真と雷電-08
●クイズ
邪神は十の司教で、司教は十人の弟子。何より気に掛かるクイズの単語。
持ち上げ・右前方に動かせ・右に向ける。
「兄ちゃ?」
遠くでクリスちゃんの声を聞きながら、ぶつぶつと呟いてる積りでカチカチと音を立てる僕の嘴。
何かこう言うの、物語で読んだ気がする。
「そうか! 奇巌城だ」
「解ったのお兄ちゃん」
僕の呟きが声となった時、僕達はまたあの白い空間に居た。
奇巌城の暗号は確か、『斧は旋回す、震える空に。されど翼は開き、人は神の御許へ行く』だったかな?
これは文字の部分を操作して仕掛けを動かすって話だった。
「邪神を持ち上げ、司教を右前方に動かし、弟子を右に向ける。これが操作だ。そして邪神は十の司教で、司教は十人の弟子と言うのは」
そこまで口にした時、
「子供のお金!」
クリスちゃんが答えた。
「そう。邪神がエル。その十分の一のお金のエム、多分これが司教だ」
「そして弟子が十分の一のエムだからエスだね」
キミちゃんが頷く。
「つまりエルを持ち上げ、エムを右前方に動かし、エスを右に向けるんだ。
一番上の一行が、『Learning Management System.』で、わざわざそれぞれの単語の頭を大文字にして居る」
「なるほど。Lの字を持ち上げ、Mの字を右前方に動かし。そしてSを右に向けるんだね」
キミちゃんの声が震えた。
僕達は白い空間を抜け出し、祠の中に立って居た。
「リア姉ちゃ」
「クリスちゃん」
二人は解き明かしを胸に文字を動かす。
「Lが上にずれるよ」
クリスちゃんがカチッ。
「Mが右斜め上に動くね」
リアと呼ばれたキミちゃんカチッ。そうだ思い出したよ。この子はリアちゃんだ。
「最後のSは……右に回せるよ」
色々弄ってクリスちゃんが動かす。
カチッと三度目の音がして十数え終える頃。
カタン。何かが外れる音がした。
「騎士さん。凹みに手を掛けて左に動かしてみて」
キミちゃん。いやリアちゃんが指示した通りに試みると。
「動きます。壁が左に動きます」
護衛の神殿騎士がゆっくりと、襖を開けるように壁を開いた。
するとそこには、
「兄ちゃ? ここにも兄ちゃがいる」
クリスちゃんの瞳に映るのは、難しい顔をして何やら機械を操作している僕。
そうスジラドの姿があった。
壁に映っているのは戦いの映像。ネル様達が苦戦している。
デレックの鎧は剥ぎ取られ、後光のように配したネル様の矢も残り僅か。
二人の表情は疲れ果て、殆ど傷を負って居ないのが奇跡だった。
●新たなる契約
「チカ? いやマコトか。それにリアも……」
突然右の壁がスライドして開いて、チカがリアと神殿騎士達を連れて来た。えーとそこの小さいお嬢ちゃんはクリスちゃんだね。
僕の目がチカの眼と向かい合った時。チカは燃え上がり僕は放電に包まれた。
光が僕とチカの身体を飛び交い。チカの声が頭に響く。
『我は雉火。新約を結ぶ為イズヤが許に戻りし者。
今ぞ諸々の古き約定は廃れ、柵は切れ、唯汝とば契りを新たにせん。
而して後、封神されし禍津神と会え。
剥ぎ取る者アイ・ミューチャ・ニュオニーは偉力の多くを喪えど、
未だ山と地の力を秘める神なり。
今は邪神様の名の下に神殿に従い、穢れを剥ぎ取り浄める神に坐して、
枢機卿の隷下にありて神殿が黄泉を差配す。
剥ぎ取る者。またの名を美と芸術の探究者メランザーナ・スーパロンポッソと申す。
そは今、腐の禁書が鍵を担う一柱なり。
汝シャッコウ、スジラドよ。邪神様は斯く宣らせ給う。
シェイクアップ オア シェイプアップ。
今一度、剥ぎ取る者と相見え、勝て。さもなくば亡じよ』
『随分な内容だね。どうするライディン』
マコトが僕に聞いて来る。
『どうもこうも、やるしかないね』
僕はそう答えた。
『決まったな。では契約だ。
マコトそしてランディンよ。我に続けて唱和せよ』
そう言って誓いの文言をチカは道った。
『古き契約は今死にて、汝の勲に今結ぶ。
我が魂果てて失するまで、汝が魂砕け燃え尽きるまで。
死に死に死にてその後も、生まれ生まれてその先も、七度生まれて我らは契らん』
僕らが声を合わせた時。チカと僕は重なった。
僕は雷の翼を得て、チカなら悠々通れる通風孔に飛び込んだ。





