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恐怖の夜-05

●仇を取りたい?

 僕の報告を受けて、自分の眼で確認しに行っていたネル様が戻った。

「全滅の様ね。生き残りが居たとしても村を捨てていることでしょう」

 するとシレーヌが涙声でこう言った。

「じゃあ。何で私は売られたの。弟の為だって言われたのに」

 モノビトに売られたことが無駄になってしまったと嘆くシレーヌだが、

「何が不幸で何が幸いかなんて、誰も判らないわよ。あんたが売られたのだって、ひょっとしたら神様のご加護かも知れないもの」

 ネル様は肩をぎゅっと握って彼女を諭す。

 神殿で自由の身にすることが決まっている現在だから言える事だけれど。シレーヌは売られたことによって災難を免れたと言う一面もある。

「残念なことに為ったけれど、この事実は覆らないわ。それで聞きたいんだけど。仇を取りたい?」

 ネル様の声は優し気だったけれど、眼は全然優しくなかった。


「もしも仇討ちしたいって言うんならよ。この俺も一肌脱ぐぜ」

 デレックが剣を抜き放つ。日を浴びて煌めくは、サンドラ先生特製の魔力を通し易く魔法と相性の良いグラディウスだ。

「兄貴が遣るんならあたいも手伝うよ」

 ミサキちゃんがデレックに擦り寄る。

「へへへ。おいらも手伝うよ」

 ワンダくんが馬車から身を乗り出す。

「でも。大丈夫かな? 僕達足手纏いだし」

 鉄棒を握る手が震えるハックくん。

「心配しなくたって、スジラド兄ちゃん頭良いもん。きっと上手い事考えてくれるよ」

 勝手に請け合うデリラちゃんの信頼がちょっと重い。


 まあ、普通の熊だったらネル様独りでもなんとかなるんだけどね。遠くから目を射抜けば良いんだから。さらに毒矢を使えば確実に斃せる。溜めの時間さえ稼げれば、僕の雷光のスピアでも問題なく倒せる。デレックだって剣に炎の魔法を使い、大盾を装備して戦えば時間の問題で勝てる。

 でもね。事がシレーヌちゃんに仇を取らせるとなった途端、難易度が五段飛ばしに跳ね上がるんだ。彼女を護りつつ、最後の止めを刺させてあげないといけないからね。


「それはそうとして。スジラドあんた平気なの?

 たとえ村を襲った熊が魔物だったとしても、あんたが戦うとこ安心して見てられるけど。夕べのあんた見てるとアンデットが苦手でしょ? 動きにいつもの冴えが無かったよ。

 なんでか知らないけど、一瞬固まってちっちゃなスケルトン通しちゃうし」

 流石ネル様良く見てる。


「うーん。ほんと言うと、怖いのもあったけど。ネル様は聞えなかった?」

「何が?」

 キョトンとするネル様。

「あの時、僕の頭の中に『助けて』って声が聞えたんだ」

 目を見開いて、

「止めてよスジラド。あたしまで怖がらせる気ぃ?」

 ぴくんと反応して後退り。

「嘘じゃないよ。『死ね』とか『ケダモノめ!』とか頭の中に響いて来たんだ」


「そう言えば……」

 とクリスちゃんが口を開いた。

「ナオミお姉ちゃんが言ってたよ。自然発生のアンデットは、意識があっても死んだ時のまま時間が止まってる場合が結構多いって。あのスケルトン、熊に殺された人達じゃないのかな?」

「だとすると、納得行くわね。で、クリス。普通に斃しちゃって構わないの? 神殿の清めの儀式とかに任せた方が良いの?」

 良く知らないネル様は訊く。


「簡単に聞いただけだから解んないよ。でも、シレーヌちゃんのお父さんお母さんのお墓は無事だったんでしょ?」

「うん。異常なかったよ。と言うか、死んだ人が全部アンデットに成るんなら、埋葬何てしないよね」

 顔をしかめるクリスちゃんに僕は答えた。


「メグちゃん思うんだけど、恨みって仇を取ったら消えるのかな?」

「それは判らないわね。でも、恨みの原因を何とか出来たら、神殿の浄めも遣りやすいのかも知れませんわ」

 メグの疑問にエルペスは答え、期待するかのように僕とデレックとを交互に見つめる。


「皆。直接参加するかどうかは置いておくわね。村の仇を取って欲しい人」

 ネル様の声に、子供達が一人また一人と手を挙げた。


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