも言われる武人皇帝の。
じゃあ、同じ日に生まれた弟の琲道って言うのは……」
聞いたことが有る。母上から皇室に纏わる伝承を。
『天に二つの陽は照らず。六合に二人の君は無し』
つまり、太陽が二つ無いように国に二人の君主は居ないと言う前置きから始まる戦乱の物語がある。
その昔皇位争いに纏わる大乱が有ってクオン全土を揺るがした。親子兄弟が敵味方に分かれ、皇室さえも二つ並び立ち、戦乱は百年余り続いたのだ。
この大乱は後の世の有り方を大きく変えた。
例えば、大乱の発端が謀反の讒言と拷問による家僕の自白であったため。以降は拷問が疑われる自白は無効とされるようになった。
例えば、オウギノハマから今のオリゾに宮遷りした原因が、刀筆の貴族の蓄えていた私兵による都の中での戦いに加え、大軍を率いて来た弓の貴族達が加わって都の中で全面戦争になったことであったため。以降、刀筆の貴族の私兵は制限され、弓の貴族が都に持ち込める兵の上限が定められた。
そして何より大きく変わったのが、皇帝家に以降双子が生まれなくなったことだ。
神の子孫である皇帝家と言えども人の子であるから、他家同様にそれまでは双子が生まれる事もあった。なのにこの大乱以降、一組の双子も生まれてはいないのだ。
なのにこのリストには、歴代の皇帝陛下の眞名と並んで、同じ日に生まれた人の名前が並べられている。
日付は古い物では千年近く前。一番新しいのが烈火皇帝だ。皇后さまは居らず中宮の名がララで、しかも大のカレー好き。とあるから、カレー革命とも呼べる新メニューの発案者としても名高い烈火皇帝に間違いない。
「え?」
思わず僕の目は滑った。
――――
晋む兄弟の弟琲道、字を攅治と宣らせらる。
こは集め治めるの意なり。
魔物使いとして長じ坐し、萬魔の君と世に響き、最涯ての邦を食す。
善く彼の地を治め、三十余年クオンが禍を鎮めたり。
没年未だ定か為らず。一書に曰く、日蝕の日に高日知らす。
――――
普通皇族にしか使われない用語が目白押しなことからも、彼が何者かは明白。
原文では難しい表現だけれど簡単に訳すとこうだ。
――――
晋む兄弟の弟ハイトウは字をサンジと仰られる。
これは集めて治めると言う意味である。
魔物使いとして成長し、万の魔物の王と世に知られ、最涯ての邦を治めた。
立派にその地を治めたので、三十余年の間、クオンに禍が起こらなかった。
没年は今も良く判らない。ある資料によると日蝕の日に御隠れになった。
――――
魔物使いのサンジ? ……まさかね。
皇帝家の双子と思しきリストとは別に、シャッコウと思われる人達のリストもあった。
こちらの中には、剥ぎ取る者・絵と書を司りし女神アイ・ミューチャ・ニュオニー。つまり新宇佐村で戦ったあのスライムや、ユオリィ・ズゥイジー・ショラン。つまり僕を迎えに来たマッチョスケルトンの名前もある。
「へー」
人ならざるシャッコウには、ほぼ間違いなく眷属が居る。人の子として降って来たシュッコウにも、何かしら眷属が居たり、親衛隊とも言うべき一族が居る。
そんなことを考えながらすーっとリストを舐める中、一人の名前が目に留まった。
千年前の人物で、名前がミィゾル・ウイリアム・カルディコット。
「カルディコットぉ!」
ネルの祖先にあたる人物だ。詳しい事は書かれていないが、カルディコット家の租と書かれ、朱で現子爵家を線で消した横に、現伯爵家と追記されている。
一通りリストに目を通し、次に八角形の金属板に手を触れた時。
『迷っているのか?』
頭の中に声が響いた。反射的にうんと答えると、
『今より一日の許可を与える。板の指示に従って中央制御室を目指せ。
警備の傀儡はお前を通し、道は自ずと開かれる』
「そうしてこいつの導きに従って、ここへたどり着いたのさ」
僕はリアとクリスちゃん、そして警護の神殿騎士への話を終えた。
「こいつから貰った許可の時間はまだ残ってる。その間に遣る事を遣ってしまわなくちゃね」
僕は皆にそう言った。





