真と雷電-03
●作戦会議
混乱気味の僕にキミちゃんは、
「だってシャッコウ様は、宿った姿に影響されるんだよ。人に宿れば人の、獣に宿れば獣の、樹木に宿れば樹木の、魔物に宿れば魔物の姿に引っ張られてしまうそうだよ」
と説明してくれた。
シャッコウが宿るのは何も人ばかりでは無いらしい。
「判った。それでキミちゃん。巫女として今の僕の状態をどう見てる?」
「そうだね。状況を整理すると、ここに居るお兄ちゃんに何かがあった。そして地下水道の見取り図送れるくらいだから、お兄ちゃんの身体とお兄ちゃんは無事ってことかな?」
キミちゃんがそう言うと、拗ねるようにクリスちゃんがこう言った。
「むぅ。どっちも兄ちゃなんでしょ? 何が何だか解んないよ」
そうだね。どっちも僕には、スジラドには違いないかだから。
「あまり眞名を口にしたくないけれど」
と前置きして、キミちゃんは二つの人格の名前を告げる。
「ここにいるシャッコウとしてのお兄ちゃんはマコト。真名で書くと真実の真。その忌避読みの音は神殿で使われる異言で『罪』と言う意味のシン。
そして人として生まれて来たお兄ちゃんの眞名はライディン。真名で書くと雷の電よ。
コンちゃんあなたが地の祝福を享けたように、ライディンお兄ちゃんは生まれながらに雷の祝福を享けた雷の申し子なのよ」
クリスちゃんはふーんと言いながら、解っているのか良く解って居ないのか判らない様子。
「少なくとも、ライディンお兄ちゃんはマコトお兄ちゃんよりマシな状況の筈だよ」
とキミちゃんが纏めると、
「うん。じゃあ大丈夫だね」
クリスちゃんはほっと息を撫で下ろした。
「キミちゃん。ライディンの居場所がどこか判る?」
「流石に今の位置までは。でも、魔法で何とでも出来る位の才能あるから多分問題ないよ。
お兄ちゃんったら四歳の時、既に雷の奥義まで使えたんだからね」
「じゃあネル様の方は?」
「奥を目指しているなら、ある程度ショートカットできるよ。お兄ちゃんと合流した場所がここで、お兄ちゃんがネルちゃんと離れ離れになった場所がここだから。例えば……」
キミちゃんは、鏡に映された地下水道の見取り図を指で辿る。
「ここから戻ったら、結構簡単に合流できると思うんだ」
「そうだね」
僕達の作戦会議にクリスちゃんが、
「いいなぁ。クリスも行きたい」
寂しそうに呟いた。するとキミちゃんがクスクス笑い。
「コンちゃん忘れたの? あなた私と一緒に居たのよ」
「そうだった」
「それにマガユウの病に打ち勝ったコンちゃんは、知らない内にとても強く成ってるから。コンちゃんが貰った地の加護は、力だけなら既に地の媛に匹敵すると思うわ」
不意に出て来た新しい単語。
「地の媛?」
以前僕の馬のタケシがクリスちゃんの事を『地の稚媛』と呼んでいたことは覚えている。だけど特に気にして居なかった。
だってクリスちゃんは騎士爵であるウサ家の長女、つまりウサの大姫なんだから。媛と呼ばれても特に違和感はなかったんだ。
「お兄ちゃん。少し話さなかったかな? 捌媛のこと」
「えーと、一つの時代に一人づつしか居ない特別な人の事だよね」
「そう。八種の理、つまり天・沢・火・雷・水・風・山・地の特別な加護を享けた八人の女の子の事だよ。
コンちゃんの力は既に修行を積んだ巫女と同等だよ。だって、ここに来れているんだもの」
でもその理屈で言うと、
「神殿に来る途中、ネル様も連れて来た子達も、ここに来れたんだけれど」
と僕は聞いた。
「詳しく聞かせて」
身を乗り出すキミちゃんに、
「姉ちゃあのね。マッチョなスケルトンさんが来て……」
クリスちゃんと二人して状況を話した。
キミちゃんからそれぞれの詳しい話も聞かれた後。
「多分それは、その禍津神様の偉力だよ。ただ、特別な風の加護を持ってるみたいなネルちゃんは疑わしいけれど」
「そうなの?」
クリスちゃんの合いの手に、
「だって異常だよ、ネルちゃんの弓矢の腕前。それに拡声の魔法でそんなこと出来ちゃうの。風の特別な加護を受けているって証拠だよ」
と口にした。
情報を取りまとめるのに、時間の流れが違うのはありがたい。それでもそろそろ戻らないとやばいのかな?
ここから戻った後の事を考えた時、僕は大事なことに気が付いた。
「あ。だけど戦力大丈夫かな? 僕はこんな身体だし」
神殿騎士さんも居たようだけれど、僕が足手纏いに為りそうだ。





