拾い物-03
●どうしよう
昼まで掛かってモノビト移送用馬車を解体し、フォルトの幌は剥ぎ取り檻は一メートル程の鉄棒と板切れの集まりにする。そして鉄棒は子供達に渡した。
一番小さい四歳の子でも道中杖として使えるし、たとえ気休めでも武器は武器。持って居るだけで心強いし、七歳以上の子なら立派に護身用にはなるだろう。
板切れと車輪で簡易台車を作り荷物をその上に移動して馬車のスペースを増やした。
この作業をしている間、年嵩の子に小さい子の分まで草鞋を編んで貰う。素材も悪いから、大人の作った物に比べて不格好だし耐久力も無い。でも裸足で歩かせるよりマシだろう。
「食料は……。やっぱり草摘みと狩りしかないよね」
並木は栗など食べれる実を付ける樹だけれど、季節的に花の時期。
「兄ちゃ、クリス食べれる草解るよ」
ナオミさんの手ほどきで、すっかり覚えちゃったクリスちゃん。今では見分けるのが難しいキノコの判別や毒抜きまで熟せる様になっている。
「じゃあ。俺達は狩猟と草摘みの護衛に分かれようぜ」
とデレックが言うと、
「じゃ。クリスと兄ちゃと女の子達が草摘みで、弓矢名人のネル様とデレックと男の子達が狩りだね」
僕の腕にしがみ付きながらクリスちゃんが言った。するとネル様が、
「スジラドはこっちよ。
狩りなら、白兵戦に滅法強いけど魔法が苦手なデレックより、いざと言う時魔法や飛び道具も使えるスジラドが居てくれた方が安全でしょ?
それに男の子だと言ってもちっちゃい子達だし、農民の生まれが殆どだから戦う訓練なんてしていないでしょ? 寧ろ歳で分けたら?」
と異議を唱えた。
「だよなぁ。こいつらを男と女で分けるのもな。男でもこいつとか狩りにゃチビ過ぎて足手纏いだし、女でも身体大きくて力ありそうなのも居るし」
頷くデレック。
「ネル様あのね」
クリスちゃんが提案する。
「狩りをするなら、ネル様や兄ちゃやデレックが居ないと危ないの。だから先に皆で草摘み。クリス、狩りに使う毒草も知ってるよ。猛毒だけど焼いたり茹でたりしたら毒じゃなくなっちゃうの識ってるよ」
毒か。確かに出くわす獣によっては毒があれば助かるかも。ネル様も同じように思ったらしく、
「そうね。草摘みなら食べ物確保は確実だし、狩りの毒も採取出来るわね」
と、クリスちゃんの話に乗った。
●野営準備
野営に備え、草摘みと薪拾い。
――――
♪秋は愛しや 紅き空
夕べの鐘に 帰る鳥
夜長に通う 虫の声
治まる御代に 実る里♪
――――
ナオミさん譲りの草摘みの歌を歌いながら、これを採るのよと手際良く食べれる草を摘んで子供達に渡すクリスちゃん。
時々見つかる薬草や毒草は、分けて自分の籠に入れていた。
その傍らで、
「あ、潰して汁が付くと痒くなるわよ。だからこう、石の刃を当てて切り取るのよ」
「はい。お姉ちゃん」
「それ、根を食べるから、傷付けないようにもっと遠くから掘りなさい」
「こう?」
「あんた上手いじゃない。初めてなんて思えないわ」
石を割って作った採取用の石包丁や、穴掘り用の棒の遣い方を教えているのはネル様だ。
大して歳も変わらないのに、中には年上の子も居るのに子供達から『ちぃ姉ちゃん』と呼ばれ始めるクリスちゃん。負けじとネル様もお姉さんぶって仕切り出す。気が付くとネル様は『お姉ちゃん』とか『ネルの姉御』と呼ばれ始めていた。
ほんと二人とも、伊達に弓の貴族の娘として教育されて来た訳じゃないね。
一方、デレックはと見れば、
「そうじゃねー! このノロマ。貸せ! お前に任しといたら何時まで経っても終わりゃしねー」
上手く枯れ枝を縛れない子の傍に来て、手本を見せてあげている。
口が悪くちょいと乱暴ではあるけれど、難渋する作業を代わってぱっぱと成し遂げてしまうデレックは、『兄貴』と呼ばれ『お兄ちゃん』と呼ばれ、居心地悪そうに照れて居た。
あれ? あの娘。ちょっとデレックにくっ付き過ぎ。
「兄貴。縛り方教えて。こっからどうすんの?」
「ああこれはな……」
デレックは当たり前のように、後ろから抱き付くように手を取って教えてあげている。
「うーん。兄貴もう一度」
「いいか。ここをこうして」
頼られると面倒見の良いデレックは、ずーっとくっ付いたままロープワークを教てる。
ひょっとしたら、あの娘、デレックが好きなんじゃ?
で、僕はと言うと。ネル様に仔犬宜しく纏わりついているちっちゃい男の子に睨みつけられていた。
何かに付け、僕にも出来ると真似をしようとするのが、ちょっと可愛い。
クリスちゃんがタンポポの花を摘んで、むっつりとした女の子の傍で編み始めた。
「どこから来たの?」
「……」
「ええっ! なんで!」
「……」
「大変だったね。でももう大丈夫よ。兄ちゃが居るから」
えーと。話が通じてるの? クリスちゃん。
「……」
「そう? でもデレックはお馬鹿さんだよ」
「……」
「うん。確かに頼りになる人だけど。兄ちゃには敵わないよ」
会話が成立しているのが謎だ。でも意思疎通出来ているのは間違いない。
「はい」
クリスちゃんが、器用に作った花冠を頭に乗せてあげると、無口で表情の変化に乏しかった女の子が、僕にも判るほど嬉しそうな顔に成った。





