表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
135/308

腐の迷宮-01

●出迎の人

 チャック様に先導された前回と異なり、僕達の二度目の神殿への道はすんなりと進んだ。

 ハッキリ言うと。数の暴力。七歳の儀の連中を十人も連れて行くのだもの。資金的には余裕綽々。

 僕が口を出したのは、一番少額なエスの半分と今夜の宿代だけを預かっただけ。

 でもそんなことをしなくとも、お金と言う物を始めて使うような子達だったから、意外と配給されたお金を手元に残していた。

「どうしたの? もっと使って来ていいよ」

 とネル様は言うけれど、

「でも……」

 言葉を濁す子供達。

「遠慮すること無いのよ。使い切っても大丈夫な様に、皆のお金預かって居るんだから」

 尚も促すけれど、

「いい」

 と皆が皆、異口同音の返事を返す。ネル様が自分に懐いているベーブによーく尋ねると、ベーブは言い難そうにこう言った。

「お金は大事だよ。お金が有ったら僕……」

「有ったら? どうしたのよベーブ」

 思わず問い詰めてしまうネル様。

「男の子でしょ! はっきりなさい」

 宥め(すか)して脅しも掛けて、やっとのことで口を開いたベーブは一言。

「お金が有ったら、母ちゃんといれた」

 ぼそりとこう呟いた。

「皆も、そうなの?」

 子供達を見渡すと、頷かない者は一人も居ない。

 そうだよね。この子達は親や村からお金で売られちゃったモノビトなんだもの。お金がなかったから親や故郷から引き離されて、今こうしてここに居る訳で。そんな子がお金を無駄遣いなんか出来る訳がない。


 そんなこんなで、ただでさえ大人数故の余剰が働いて、途中の関門を次々とクリア。

「前来た時の苦労は何だったんだ!」

 デレックが余りの簡単さに大空に向かって吠える程だった。


 そして遣って来た神殿。

 出迎えの人の中に猫耳帽子の女の子がいる。年の頃は僕と同じくらいだ。

「ピュー! 可愛い子だな」

 思わずデレックが口笛を吹いた。

「ああ言うのがデレックの好み? 耳付き帽子なんて、まるでちっちゃな子供じゃない」

 マンガにするなら目がハートマークになって居そう。鼻の下を伸ばしたデレックをネル様は物凄く醒めた目で観る。


 石段の麓まで来ると、猫耳帽子の女の子はぴょんぴょん飛び跳ねながら手を振って来た。

「お兄ちゃ~ん! こっちこっち」

 って言っている。

「はーい」

 手を振り返すデレック。伸ばして驚く鼻の下。

「お兄ちゃ~ん! こっちこっち」

 こっちへ向かって駆けて来る女の子。


 デレックは石段を駆け上り、

「君の名は?」

 と、間近に来た女の子に声を掛けようとしたが、

「お兄ちゃ~ん!」

 すっと体を躱しすれ違って駈け下りる。


 ああ。この子がケットシーの巫女だ。

「うわわっ!」

 こうしてこうすりゃこうなると、判っていたのにいたのにやっぱりこうなった。

 勢い良く飛び込んで来たケットシーの巫女は、その勢いのまま僕に体当たり。バランスを崩した僕はそのまま真後ろに倒れる。

 幸い、予想出来たので後ろ受け身が間に合って、頭を石畳に叩きつけずに済んだものの、続けてお約束のお腹の上にボディープレスまでは防げなかった。


「ごほっごほっ。相変らずだね。ヴィクトリア」

 誕生日が後なだけの同い年の筈なのに、僕の事をお兄ちゃんと呼ぶこの子の名前はヴィクトリア。本当の愛称はトリアだったけれど、まだちっちゃかったんで自分の事をリアと呼んでいた子だ。

 リアは目を見開いて僕を見直し。

「お兄ちゃん。本当に思い出したの?」

 と聞いて来た。

「うん」

「じゃ。じゃあ! おばさんが呼んでたお兄ちゃんの名前は?」

「ジャック」

 一瞬の硬直。能面の様な表情。それがまるで石化が解けるかのように、驚き・興奮・悲しみ・悦び。

 顔を襤褸のようにくしゃくしゃにして泣きながら、

「お兄ちゃんだお兄ちゃん。やっぱりリアのお兄ちゃんだ。……ぐすん。逢いたかったよぉ~!」

「ほんとにリアは泣き虫だなぁ」

 今だって、昔だって、僕より上背があるって言うのに。僕にしがみ付いて僕の胸で泣く。


「ちょっとあんた! いきなり何すんのよ!」

 ネル様が声を荒げた。

 その剣幕にリアは、

「やっと逢えたんだよ。お兄ちゃんに」

 と口を尖らせるが、

「あんた、スジラドの妹? それにしちゃ、随分背が大きいわよね」

 ネル様は疑わしそうな目を向ける。そして、

「スジラド、あんたこの子と何時知り合ったのよ? あたし、こんな子知らないんだけど」

 問い詰めるネル様の声は、なぜかとっても必死に聞こえた。

「って、言われても……。あ、デレックが石に成ってる」

 見上げると、石段の真ん中で呆然とデレックが立ち尽くしていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
こちらもどうぞ。

転生したらタラシ姫~大往生したら幕末のお姫様になりました~
まったりと執筆中

薔薇の復讐 作者:雀ヶ森 惠


ブックマーク・評価点・ご感想・レビューを頂ければ幸いです。
誤字脱字報告その他もお待ちしています。

【外部ランキングで本作品を応援】(一日一回クリック希望)


メッセージと感想(ログインせずに書き込み可能)にて受け付けます。

ヒロインのビジュアル
ヒロインたち
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ