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マッチョなアイツ-02

●押し込めていた物

 理解が後から付いて来る。一瞬に仔熊の内部が破壊されてゲル化し、血袋と成って中味をぶちまけたんだ。

 今の動きに、僕もネル様もデレックも何も反応出来なかった。


 そいつはゆっくりともう一匹の仔熊に近付く。あ、始末する気だな。と僕にも判った。

 僕はまだお乳を飲んでいる仔熊だから、人の肉の味を知らないから今の所無理に殺す必要までは感じていない。しかし、だからと言って成長したらこんな巨大熊になるのだから無理して助ける気にもなってない。

 顔色を見る限りデレックもネル様も同様。だから彼の邪魔をする気も起きなかったので止めなかった。


「止めて!」

 案の定、遮る様に割り込む子供達。

「退いてくれないか。我は神殿に属するものだ」

 大男は仔熊に向かう歩みを止めた。弱った様な眼差しで。


「この人。悪い人じゃないですよ」

 シレーヌちゃんが大男の肩を持ち、僕も、

「たとえ赤ちゃんでも危険な動物だよ」

 とシレーヌちゃんを応援。すると怒鳴る様に、

「えー! だってこの仔、何もしてないよ?」

 言い張るミサキちゃん。僕は声のトーンを下げて、

「掠っただけでビルくんのほっぺ、血が出たよね。まだほっぺだったから良かったけれど、首だったら多分死んでたよ」

 と、猛獣の危険さを説明する。


 実際、ビルくんの傷の深さは首なら頸動脈を断ち切る所か、喉笛を切り裂く程の深さだったんだから。

 ナオミさんが居ないから、高度な治癒魔法は使えない。だから場所が首だったら、僕達にはお手上げだ。これが手足ならば、深い傷を受けた時心臓に近い部分を縛って血流を止める荒業が有る。だけど首でそれをやったら死んでしまうのは間違いない。


「デレック。仔熊を」

 ネル様の指示でデレックが、仔熊を抱いて抑え付ける。そしてネル様は子供達にこう言った。

「あなた達で話し合って決めなさい。生かすでも殺すでも、あたしはどちらでも構わないわ。今の所、あたしやデレックやスジラドならどっちでも対処出来るんだから。あ、スジラド。殺すに賛成はシレーヌだけだから応援してあげて」


 うん判ってたよ。どちらも最初に結論があるから、自分の結論を邪魔する事に反対するんだって。

 子供達は朝ご飯の事さえ忘れて喧々囂々。なんだか小学三、四年生の学級会を見ているよう。


「あ、オラに言われても……」

 怪我をした当事者なのに、上手く意見を口に出来ないビルくん。


「エルペスさんだって、お兄さんが魔物に怪我させられ無かったら売られなかったですよね? ベーブだって、村が魔物に襲われなかったらお父さんお母さんの一緒に暮らしてたんでしょ?」

 目に一杯涙を溜めながら孤軍奮闘のシレーヌちゃん。


「確かにね」

「ぐすっ……ママぁ~!」

 今ので気拙そうに口を噤むエルペスちゃん。仔熊を可愛いからと庇って居たベーブが親を思い出して泣き出した。


「おいら思うんだけど、今の内から仕込めば安全な獣になるんじゃない? 世の中には魔物使いって人も居るんだからさ」

 ワンダちゃんが、魔物使いに預けようと提案する。専門の人に任せれば、人を襲わない熊になるんじゃないかと言う。


 皆結構感情的に熱くなってる。多分だけれど、自分達を害さない大人が近くに居ることで安心した結果爆発したんだろうなあ。


 子供達のやり取りを大男は黙って見ている。しかし一向に埒が明かないので少しイラ付いた感じで、

「参ったな」

 と呟いた。


 うーんなんだかなぁ。

 道着越しにも判る、ピクピクした筋肉の動き。悪い人じゃないけれど、怪しい人確定。何でこの人、いちいちボディービルのポーズを取るんだろう?


「まあいいか」

 大男は子供達を脇に置いて、

「待つ間、熊を解体させて貰う」

 大熊に近寄ると、

「ホーウァタァ!」

 抜き手を熊に叩きこんだ。そして只の素手の手刀が見る見る熊の毛皮を剥いで行く。

「見つけた」

 そう言って紅くドロドロした物がこびり付いた手を僕達に見せる。

「魔石だ。これがあるのは魔物に限られている」

 ザボン位ある大きな魔石。


「魔獣……だったんだね」

 仔熊を助けようとする側だったハックが顔を伏せる。

 大男は笑顔を作り、

「魔物でも熊だから胃袋と胆嚢と肝臓は薬になるぞ。

 魔獣部位だから、きちんと処理した毛皮は防具の材料として高く売れるし、牙や爪は武具の素材になる。(あぶら)は弱い魔獣や獣除けのロウソクになる。


 斃したお前らの物かもしれんが、お前らではどうしようもないだろう。

 我はこれをお金に変えることが出来る。


 どうだ? 仔熊のことは脇に置いて、死んだ魔物を捌く作業を手伝わんか?

 服からして、お前らはモノビトだろう。自分自身を買い戻す良いチャンスだぞ」

 そう子供達に呼ばわった。


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