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拾い物-01

●不穏な気配

 あれから二年。

 実務と勉学に奔走された僕の前に、実戦まで加えた原因が目の前に転がっていた。


「……スジラドって本当に強くなったわよねぇ」

 ポツリと呟きながら、ネル様は雪合戦の雪玉を投げるように気楽に弓を射る。

「まあ俺には及ばないがな!」

 そう言いながらデレックは、わざと命に係わる急所を外して射貫かれながらも、確実に戦う力を奪われた賊を捕縛する。

 強く成ったのはデレックも同じ。ただもしかしたら鍛え過ぎなのか、デレックの背は最近ネル様に追い越されつつある。だけど成人年齢間近いデレックの腕や足は丸太の様に太くなり、膂力(りょりょく)は木刀で剣を圧し折る位強い。無手の術もご覧の通り。


「あー、うん。そうだねー……」

 僕は溜息を吐きながらそう答えた。


 今目の前にいるのは賊の振りをした間者だ。

 それを捕縛しながら、どうしてこうなったのかと遠い空を眺めて思い馳せる。


 簡単に言えば嫉妬だろう。ネル様の腰巾着でアイザック様のお気に入り。フィン様に呆れられるほどの才覚と幸運に恵まれて、時々諮問を受ける程の博識者。あまつさえ当代御当主直属の臣下。しかもそれが二度目の成人の儀も迎えていないモノビト上がりの新参のガキ。


 確かに(ねった)いのは解るよ。僕だって自分の事ながら信じられない。当然、面白くない譜代の重鎮も多いだろう。どう見ても次世代の重臣コースまっしぐらだもの。

 それに僕の預かる新宇佐(にいうさ)村と魔物から解放された北の(はて)の領地を、美味しいカネヅルや伯爵様の弱みと見て、ちょっかいを掛けたい政敵が居てもおかしくは無い。


 で、その結果がこれ。

 賊に扮した間者に師匠の家と領地を往復する間に襲われるというイベントが恒例行事で発生するようになっていた。


「スジラド様、こちらも片付きましたわ」

 今日も今日とて。そう言ってナオミさんが捕縛した賊を連れて来る。

 当初から襲撃を受けることを予測していたかのように、アイザック様は村からの送迎にナオミさんと優秀な信の厚い武官を派遣してくれていた。


「これで兄ちゃの配下がまた増えるね」

 そんなクリスちゃんの言葉に苦笑するしかない。


 一番最初に襲って来たのが別の家臣の配下だと言うのは、フィン様が調べてくれて直ぐに判った。

 問い合わせても案の定、

「当家に一切の関わり無し。如何様にも処分されたし」

 の一言だ。


 配下と言っても、家を継げない飼い殺しな三男坊の厄介やっかいで、こう言う汚れ仕事を遣らされていた男だった。

 そこで公には盗賊として処刑したことにして、身分をモノビトに落として僕の配下に加えた。

 以来このようなケースは捕縛してはモノビトにして、村の戦力として確保している。


 その内、賊として処刑され果敢無き最期を遂げた筈の者が、モノビトとは言え僕の配下として生きていると言う事が公然の秘密になって来ると、間者目当ての賊が送り込まれるようになったのには苦笑いを浮かべるしかない。

 それを逆に利用して、彼らに接触してきた家のものを泳がせて調べ上げるフィン様と伯爵様には脱帽だけど。


 彼等は身分をモノビトに堕した上で村の最北に送られる。多くはそのまま開拓に従事させられることになっている。


 一応は、魔物の領域との緩衝地帯として設定した場所だけど、そのままにしておく必要も無い。

 彼等のような犯罪者と言う名の元間者を利用して、いざという時は真っ先に犠牲になって貰うことで緩衝地帯としての役目を果たしつつ、今だに村は拡張を続けていた。


 でもまあ。真っ先に犠牲と言っても。彼らは弓の貴族の係累として五武四術三学を学んだ者達だ。そんな人間を単なる肉の盾にするのは勿体無い。

 だから各人に戦いにも農耕にも使える馬一匹を与え、魔物が押し寄せて来た時にすぐ対応できるよう、鎧と武器を傍らに置いて農作業に就かせた。一朝事ある時は馬に乗って戦って貰うんだ。

 勿論、発想の素は戦国時代土佐の一領具足。あれを僕なりに真似てみた。


 そうした所、何が有ったんだろう? 彼らは僕がドン引きする程の忠誠心を示し始め、

「信じられんことをする奴だ」

 とアイザック様に呆れられた。


 おまけに今では旧主に見切りを付け、仕官目当てで襲撃して来る連中まで出て来るんだから困ったものだね。


●自重しないよ

「今年の成人の儀は自分達だけで行きなさい」

 サンドラ先生とモーリ師匠からそう告げられて、僕達は成人の儀の旅へと送り出された。

 確かにサンドラ先生の馬車は目立つ。それ故に不心得な連中が妬みから僕の命を狙って来ることも考えられる、と皆から忠告されていたのが原因だ。


「で。こうなったのね? ……あんたが何しても私はもう驚かないわ」

 そう言いながらネル様は、目の前の馬車で深く深く溜息を吐く。


 サンドラ先生から色々と教わりながら、近代的な知識を融合してカムフラージュした上で作り上げた自慢の成果が目の前にあった。

 見た目こそ平凡で立派とは言えない馬車だけど、中身は色々と拘っている。


 普通の馬車に乗る機会があった時に痛感したお尻の痛みから、乗り心地に関してだけは妥協してない。四輪ながらサンドラ先生の馬車にも負けないサスペンションを取りつけた。

 こんなことを言っても何の事か判らない人が多いと思うけれど、簡単に言えばこう。

――――

 四つの車輪それぞれに専用のトーションバーを用意し、

 左右非対称なトーションバーに、中央の取付部に左右同相ならば回転できるような自由度を与え、

 コイルスプリングを併用するという構成。

――――

 え? 何の事かさっぱり? 普通そうだよね。僕も心の命ずるままに言ってみただけだから。


 その他にも。火矢に対抗する為に耐火性を高めるように表面を焼いた木材にナオミさんの水の属性を付与したり、強度を高める為にクリスちゃんに頼んで土の強化を施したり。

 幌だって特別製。北の方魔物の領域で狩られた魔物素材をふんだんに使ってみた。

 一番上には藍染の平織布を使ってるけれど、真ん中にエンシュと言う火を吐くカピバラみたいな魔物の皮を挟んで、一番内側にジンユウって熊の魔物の毛皮。

 動物って大抵は自分の武器を防げる防具を持って生まれて来るから、エンシュの革は簡単には燃えず、爪がそのまま短剣や槍の穂先として利用可能なジンユウの毛皮は、驚くほど防刃防弾機能が高いんだ。


 師匠の馬車よりも実戦に使えるように作り上げた一点物だ。この世界では馬車と言うより戦車と言ってもおかしくない防御能力を持つ。

 重さと大きさは控えめでタケシ一頭だけで引くことも出来るけど、普段は二頭立てにしてるから見た目だけならどこにでもある馬車

 これが二度目の七五三に挑む僕達の愛車だった。


熱中症。怖いですね。

自力で病院辿り着いて、受付で転倒。

氷水漬け・補液・導尿。でなんとか復帰。

帰宅したら室内は38℃でした。


111ブクマ企画。ずばりTRPG作成です。

鋭意作成中ですのでご期待ください。

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