マッチョなアイツ-04
●懐かしい人
ライディン? それが僕の本当の眞名だとだけは知っている。
「試練に先立ち。引き合わせる者が居る」
クィさんはそう言って、子供達と同様に僕に向かってバトンを振った。
一瞬僕の目の前がぐらりと揺れて、上から押し付けられるような感じを覚えた。
取り立てて贅沢な調度はないけれど、出来の良い家具やカーペット。石の壁に明り取りの雲母の窓。
男爵クラスの貴族の館の一室。僕はそう思った。
そして僕の目の前に立って居るのは記憶に無いけれど、四歳位のズボンを穿いた子供を抱いた十代後半の女の人と、サーベルを吊るした二十代前半の男の人。三人はどこか懐かしい気がする。
そしてその前に居る、容姿も年恰好も似通った二人の少年。
全員身体にピッタリの質の良い服地の服を身に着けていた。
ええっ? てっきり、僕のお父さんとお母さんが出て来ると思ったんだけどなぁ。
「誰?」
と尋ねると少年の片割れが、
「僕の事を宜しく」
と言ってすーっと消えた。
続いてもう片割れが、
「やれやれ想定外だよ。全く」
と言い、複雑な表情で消えて行く。
二人が消えると大人の二人が
「私たちはあなたの両親ではないけれど」
と言いながら進み出てた。
「……やはり覚えていないのだな」
「仕方ありませんわ。ショックでしたもの」
会話する二人を見ていると、
「ラァ兄ちゃん! うんとね、アリーね、とってもお話したかったよ」
腕に抱かれた子供が僕を見て呼んだ。
誰? と思ったけれど。自分の事をアリーと呼ぶ子供の顔をじーっと見ていると、
「アレクサンドラ?」
懐かしさと共に口をつく名前。
「うん!」
元気な返事が返るのを聞きながら、僕は物凄く違和感を感じた。だってアレクサンドラは女の子だった筈なんだもの。
アリーとの取り留めのない会話。そう言えばそんなこともあったっけ? と思いながらも不思議と思い浮かぶ、子供同士の他愛もない遊びや冒険の話。
「そう言えば、一緒にダンス踊ったね。アリーったら、お化けみたいなお化粧して得意になってたよね」
「ラァ兄ちゃん酷い。そこは可愛いって言うんだよ」
歳に似合わぬおしゃまな会話。
懐かしさと違和感がごちゃ混ぜになった、言い知れぬ不安。そんな中で会話は続く。そして、
「アリー。もう時間だよ」
と、男の人が話を止める。
「えー。パパ。もっとお話しして居たいよ」
アリーのパパは首を振り、
「いけないよ。これ以上だと、ラァ兄ちゃんを連れて行ってしまうからね」
諭す様に告げると、アリーは聞き分け良く、
「うん」
とお返事をした。
「またお話しできるよ」
僕がそう言うとアリーのママが、
「そうですよアリー。邪神様がお望み給うなら、きっとまたお話出来ますよ」
優しく微笑む。
「ではまた、邪神様がお望み給うなら」
「バイバイまたね~」
手を振るアリーのパパとアリー。アリーのママも僕に向かって、
「我が子以上に愛していました」
と告げて去って行く。その姿が滲んで、虹の光を帯びて揺れる。
「スジラド」
気が付くと、僕はネル様に抱き締められて頭を撫でられていた。
「悲しい時は泣きなさい。あたしは決して笑わないから」
なぜだろう? 良く判らないままに僕は泣いていた。





