真と雷電-04
●今だからこそ出来る事
「あ。だけど戦力大丈夫かな? 僕はこんな身体だし」
そう口にした僕にキミちゃんは、
「今はチカちゃんの身体から、チカちゃんの属性の魔法使えるはずだよ。お兄ちゃんは全て種類の魔力を集める事だけは出来たんでしょ?」
「うん」
「チカちゃんは真名は『雉の火』と書くから、火の力を使える筈だよ。お兄ちゃんの強みの一つが窮理なんでしょ?」
そう言われて、
「あ、そうか。今は自分の身体がマジックアイテムに為るんだね」
「そうよ。使えない魔法についてもお兄ちゃん、習ってるでしょ?」
頷く僕。ならば僕も戦いようが有る。
「それに私とコンちゃんには、護衛の神殿騎士さんが付いてるから。きっと何とかなるよ」
キミちゃんが言うとクリスちゃんも、
「うん。あのお兄ちゃん強そうだもん」
と信頼を示す。
「じゃあ」
と口元をにっこりさせたキミちゃんは、
「巻き込んで最速攻略目指しましょう!」
とちょっと悪人顔になって言った。
●サガかカルマか
「巫女様。その鳥は……」
護衛の神殿騎士に聞かれたキミちゃんは、
「ん? お兄ちゃんだよ」
「お兄ちゃん?」
オウム返しに聞き返す騎士。
「確かにただならぬ霊力を感じますが、お兄ちゃんとは」
「兄ちゃは兄ちゃだよ」
横から断言するクリスちゃん。
神殿騎士の目元には酷く残念な娘、あるいはとても痛い娘、さもなくば本当に可哀想な娘を見るような諦観の彩がくっきりと浮かんだ。
それを知ってか知らずしてか、
「ここから、お兄ちゃんの嘴が指す方向に進むよ」
キミちゃんは有無を言わさず命令する。神殿騎士は静かに
「畏まりました」
と返事をした。
こうして懸念した問題は何も起こらず、護衛の騎士を先頭に進む僕達は地下水道の見取り図に従って最も近い道を行く。
神殿騎士は成人間もない若者であったけれど、その武威はデレックや元の身体の僕よりも上。ここら辺に現れる魔物の類は相手にもならない。
当に一触にして斬ると現すべき、手際の良さだ。
「お兄ちゃん! 口から火炎放射!」
キミちゃんの出す指示に、頭に乗っかって居る僕は、半信半疑で試してみる。
火の魔力を嘴に集め詰め込んで詰め込んでぎりぎりまで押し固め、それを四十五度の円錐状に放射した。
ゴゴゴー! 魔力は青白い炎となって前方を面制圧。瞬間的に炭化した生き物だった物が、パチャパチャと水面に落ちた。
ワニの怪物は水に身を隠して凌いだけれど、
「お兄ちゃん! 火焔を纏って貫いて!」
「ケーン!」
燃え盛る青き閃光となってワニの身体を突き抜けると、一呼吸おいてワニの身体は弾けて飛んだ。
火焔の熱で気化した体液によって内部からバラバラに千切られたのだ。
「ッピ、ピピルルピィ!」
って、出来るんかい! 興奮して羽ばたくと、
「どぅどぅ。お兄ちゃん落ち着いて」
指示して置いて随分なキミちゃん。
「兄ちゃ凄ーい」
手を叩いて喜んでいるクリスちゃん。
「こんな聖鳥様に護られるとは、自分は改めて巫女様の御霊験に感服致しました」
さっきまでの生暖かい目が別の物に変わった。
そしてその後も、護衛の神殿騎士さんの活躍やチカの身体を駆使する僕によってサクサクと進む。
大分慣れた頃だった。
シュッ! 燃え盛る焔の光に虫が飛んで来た。咄嗟に嘴で攻撃した僕は、
「ピピピルピピピッ」
こいつはイケると、嘴の先で潰してもぐもぐごっくん。
潰す感触も咽喉越しの良さも堪らない。とても美味しゅうございましたと余韻に浸っていた僕は、
「えーっ」「……お兄ちゃん」
クリスちゃんやキミちゃんのドン引きの反応に漸くハッ?! と気が付いた。
(うん、これはきっと身体に精神が引きずられてるからに違いない!)
そう自分に言い聞かせる。
「急ぎましょう。お兄ちゃんが人間辞めちゃう前に」
「うん。そうだね」
キミちゃんもクリスちゃんもそして僕も、なるべく急がなきゃ。と心を新たにした。