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敵討ち-01

●陣地

 開拓村だった西野(にしの)村が大熊に襲われて滅んだ事は確定した。その大熊が猛獣なのか魔物なのかまでは判らないけれど、子供達とまともにぶつかると危ない。


「糞の状態からすると最近だよ」

 猟師の親から教わってると言うワンダの証言によると、ここらはそいつの縄張り内だと思われる。妻子連れで入植する位だから、安全だと思われていたこの場所が、どうしてこんな風になっているのか? 普通、獣も魔物も大々的には生息域を変えたりしないのに。

 何処かで繁殖し過ぎて分かれて来たのか? だったら弱い個体が遣って来る。

 では、もっと強い獣や魔物に追い出されて流れて来たのか?


「まさかね?」

 僕は嫌な事に思い当たった。所謂バタフライ効果って奴だ。

「兄ちゃ……。だったとしても、どうしようもないよ」

 どうやらクリスちゃんも同じことを考えたらしい。事前にそんなの想定何て出来ないよと僕に言って来た。

 でももしそうだったとしたら、何が何でも仇を取らせてあげなくちゃいけない。


 樹の幹にあった爪痕から、熊が立ち上がると三メートルを超え四メートル近い。爪は刃物の様に鋭くてすっぱりと綺麗に刻まれている。

 こんな大熊に襲われても平気な隠れ家って何だろう? 恐らく馬車も壊されちゃう。

 対策に心当たりが有ったので、

「クリスちゃん。魔法はどこまで上達したの?」

 僕は確認した。


「初級の『穴掘り』と『振動制御』ならちゃんと出来るようになったよ」

 穴掘りとは、一度に深さ三メートル幅十メートルの塹壕を、長さ十メートル分掘ることが出来る魔法だ。

 掘った土は十メートル以内の任意の場所に移動させることが出来るから、この魔法だけで村の囲いを作ることが出来るとても便利な魔法だ。

 振動制御は本来、地面を通じた移動の足音を消したり、馬車の悪路の揺れを消したりする魔法だ。だけど窮理を学んだものなら解かる。振動は刃物の切れ味を増す事にも使えるんだ。


「兄ちゃ、クリスの魔法役に立つ?」

「勿論だよ。穴掘りは皆を護ってくれるし、振動制御は足音消しにも使えるし、武器の威力を増す為にも使えるんだもん」

「ほんとかスジラド」

 武器の威力を増すと聞いて、デレックが身を乗り出した。

「うん。少なくともデレックの剣なら、間違いないよ。試してみる?」

「そうだな。クリス頼む」

「うん」

 と答えたクリスちゃんは詠唱する。


(うれ)うる(なか)れ。

 (まこと)(のぼ)る 階に(のぼ)虚邑(きょゆう)(のぼ)る。

 致せ地の風 振動制御」


 デレックの剣に付与した途端。

「おわっ!」

 ブーンと言う音が唸り出した。握るデレックの手が小刻みに震える。


 二、三度素振りをし、

「これ、癖があるなぁ。手首を捻るだけで剣が勝手に動きやがるし、注意しないと刃筋が合わねぇ。

 ……と、こんなもんか」

 近くの崩れた拝み小屋の柱に向かい、軽く振ったデレックは。

「なんだよこれ! 刃筋合わせて当てただけだぞ」

 ガガッと言う音と共にスパーンと切れた柱を見た。


 僕達はクリスちゃんの魔法を利用して、四阿を中心にほぼ正三角形に塹壕と掻き上げ土塁の陣を築く。同時に僕達は子供達の班分けを行った。それぞれの子供と僕達の相性や作業の具合を見て班を振り分けるのだ。

 陣はクリスちゃんの負担もあるし、余り広過ぎても防御至らぬ隅が出来て仕舞う為、こじんまりと周りを囲った。本当は石化の魔法も使えれば、壁の外郭を石にしてもっと堅固に出来るのたけれど、贅沢は言って居られない。

 それでも壁の高さは三メートルで、外側の塹壕の深さが三メートル。壕に入ると壁の上まで都合熊の倍の高さになるから、身を護るのには十分だろう。


 多分今夜は眠れない夜になる筈だから、予め交代で昼寝をさせることに為った。


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