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敵討ち-02

●スジラド班

 僕の班は、クリスちゃんが魔法で荒く作った陣地を仕上げるのが役割だ。作業途中に熊が来たら、取り敢えず土壁を盾に防ぐ事になって居る。このため概して投擲の上手い子が集められた。


 メンバーはデリラちゃんとメグちゃん。そしてビルくんの三人。

 デリラちゃんは九歳の女の子。魔法に興味津々で知りたがり屋さん。ネル様によると昨日見てあげた範囲ではお勉強の方も呑み込みが早く、一番熱心だとか。

 メグちゃんも九歳の女の子。裁縫が特定で髪弄りが大好き。手先はネル様も嫉妬する位器用な子だと言っていた。

 ビルくんは年下の七歳だけど体は先の二人よりも大きい。普段はぼーっとしている感じのする子だ。


「スジラド様。ゴザを被せ終わりました」

 デリラちゃんが報告して来た。

 元は魔法で掘った塹壕の土を移動させただけの壁だ。このままではちょっとした間に合わせにしかならないので、補強が必要。僕は葉っぱの着いた木の枝や拝み小屋の床に敷かれていたゴザを運び込んで被せて貰う。そして上から大木槌を叩きつけて土壁の表面を突き固めるんだ。

 これと合わせて壁の上に移動する斜面を六ケ所。鍬を渡したビルくんに作って貰う。七歳ながら女の子達と並んでも体格の良いビルくんはかなりな力持ち。その分燃費も悪く一食に丼飯十杯は食べそうな大喰らいなんだけれど、大人顔負けの働きをする。土木作業では多分僕よりも役に立つ人材だ。


 その働きに目を(みは)ったデリラちゃんが、

「ビルくんあなた力持ちよね。普段ぼーっとしてるから頼りないと思ってたけれど、私見直しちゃったよ」

 背中をバンバン叩きながら褒める。

「そんなに褒めても、オラ何も遣るもんねぇぞ」

「馬鹿ね。あんたが凄いから誉めてるのよ」

「まったぁ~。オメも人を揶揄(からか)うの大概にしぃや」

 バンと背を叩き返すと、体の軽いデリラちゃんは一溜りも無く転がった。

「あ、あなたねー!」

 当然怒りの声を返すが、

「またやっちまった。どうしてオラこんなんだろ」

 気の毒なほどしょげるビルくん。


「えーと。スジラドお兄ちゃん。メグちゃんも出来たよ」

 とある毛虫の腸をゆっくりと引っ張りながら酢に漬ける。すると釣り糸に最適な丈夫な糸になるんだ。それを外科結びに連ねて棒に巻き付けて行く。百匹ほど居た毛虫は全て糸に変わって居た。

 この子も逞しいね。人によっては虫に触るのも駄目って言うのがあるのに、全然怖がらないんだから。

「繋ぎ目が目立たないなんて器用だね」

 勿論、形を整えてから酢に漬けた効果もあるが、結び目が緻密で丁寧だからだ。物凄く手先が器用だから、修行を積めば一流の職人に成れると思う。

「次は針金を加工して」

 簡単な道具を渡して後を任せ、僕はビルくんデリラちゃんと再び壁の強化に取り掛かった。

 

 慌てる必要は無いけれど急がないと。それぞれの班がお昼過ぎまでに割り当ての仕事を終わらせないと、疲れたまま熊と退治することに為ってしまう。


●デレック班

「兄貴ぃ!」

 ワンダが俺を呼ぶ。

「どうした?」

「これ、熊の足跡だ。新しい」

 俺では見逃す痕跡を、ワンダは簡単に見つけやがる。流石猟師の息子だ。


 俺の班は、村周辺の熊の活動領域と、縄張り巡回の動きを掴むために来ている。熊と鉢合わせしたら、俺が戦っている間に三人を逃がす。逃がして陣地へ応援を連れて来て貰う手筈になって居る。


 ワンダが指でなぞって見せる足跡は、一目でこいつが怪物だと判るほどに大きい。

「子供なんて丸呑みにしそうなサイズだよなこれ」

 丸太の椅子位の大きさがありやがる。


「丸呑み? ねー。早く帰ろうよ」

 頻りに辺りを伺いながら、ハックが俺の腕を引っ張る。悪く言やぁ臆病だが、良く言えば慎重ってことだ。

 昨日武術の手解きしてやったんだが、筋はかなり良い。概して鼻っ柱の強い奴は早生だが、一皮も二皮も剥けないと程々の所で行き詰まる。けどよ、こう言う奴は最初は亀の歩みだが後から物凄く伸びるんだ。

「早く、帰ろうよ~」

 けどよ。こいつはちょっと重症かも。


「情けない声出すんじゃねぇ! 最悪お前ら逃がして遣るくらいは何でもねぇんだ。さぁ先急ぐぞ」

 と見得を切る俺。それでハックは収まったが入れ替わりに、

「兄貴ぃ~怖いよ」

 と後ろからしがみ付いて来るミサキ。こんなセリフ吐いておいて、顔と声は笑って居る。

「ミサキお前全然怖がってねーだろ」

 そしてそのまま俺に負ぶさって来るんだから油断ならねー。大体、俺より指二本も背の高い女に、ちっちゃい子のように甘えられてもなぁ。

「降りろ! 自分で歩けるだろ」

「えー。疲れたー」

 この無精者。

「六歳のワンダだって歩いてるんだぞ。幾つだお前」

「十歳」

「じゃあ歩け」

 言い捨てると同時に背中から降ろすと、

「兄貴のいけずー」

 と口を尖らせた。


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