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腐の迷宮-03

●発病

 顔に出来た赤い斑点。触って判るほどの発熱。

 一番最初に症状が現れたのは最年少のベーブ。他の子達も次々と調子を崩し寝込んでしまった。

 聖域の中の畳敷きの一室に、毛布を掛けられ野戦病院の如く寝かされた子供達。

「はしかに似てますが違う病です。隔離しますね」

 そう僕達に告げたリアは、何やら呪文を詠唱していたが。身体が白く輝き、光が部屋中を満たしたかと思ったら、程無く倒れた。

「ちょっとあんた! あんたも感染(うつ)っちゃったの?」

 そう言ったネル様が直後に意識を失い、そして僕も……。


 あれ? まただ。また真っ白な世界だ。だけど今回もちょっと違う。

 僕が立って居る透き通る床。その下にさっきまで居た部屋が、上から見降ろす様に見えている。

 ネル様や僕を揺す振るデレック。

 でも、あれ? 倒れたリアの身体には赤い斑点がはっきりと見えているけれど、ネル様や僕にはそれが無い。

「スジラド。これやばくない?」

 気が付くと、ネル様が隣に立って居た。


 下ではデレックが、汗を拭いてやったり吸い口でお水を飲ませたりと、子供達を介抱している。

 今回しっかり音も聞こえているから、何が起こっているのか一目瞭然。

「ねぇスジラド。デレックやっちゃったんじゃない?」

「うーん。だけど本人、全然気が付いてないよ。ほんとデレック鈍いんだから」

 僕が肩を竦めるとネル様は、僕を恨めしそうな目で見つめて、

「はぁ~っ。……デレックもあんたに言われたくないでしょうね」

 と大きくため息を吐いた。

 僕、何かやったっけ?


 リアも僕もネル様も倒れちゃったから、デレックは当に孤軍奮闘。必死で子供達の皆の看病をしている。

 女の子の着替えなんて、裸を見ないように気を使っていることは解る。でもなまじタオルで目隠ししてやるもんだから。何度もラッキースケベで許される範囲を越えて、

「デレック、ソレハ ナインジャナイ?」

 ネル様プンプンのシーンが何度もあった。


 こうしてデレックが懸命の看病をしていると、やっと駆け付けてくれた神殿の人達。

 だけどどんな病気かも判らず飲ませる薬は解熱剤や鎮静剤。根本解決には至らずに手を拱いている。


「助けなきゃ」「でもどうやって?」

 顔を見合わせる僕とネル様。すると、

「どうしたライディン。そしてタツミのソンなるコーネリア」

 この声は、何度も僕を助けてくれたあの声だ。

「邪神様?」

 僕は問う。だけど問いに応えは無くて唯一語。

「助けたいか?」

「助けたい!」

 僕がはっきりとそう言うと、

「叶えよう。されど子等を救うは汝なり」

 答えは返るが、

「どう言う事よ!」

 思わずネル様が言い返した通り、どうして良いのか見当も付かない。

 すると声は、こう言った。

「神殿の地下深く、穢れし黄泉の路を辿れ」

 何の事か判らない。

「だからどう言う事よ」

 ネル様に返された答えは、

「汝らが子達を救うを以って、試練の達成と成す。

 行けライディン! そしてタツミのソンなるコーネリアよ」

 その声と同時にネル様の足元に大きな穴が開いた。


「えー!」

 落ちて行くネル様。

 入れ替わりに突然下に見えるネル様が起き上がる。ネル様が口を開いた瞬間、僕の足元にも穴が開いた。

 そして身体が浮き上がる感覚と共に、僕もその中に吸い込まれた。


●神託は降りた

「やべーよ。マジやべーよ。みんな倒れたー? どうすりゃいいんだー!」

 連れて来た子供達が皆病気で。ここの巫女さんも感染して。ネル様もスジラドも倒れちまった。

 魔物や敵なら兎も角。病気なんて俺なんも出来ねーよ。


「しっかりしろお前ら!」

「兄ちゃ、暑いよ」

 意識が朦朧とした、全身寝汗のクリスちゃん。俺の事をスジラドと間違えている。

「判った」

 滲む汗を湯に漬け絞った濡れタオルで拭き、毛布をもう一枚掛けて遣る。


「あたい、駄目かも」

 まだ意識のあるミサキだが、普段の言動から見て余りにも弱気。

「やりたいことがあるって言ってただろ!」

 叱咤するが、その声に反応した巫女さんが、

「お兄ちゃんと結婚したかったなぁ」

 と今にも死んでしまいそうなことを口走り、ミサキも

「あたいも」

 とか細い声で口にする。なんでスジラドあいつだけが、女の子の好意を受けるんだ。そう割り切れない思いを胸に描くが、病人にきつい言葉は掛けられねぇ。

「大丈夫だ、ちゃんと成人したら結婚出来る!」

 と力付ける。

「ほんと?」

 と聞き返す巫女さんに、

「ああ。悔しいが男だからな、甲斐性があれば何人でも嫁に出来る」

 と答え、

「あたいは?」

 と消え去りそうなミサキにも同様に、

「ああ。悔しいが男だからな」

 と吐き捨てるように返した。


 何だよ。スジラドばっか不公平じゃないか? 可愛いと思った巫女さんは、あいつにお兄ちゃんとべったりだし。

 っと、女の子ばかり介抱してんじゃ、スジラドの事とやかく言えんよな。


 世の中の不条理を恨みつつ、目隠しをして女の子の着替え。やっぱ俺って目に頼り過ぎか。見えねぇともたつき過ぎる。

 えーと、あれ? この感触は……。

「兄貴のえっち」

 非難した口調じゃないけれど、居た堪れなく為るミサキの一言。

 おまけに巫女さんになんか、終わって目隠取った後で、

「解ってるよ。君に疚しい気持ちが無い事は。でも、後でお兄ちゃんに殴られてね」

 なんて病んだ目で睨みつけられ、抑揚の少ない低い声で言われちまうし。

 なぁ俺、どうすれば良いんだよ。


 そうこうする内に、様子を見に来た神殿の人が、口の周りを布で覆った応援を呼んで来てくれた。

「これは魔物が原因による熱病のようだ。恐らくはマガユウ、マツガ、エキタニクグのいずれかだろう」

 やっとやって来た医者はそう診立てた。

「魔物のせいなのか?」

「君、この数日で熊か蛇か蛙の魔物に遭わなかったか?」

 覚えは充分にあった。


 結局根治治療は無理なので、解熱剤や鎮静剤で症状の緩解。甘塩辛い水を飲ませて脱水を防ぎ、後は体力勝負と言うか運命に任せなければならない状態。

「魔物の毒に対する血清はその魔物に対応していなければ効果は薄い。

 大人であれば体力もあるし多少型の違う血清でも効果はあるが、子供達の場合はそうはいかない。

 特にモノビトとして扱われ普通の子供よりも辛い環境に置かれ、長距離を移動して疲れ果てている状態では。

 巫女様も、無理して命を繋ぎ止める荒業を行ったため、今は予断を許さぬ状況だ。

 全く、これだけの人数に銀兎なんて、お命を縮めかねません」

 苦々しく言い、医師は頭を横に振った。


 それでもやっと皆の症状が落ち着いて、一息着いた頃。ネル様がいきなり身体を起こし、神が掛かったように朗々と()った。


――――

 神殿の地下深く、穢れし黄泉の路を辿れ。

 ()の迷宮の奥深く、黄泉の(はたて)封神(ほうしん)されし、禍津神(まがつかみ)を訪ねよ。


 身の穢れ、黄泉(よもつ)の穢れ物多(ものさわ)に、(よろず)(わざわい)掃き(いだ)

 病を喰らいてこれに勝ち、毒を喰らいてこれに克つ。全てを喰らいし地の神ぞ。


 されど聞け、(あた)(あた)()てこれを討ち、毒は毒にぞ制せらる。


 (すさ)()よ。

 七難八苦をなれに課す、分け入り踏み越え、さかずきを祓え。

――――


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