マッチョなアイツ-09
●スケルトンの試練
目覚めると僕はネル様に膝枕されていた。辺りは元の石ころの多い街道横だ。
ネル様の視線の向こうに、ちょっと暑苦しいポージングをするマッチョスケルトンが立っていた。
今は骨だけの姿ではなく、筋骨隆々の身体である。
「これで三つの封印の内、先の力の封印に続いて技の封印を解き放った。邪神様の命により君の力を試させて貰う。さあ、存分に我と死合え。我に殺す気は無いが、遠慮をしていると命を落とすぞ」
癖なのか種族の特性なのか判らないけれど、話ながらポージングを繰り返す。
「技の封印?」
「そうだ。過去世の君と今世の君が統合しつつも分かたれている。先ずはそれを思い起こせ。さすれば自ずと会得するだろう」
二つの自分を意識した時。
「確かにね。死合いの件は了解した」
「僕と」「俺で」
「「存分に戦おう」」
この世の中で最も解り合える僕と俺。スジラドと言う人格の中に融合していたライディンと真がスジラドの中で二人の意識に分かたれた。
「僕が制御を」「タイミングは俺」
一人では到底成し得ない剣魔融合の並列処理。二つの頭脳で行われるギョウの特化とメグリの特化。
初めに僕は、周囲に強力な磁界を発生させた。
「やるな。鉄拳が熱を帯び出した」
マッチョスケルトンの顔が笑って見える。当たりに黒雲のように漂う砂鉄の靄。それがパチパチと火花を散らす。
シュンシュン! 撃ち込む鉄釘のスピードが、威力がかなり上がって居る。
「確かに封印は解かれたようだ」
マッチョスケルトンに躱されはしたが、釘は命中した道標近くの岩に根元までしっかりと食い込んでいる。
「行くぞ!」
唸る鉄腕の凄まじさ。鞭の様な音を立てる振り下ろしの手刀。
「えぇい!」
僕は釘を撃ち込んだ岩を、磁力制御で引き寄せた。そして同時に繰り出した掌底で、マッチョスケルトンの腕を挟み込む。
カシャン! 攻撃そのものが防御を兼ねた空手で言う交差法。攻防一体の僕達の攻撃に、マッチョスケルトンの右腕は砕かれた。
「どうだ!」
「ああ、筋は悪くない」
我ながら違和感を感じるけれども、ドヤ顔の僕達に平然と答えるマッチョスケルトン。
余裕を保つだけあって、
「だが同じ拍子では喰らわんよ」
続く二撃目は、すっと半歩スライドした体捌きで、左腕一本で止められた。
「どうかな?」
右腕健在ならば、人体の作りを無視した角度でマッチョスケルトンの繰り出す右回し蹴りに、敢え無くカウンターを喰らって居ただろうが、腕一本のハンデは大きい。
引き寄せた二つの小岩の起動が交差する。弾かれて軌道を変えた一弾に僕達は膝蹴りを合わせた。
「ちっ。やるな」
右腕と右足を失った状態でなおも軽々と舞うマッチョスケルトンを前蹴りで突き放して距離を取りつつ、まるで光の国の巨人の必殺技のように、シャーと言う音と共に浴びせる橙赤色の光。
この技も進化してる。今までのは単に俺の知識でイメージした、電荷をぶつけるだけの物だった。けれど、今は僕が練り込んだ魔力と合わせての攻撃だ。見た目はあんまり差が無いけれど。
確かこの色はカルシウムの炎色反応だったな。ふとそんな知識が頭に浮かんだ時、
ドドーン! 光を浴び続けたマッチョスケルトンが爆発した。
「怖い怖い。見た目の差はなくともアンデッドにすら通じる魔力的な物理攻撃か。
これで聖なる属性とか付加されてたら本当に死んでたよ」
空中で組み立てられる骨と骨。今の技で再び肉の姿を剥ぎ取られたマッチョスケルトンは、頭蓋骨をカタカタ鳴らして愉快気に言った。
「合格だよ君。これならよもや簡単に死ぬことはあるまい。だから君に邪神様の試練を受ける資格を認めよう。
それにしてもやってくれたよ。凄い技だ。我は暫く受肉出来そうも無い。
間も無く戻って来る子供達にこの姿を見せて怖がらせるのも拙いな。だから我は、一足先に神殿で待って居る。今の君なら大抵の魔物も一人で対応できるだろうから」
宙に浮かんだまま滑るように離れて行くマッチョスケルトンに、僕は手を振り、
「俺は一人じゃないから」
と返す。
「色んな意味でそうだな。君は恵まれているな、もう一人の君と違って」
マッチョスケルトンは、そう残して立ち去った。





