真と雷電-07
●貴腐人
「そうじゃ、信頼に繋がれた禁断の兄弟が力を合わせて立ち向かう。女童を女子と見まごう兄にして、小柄で屈強な弟と……。むふふ。むふふふふ」
妖しく笑う禍津神。
炎に焼けた身体、千切れし左の腕。殊に鳩尾付近を中心に大口を開け焼け焦げた穴。
なのに。なのに今さっきまでよりも、力を増したような気がする。
「済まぬ。ちと、手加減が過ぎたようじゃ。これからは六枚落ちから二枚落ちに致すとしよう」
水槽より竜のように流れ落ちる水の中に身を入れるや、見る見る修復されて行く禍津神の身体。
「その覚悟と力をば見定めてくれん。我が眷属は蒙かなれど、見よ!
我ここにある限り、汝らは往き蹇む」
チチチチチチ。壁から天井から発する音。水路に蠢く怪しい影、隙間から滲み出る名状しがたき物。
「行くぞ。死ぬなよ孺子」
声と共に高まる殺気。炉の火に翳した鉄の針が赫奕たる光を放つように、禍津神の双眸はどんよりと光る。
駄目! 上から下から右から左から、視界の外を大回りして入って来る触手。
「ほれほれ。力めて身は損なわぬように命じて居るが、弾みで死ぬ程度ならそれまでじゃぞ」
段々と激しさと複雑さを交えて来る攻撃パターン。
「我は言上げせず。唯真を以て圭を用いんと欲す。
用いて大作を為すに利ろしと、今やその道大いに光かなれば
轟け百雷が如く風の雷。拡声」
魔法を成就させ、強い意志と思いを込めて、
「うー、やー、たぁー!」
だけどジンユウやマガユウには効いたこの技も、
「なんじゃ? 気合を入れておるのかえ?」
清々しい程、糠に釘。
「嫌ぁ~! 何よこれ」
触手が絡みついて胸を締め付ける。
ふふふと笑う禍津神は、
「元より慎ましいが、我の理想からすれば今少し剥ぎ取って少年の如くにせねばならぬか……」
なんてとんでもない事を言い始めた。
「は、剥ぎ取るって」
「安堵せよ。傷は残さん。シミ一つシワ一筋残さんばかりか、赤子の如き肌にして遣ろう。
剥ぎ取りの分、身も軽く成るぞえ」
さーっと背筋に冷たい物が走る。なんて嫌な奴。こいつと戦うのは、命以上に大切な物を失う覚悟が必要だわね。
「スジラドはどうやってこんなの相手したんだよ」
斃しても斃しても繰り出される新手。決して相性の悪くない相手である筈なのに、デレックも身を削るような絶望的な戦いをしていた。
「さぁて。我が創作に与力するとあらば殺しはせぬ。血清も遣ろう。主らは言わばおまけじゃからのう」
「そ、その芸術ってーのが嫌過ぎるんだがよ」
「ふふふ。ふふふふふ」
笑いの『ふ』の音に『腐』と言う真名が浮かぶくらい嫌過ぎる笑い。
パーンと禍津神が手を叩くと、上半身裸なデレックのズボンが崩れ落ちた。腰周りや隠し所は無傷だけれど、股下は鼠径部近くまでボロボロにされ、裾が脚の付け根が見えるまで短くされている。
「うんうん。我が眷属よ、良い仕事ぶりじゃ」
配下のスライムを褒めるいやらしい声。
「なぁ。ネル様。俺、逃げていいか?」
弱音を吐くデレック。
「逃がしてなんて、くれそうも無いわね」
幸い、あたしの服は無事だけれど。禍津神の剥ぎ取り宣言が恐ろしい。
●異言の祠
迷宮と言いつつ。ここは人の手によって管理された物だ。その証拠に少なくとも管理通路と呼ばれるここには、要所要所に壁に記号とマジックアイテムの灯りが有る。
僕達は、神殿関係者が異言の祠と呼んでる祠の一つに来た。
「ここの祭神は、左から邪神様・稚さき者の守護神様・武神様となって居るの」
入口のアーチに見た事のある肖像が刻まれている。
「あ! 神殿のお金」
クリスちゃんが声を上げた。確かに子供達に配布されるお金の肖像と同じものだ。
そして祠の正面の壁には、右に丸い凹みがあって中央に、
――――
Learning Management System.
quiz
the evil god is ten bishops.
the bishop is ten disciples.
lift the evil god.
move bishop to the front right.
turn disciple right.
――――
と英文が書かれている。
「えーと。お兄ちゃん。これ判る?」
訳して読み上げるキミちゃん。
――――
学習管理体系。
クイズ
邪神は十の司教なり。
司教は十人の弟子なり。
邪神を持ち上げよ。
司教を右前方に動かせ。
弟子を右に向けよ。
――――
意味深な言葉だ。僕は思案を巡らせた。





