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敵討ち-03

●ネル班

 あたしは左手に弓を持ち、背中と右腰に矢筒を身に着け警戒する。

 背中の矢は返しの着いた征矢(そや)。腰の矢は先に三日月を取り付けたような狩俣(かりまた)の矢。

 状況に応じて矢を使い分ける。それとは別に合図の為の鏑矢を二本持って来ていた。


「お姉ちゃん。大きさこのくらい?」

「そうよ。ベーブが両手組んだ位の大きさにしてね。荷車の台の袋にちゃんと入れて行くのよ」

「うん」


 あたしの班は武器と食料の調達が仕事。四歳のベーブでも石拾いくらいは出来るし、この子、あたしに懐いちゃって離れたがらない。

 ちょっとウザいけれど、慕われて悪い気はしないのよね。


「エルベス。シレーヌ。調子はどう?」

 弓矢を手に油断なく辺りの様子を伺いながら声を掛ける。

「沢山採れましたわ」

 エルベスが手を振って、背負い篭一杯の食べれる野草をあたしに見せる。使う鎌と背負い籠は拝み小屋に残って居た物だ。

「採れましたぁ!」

 シレーヌの方も順調だ。


「お姉ちゃん!」

 ベーブの声に目を向けると、繁みから飛び出す一匹の野ウサギ。

「任せて」

 狩俣の矢を番えて狙い撃ち。矢はウサギの後ろ足を射切って落とした。

「ベーブお願い」

「うん!」

 走って行き、拾い矢と獲物の回収をして来るベーブの役割は当に猟犬。

「見てみて大きいよ」

 程無く右手に狩俣の矢。左手にウサギの耳を確り掴んで戻って来た。尻尾が有ったら無茶苦茶振って居るような誇らしい目をして。誉めて褒めてと言っている。


「おりこうさん」

 あたしはウサギを受け取ると灌木に吊るして咽喉を切り血抜きする。別に熊を呼び寄せても構わない。疎らな灌木しかない見晴らしの良い高台だから、あたしは弓矢で狙えるし。熊から逃げる時だって下り坂はとても有利だもの。


●クリス班

「綺麗に切るね。これなあに?」

「……」

「蝶々? ほんとだ」


 カヨちゃんは無口。でも何を言いたいのか良く判る。普段は無造作に切る赤カブだって、こんな風にすればとても綺麗。

 こうしてクリスはかよちゃんとお昼の用意。

 オリザを炊く竈の横で、お昼のおかずを作っていると、


「いい匂いだね」

 匂いに釣られて兄ちゃ達が遣って来た。

「兄ちゃ! クリス今ね、刻んだアザミ根を金平にしてるの。そっちはどう?」

 アザミ根は炒めると良い香り。アザミって野菜は上はトゲトゲの雑草みたいだけれど、太らせた根っこはとても美味しいんだよ。


「これなぁに?」

「兄ちゃ知らないの? イナゴマメだよ。畑に少し残ってたの」

 クリスが答えると兄ちゃは、微妙な顔をして、

「食べれるの? 家畜の餌だと思ってたんだけれど」

 って聞いて来る。

「甘みがあって、香ばしくて、お菓子にすれば美味しいんだよ」

「へー」

 兄ちゃ信用してないな。

「これとお砂糖とミルクと牛脂。ちょっと百合根を加えたら、ウサ家秘伝のお菓子になるんだよ」

「そうなんだ」

「じゃあ。今から作ってあげる。他の材料は少しだけなら持って来てるから」

 その昔、(ちいさ)き者の護り神イクイェヂ・ホート・マーメィ様が伝えたと言う、甘い香りを貯えた、麗しのお菓子なんだからね。


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