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エピローグ

●兄妹のマドイ

 人を駄目にするマジックアイテム。その名はコタツ。そしてそれは年越しの必須アイテムである。

 今そのコタツを囲んでネルとアイザック、フィンがぬくぬくしていた。


「本格的な冬になる前には戻らねばな……」

 長居し過ぎたとぼやく長兄アイザック。


 幸いと言うか何と言うか、土地の資産価値の確認は終わっているとフィンも戻る準備はできている。

 ネルも休暇は今日明日には終わる。いや正確には移動日数の関係で明日中にはここを立たなければならない。

 チャックに関しては友人としてスジラド宛に手紙が届いており、七五三の儀式で神殿にいるらしい。

 そして父親のカルディコット伯爵は新年の挨拶のため王都へ。例年のことで行かねば人脈にも影響があるため正月を親子で過ごした記憶はない。さらに言えば、本家の家督を継いだ後は、益々中央での仕事の割合が増えた。

 兄妹水入らずの正月も珍しいと互いにこぼす。父親が不在という時期だけに兄妹全員が集まるようなことはまずない。それぞれの母方の家の統治の代理責任者として働く必要が本来はあるからだ。

 数年後には、恐らく北方最後の楽園とも称されるであろうこの地域の開拓には、一族郎党の注目が集まっていることから、今年に限って起こった珍しい状況なのだ。

 まあ明日以降は馬車を全速力で走らせ、溜め込んだ書類仕事が待っているので兄二人は思いっきりため息を吐いているわけだが。ネルとて父から裁量権を与えられた案件があるから、全くの他人事ではない。


 因みに現在スジラドは明日までに各地に伝える必要がある土地関連の情報収集のため、アレナガ卿と共に馬で祭壇付近まで出かけている。これはアレナガの流儀だが、各地で分散して書類を管理することで不正を減らす事を図っているのだ。

 ただ、この調整やら見立てやらが一筋縄では行かない。多くすれば税が増やされ、少なくすれば隠していると見做されて痛くもない腹を探られる。だからあまり妥協できない作業なのだ。


「しかしスジラドは化け物か」

 フィンの呟きに、

「そうだな。器がでかいし、読みも鋭い。また運の良い男だ」

 アイザックはそれが武力としてみたものと思い答える。しかしその評価は、フィンのものと一致した。


 運の良い男。確かにそうだ。

 税収確定直後に広域に土地を拡大し、更にそれが肥沃な土地である確認まで終わらせている。しかも周囲の魔物が駆逐されている状態でのスタートだ。これから想像される特需等も考え合わせると、カルディコット家中でも屈指の豊かな所領となるだろう。

 功績から考えて、最低でもここの代官就任は間違いない。こんな事、狙って出来るものではない。


 読みも鋭い。これも然り。

 花の色から土地の性質を読み取り、低費用で行える土壌改善計画を立案する。実用レベルでの窮理の学びも相当の物だ。

 また、帳簿の不正を瞬く間に見つけた処理能力も恐ろしいばかり。計数能力は群を抜いていた。


 でかい器。これも納得せざるを得ない。

 十やそこらのガキが、こんな大成功を収めたら、驕慢になるのが当たり前だ。自分にも覚えがあり過ぎるほどある。だが現在スジラドに全くそんな兆しは認められないのだ。


「それにしてもお前まで信の厚い文官を派遣するとはな」

 そう言うアイザックにフィンは、

「兄貴。妹のお気に入りで、しかも親父の肩入れしている家臣に半端なものは出せないよ。

 それにお(いえ)の将来に重大な影響を及ぼす土地だ。跡を継ぐ予定の人間が、他人の出した報告書だけで知ったか出来るほど、カルディコットの家督は甘い訳ないじゃないか」

 と答えた。


「しかし、ライディンか……」

 ぼそりとアイザックの口を突いたスジラドの眞名(まな)

「スジラドはスジラドよ。そんな名前じゃないわ」

 釘を刺すネル。

「おっと。危ない危ない」

 父親から囲い込みの為にスジラドのことは隠せと、通達が届いたばかりだった。

 理由は他家の介入を防ぐためだ。


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