真と雷電-05
●傀儡兵始動
僕が見取り図を送った少し後、ここから移動しようとした時だった。
見取り図に四つ、点滅する点が現れた。一つは僕が居るこの場所。もう一つがネル様達と離れ離れになった場所からそう遠くない地点。だから多分これはネル様達だろう。
管理用通路の上を移動するのは誰か判らないけれど、流れとしてはこちらに近づいて居るようにも見える。
そして最後の一つ。ここから余り離れていない場所から飛び出した光点が、あちこち迷いながらも物凄いスピートで移動していた。
「管理者区画への無資格侵入を発見しました。自動迎撃システム起動します」
キンキンと甲高い幼女の声で響くメッセージ。
誰か知らないけれど、地雷を踏んだな。
「指令センター。誤認誤動作の場合は、直ちにコントローラーでコマンドを打ち込んでください」
声が響く。コマンドと言われても。僕には解んないや。
「百二十秒経ちました。撤回無し。正常動作と見做します。傀儡兵始動!」
「はにゃ?」
音声から何か物凄く場違いな物が動き出したような気がした。けれどもそんなことをしている内に、迷走している光点は管理用通路を移動する光点まで進み一つになった。
新しく現れた傀儡兵と思しき光点は、ゆっくりと管理用通路へと流れて行く。そしてネル様達の光点も同一の管理用通路の中に入った。
(ねぇこれ。結構危ないんじゃないのだろうか?)
僕は新たにネル様達に、電送通信でこう告げた。
――――
迎撃機構稼働。傀儡兵に注意されたし。
――――
●奥を目指して
「ネル様は難しく考え過ぎだぜ。物語でも戦の陣でも、兵は大将を護るように配置されるんだ。
つまりだ。守りを固める魔物を斃して行けば、自ずとボスへの道は拓かれる」
考え無しのようで、意外と真実を突いているかもしれないデレックの言葉。
「そうね。水の流れの中心に向かって言ってる筈だけど、さっきより敵が強く成って来たわ。
ここの禍津神が邪魔してるのよ」
あたしがそう言うとデレックは、
「決めつけるのはどうだろな。単に護りの陣だと思うけどよ」
などと、積極的な妨害とは思ってない様子。でも、でもよ。
「これ、成人の儀の試練よ。だったら悪気は無かったとしても、二の矢三の矢と矢継ぎ早に魔物を送り込んで来て当然じゃない」
ほんとデレックったらお馬鹿さんなんだから。
「ネル様。スライムだ!」
腕に着けた楯を構えて前に出るデレック。楯から斜めに突き出るように、松明が燃え盛る。
実の所、今はデレックだけが頼り。あたしの武器は弓矢だから、片手を松明で塞ぐわけに行かないし、そもそも矢を撃ち尽くしたらと使えない。それに弦が切れる事だってある。当然拾い矢をするし弦の予備もある。だけど一度使った矢が全部もう一度使える訳じゃない。
いくらあたしの弓がマジックアイテムなので、弓自身の補助で力は要らないって言ったって、魔力は使うし時間も掛かるから。そんなこと戦闘中に出来る訳なんかないもの。
背を低くしてドンと楯で体当たり、下からカチ上げて体勢を崩し、魔物の攻撃が届かない一瞬を突いてその身を抉る。いつも通り揺ぎ無いデレックの戦いの型だ。
またもぺしゃりと、核を貫かれたスライムが崩れ落ちる。
武術を識らない人が見たら、信じられない神業に見えるかも知れないわね。
でもデレックの修練を見せたら、あれだけやって出来ないのはおかしいと口を揃えて言うはずだわ。
何千回何万回と繰り返しが生んだデレックの剣術は、鉄より硬いと自慢の腕が全てを物語っている。
今でもあたしの脚より太い腕だもの。大人に成ったらあたしの腰よりも太く成るに違いないわよ。
そんなあたしの賛辞も知らず、黙々と魔物を斃して行くデレック。
「ふぅ~。一先ず片付いたな」
汗を拭う袖先。品下るから止めなさいって言って居るけれど、これはもう癖になって居るみたいね。あれさえなければ少しはかっこ良く見えるのに、残念臭が漂い過ぎよ。
とは言っても、騎士爵の家を継ぐ者は腕が立つ事が一番。顔はまあまあだからもう少し無口になって、女の子に口にしちゃ拙い言葉にさえ気を付ければモテそう。あたしはパスだけれど。
「そこを左よ」
写し取ったさっきの図を頼りに、奥へ奥へと進むあたし達。
「うへーっなんで俺だけ?」
虫の大群に襲われたデレックが悲鳴を上げた。
「デレックが無神経に汗を袖で拭くのがいけないわよ」
「くそっ俺のせいか!」
実は他にも原因がある。
虫って光に向かって来るのが多いし、あたしは風で自分の匂いを遮断しているから。汗の臭いをわざわざ服に染み込ませているデレックに向かうのは当然の話。
ちょっと悪いかなと思ったけれど。これで悪い癖が治るならデレックの為よね。





