待って居た者-01
●物置部屋
周囲に明かりがあるのだから、多分ここも管理通路の一部なんだろう。
幸い敵が来る気配はない。警戒しつつも、
「今ぞ禍の書に捺されし拇を解かん。
甦れ我が力 雷の水。自己治療」
無茶をして痛めた脚を、癒す。好し! この程度なら直ぐ治る。
改めて周囲に目を配ると、少し行った通路の横に鈍色の取っ手を発見した。
中は結構広い部屋だ。村の穀物倉位ある。その中を埃に身長五十センチの埋もれた古びた鎧人形や、どう見ても曰く付きと思われる武器や、これ何に使うんだ? としか言いようのない品々が、まるでゴミ捨て場のように散らかっている。
四角い部屋の三面に、長椅子のように三つの箱が置かれている。
面に『神子』と書かれた一つを開けると僕にはガラクタにしか見えないアクセサリーの様な物が、沢山の紙が入っていた。
文字が書かれた物なら、何か手懸りになるかなと思い漁っていると、
「何だろう?」
二つ折りにした紙に掛かれた丸っこい字。
「受け目録? どこかの流派のお免状かな? ……誘い受け、襲い受け……乙女受けに男前受けにクール受け……。名前だけ並べられても、僕解んないや」
とかく流派の免状と来たら、習得した技の名前を並べているだけのものが多いと聞いている。多分これもそうだろう。
そんな部外者には意味の無い物が次々発掘されて行く。
『枢機卿』と書かれた別の箱の番だった。色々な筆跡で記された紙の束。穴を開けて閉じ紐で綴られた本の様な物が沢山。
どうやら神官長日記の様だ。
「これは?」
僕の目に止まったのは蒔絵細工のとても軽い箱。その中には手書きの楽譜が入っていた。
酷い癖字の悪筆で譜面は読めるけれど歌詞が……。
衆伏わぬ者・和せ・寇・輩・玉沢・光宅らす・宇。
使っている真名の読みも、普通は使われない訓みばかり。こんなの神殿か一部の刀筆の貴族くらいしか使わないよ。
それでもなんとか苦労して読むと、
――――
♪眼下に開く 肥えた土地 乳と蜜との 流れる地
魔物騒がし 土地なれど いかで恐れん 我が心
御剣と太刀 槍と弓 衆伏わぬ者 いざ討たん
剣の山も 恐れまじ いざひたに討ち 和せや
主が誓われた約束の地を 勇みて進め つわものよ
いざ強くあれ 雄々しくあれ♪
♪主は我が櫓 大盾ぞ 真理の帯を 腰に締め
寇をも遂に 輩と 成し遂げるこそ 誉なれ
愛の礎 固く据え 公義の柱 直く建て
玉沢 光宅らす 一つの宇の 邦と成せ
主が誓われた約束の地を 勇みて進め つわものよ
いざ強くあれ 雄々しくあれ♪
――――
何か手懸りになるかと思い読み解いてみた。だけど聖歌・讃美歌の様なメロディーと合わせて見れば、仰々しいこの歌詞はどうやら神殿の儀礼で使われる聖歌みたいだ。
他にも楽譜は有ったけれど、探し物では無いと蓋を閉じる。
それでも。
「つい読み込んでしまったな」
一緒に入っていた年代記の内容が、母上から習ったものと同じだった。
最後に残った『邪神』と書かれた箱を開けると、見つかったのは真名の書かれた掌サイズの八角形の金属板と読本程の厚さの『邪神奏上報告書』と表紙の有る冊子。
後者を開くと、随分昔の日付と名前の書かれたリストだ。
「シャッコウと思しき人物の名前。それと双子の記録か。え?」
僕の目は、リストから離れる事が出来なくなった。





