プロローグ
●暑苦しい男
神殿に響く歌声は、お勤めの子供達の者。
お仕着せの見習神官の服に揃いのローブを着けた聖歌隊として、声を合わす。
――――
♪神がその身の 似姿として 人創り給う 太古
行きて栄えよ 世をば統らせと 言祝ぎましぬ 声よ
見よや全地は 人の子の物 拓き 産めよ 殖えよ
見よや全地は 人の子の物 拓き 産めよ 殖えよ♪
♪歴史始まる 古よりも なおも遥けき 神代
討たせやひたに しかも和せと 宣らせ給いし 声よ
見よや全地は 人の子の物 勇み 討てよ 統べよ
見よや全地は 人の子の物 勇み 討てよ 統べよ♪
――――
猫耳帽子を被った巫女が指揮する子供達の声は、聖堂の隅々まで木霊する。
その木霊の響きが届く神域の中。高い高い、遥か上の天窓から挿し込む光。
石造りの建物の一室に、どう見てもマッサージチェアとしか思えない形の椅子に腰掛けた男。
一見小太りに見えるが、見る人が見れば筒胴体型と呼ばれるもので有る事が判るだろう。
「ふ。今の所問題は無いが、あいつの定めた礼典はヒトに傾き過ぎだ。
まあ、その範囲を広く取れている今の内は問題無いが……。
場合によってはヒト族を締める必要が出て来きそうなのが面倒だが。
奴が裁けるうちはほっとくか……」
改めて、中空に浮かぶ半透明のプレートをスマートフォンのように操作しつつ、男は呟く。
「今年アイツ七五三だよなぁ。禍津神必ずしも敵だけでは無いって神殿が教える歳だし。試練を受けさせてみるか」
そして静かな声で、しかしとても強い力を言葉に込めて呼んだ。
「来たれ、ユオリィ・ズゥイジー・ショラン」
「お呼びですか? 邪神様」
ボディービルのサイド・チェストのポーズで、スキンヘッドでブーメランパンツの男が現れた。
「相変らずだな」
「人は失って初めて大切なものに気付くのです。それはこの私めも例外では無く」
「そうか。それにしても見事な霊衣体だな」
邪神と呼ばれた男が抑揚の無い声で答えると、
「恐れ入ります。我がマッチョ族にとってはこの上無きお言葉。痛み入ります」
モスト・マスキュラーで筋肉を見せつけるブーメランパンツの男。
「んじゃマッチョ。他の試練より最優先でライディンの担当任せたからな。それと何か着て行け」
「畏まりました」
むさくるしいが、あくまでも礼儀正しいブーメランパンツの男は、時代掛かった臣下の礼を取り、そして景色に溶け込むかのように姿を消した。
第三部始まります。





