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試される大地-01

●目覚め

 ネル様が泣きそうな顔で僕を見下ろしていた。

「あ、あんた。なんでまた死にそうになってるのよ」

 旅の装いも解かぬままだから、ここに着いたばかりなんだろう。


 えーとここは?

 知らない天井じゃない。宇佐(うさ)村の館砦の僕の部屋だ。


「兄ちゃ!」

 ドタドタとすっとんで来る声はクリスちゃん。そのまま飛び着こうとして、

「いけません。スジラド様はやっと目覚めたばかりですよ」

 ジャンプした所を後ろから部屋に控えていたメイドさんに首根っこを掴まれた。

「兄ちゃ兄ちゃ! やっと起きた!」

 嬉しそうに足をパタパタさせながらまるで仔猫の様にぶらーんとメイドさんに持ち上げられている。


「スジラド様。お目覚めですか?」

 少し遅れて遣って来たナオミさんは、毛布を捲り寝間着を(はだ)け、僕の身体に手を触れながら、

「痛みや痺れはございますか?」

 と聞いて来る。


 あれ? スライムに身喰いと言われたけれど、どこも痛くないや。首と視線を動かして確かめると、手も腕もお腹の辺りも、前と全く変わって居ない。指も違和感なく滑らかに動くし。

 強いてあげれば、僕痩せた?


「良かった。とても酷い怪我でしたのよ。全身大火傷で、筋肉もズタズタ。一時は命も危ぶまれる状態でしたの。それを見たお兄様が、まるで女の様な悲鳴を上げたほどですわ。


 こうして上辺は完璧に治せましたけれど、スジラド様が目覚めるまで本当に直せたのか心配でした。筋肉が衰えぬ様、治癒の魔法やマッサージで保全して参りましたけれど、起き上がれますか?」


「うん」

 僕が頷くと、背中に手を回して起こしてくれる。

 魔法は凄いや。もう、ちょっとばかり身体が気怠い程度になって居るんだもん。


「ここは如何ですか? 関節は痛くありませんか?」

 身体をペタペタ触りながら、訊ねるナオミさん。

「兄ちゃ兄ちゃ。クリスも兄ちゃのお世話したんだよ。でね、でね。替えるのとっても上手くなったから、姉ちゃに将来良いお母さんに成れるよって褒められたんだよ……えへっ」

 ベッドによじ登って、身体を起こした僕にしがみ付くクリスちゃん。


 それをジト目で睨みながら、

「スジラド。後で詳しく話を聞かせて貰える?」

 凄く冷たいネル様の声。

 後でって言われても僕、意識なかったんだけど。とはとても言えない空気を纏ってた。


 コンコン。ノックの音。

「はい」

 ナオミさんが返事をすると、

「いやぁ。ネルのそんな怖い声初めて聞いたよ」

「フィン兄様!」

 えーと確か。中のお兄さんだよね。ネル様の。

「ネルもそろそろ年頃のレディだから、覚えとくと良いよ。男って言うものはね。ほどほどの嫉妬なら愛しく思えても、度を過ぎると怖がって近寄りたくなくなるものだよ」

「あ、あたし。そんなんじゃないから!」

 ぷいと横を向くネル様。


「スジラド君。起きれるかい? 村の状況について一応の責任者としての許可が必要だから。無理ならこちらに持って来させるけれど」

「大丈夫だと思います」

「じゃあ、そこの君、スジラド君の着替えを頼む。さ、淑女方は席を外して」

 フィン様はメイドさんを除いた女の子達を部屋から出すと、着替えさせられている僕に話し掛けて来た。


「結果から言おう。ここ百年は無かった快挙だよ。今度の事で君は騎士爵を貰える。拙くとも新宇佐村の代官職は堅い。ことによったら領主様だ」

「えーと。良く、判らないんだけど。一体何が有ったんです?」

「この七日余りの間に色々とね」

「七日ぁ!」


 僕がフィン様と話している間に着替えさせてくれるメイドさん。着せ替え人形宜しくされるがままになって居たけれど、ぱさりと僕に掛けた布の下で、下着まで脱がそうとしている。

「ちょ、ちょっと……」

 本来、僕が腰を持ち上げなければ外れない筈の、隠し所を覆う物があっさりと外された。

「あ、あの……」

 かーっとなる僕の顔。


「なんだ。やっと気付いたのかい? ずーっと寝たきりだったんだから、当たり前だろう。当然そっちの世話にも為って居るよ」

 笑いを堪えるフィン様。


 えーと確かクリスちゃん。言ってたよね。

「クリスも兄ちゃのお世話したんだよ。でね、でね。替えるのとっても上手くなったから、姉ちゃに将来良いお母さんに成れるよって褒められたんだよ」


 僕、クリスちゃんにも頭が上がらなくなってしまったかも知れない。


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