スライムを討て-08
●そっちか!
「えぇーい!」
空中前転からの飛び蹴り。スライムに対して余りにも無謀に思える肉弾攻撃。
但し、僕が超高電圧の帯電状態じゃなかったらね。それも周りがプラズマ化するような。
触れただけで。いや近接しただけで弾けて飛ぶさ。
一直線にスライムを貫き電気エネルギーを注ぎ込むと、流石に怯まない訳がない。
更に、落下の運動エネルギーをスライムに吸収して貰い地上に降り立った僕の後ろから、稲妻が広域に広がる分体の上に降り注いだ。
そいつはリョウタの隣に並び立ち、バカバカ蹄を鳴らす。そう、チカと分離したタケシ。背にはクリスちゃんの姿があった。
「随分と、美味しい時にやって来るではないか」
僕の隣に立ったアイザック様が、魔法を込めた炎の剣を握る。
「いえ。狙った訳じゃ……」
つい言い訳じみた事を言ってしまった僕を、
「はははは、冗談だ。正直助かったぞ」
と笑い飛ばしたアイザック様は、
「スジラド。奴と戦う前に得物に魔法を込めよ。並みの武器では効かぬ上、腐食されるぞ。魔力も尽きた。俺は恐らく、これが消えれば対抗する手段がなくなる」
言いつつスライムの巨人に向かって突進する。
河から生まれ、打ち出される水礫。アイザック様の振う炎の剣。敵のマークから外れた僕は、拳を十字に組んだ構えから腕を大きく開き腕輪を打ち合わせ、光の国の巨人の様に閃光を放つ得物を創り出す。
そしてアイザック様が後ろに飛ぶと同時に投げつけた。
ドドーン! と耳をつんざく音と共に、人型を取って居たスライムの形が崩れる。直ぐに形は戻ってしまったが、効いている。でも一発撃つのに時間が掛かり過ぎる大技だ。
こうして何度か撃っている内に、アイザック様の剣が炎を失って来た。
「スジラド! 任せた!」
僕の位置まで後退したアイザック様が、愛剣を僕に託す。
「判りました。お下がりください」
魔法ではなくマジックアイテムの行使だから、アイザック様とは異なり詠唱は要らない。
パチっ! パチっ! と爆ぜるような空中放電を繰り返し、オゾンと窒素酸化物の匂いを辺りに撒き散らす。
凄いや。魔法の付与がしやすい上に、サンドラ先生のマジックアイテムとも相性が良い。
触れただけでダメージを与えるんだもの、アイザック様の炎を防いでいたスライムの攻撃を簡単に切り飛ばせる。徐々に敵の手数が減って行くのが実感出来た。
あれ? おかしい?
だって切り飛ばした断片は、凝縮されてアイザック様と切り結んでいた強固な武器だよ。
それが電荷を帯びただけでこんなに簡単に。
僕は攻撃を続けながら、
『チカ! 周りの様子を送って!』
とお願いした。
ぞくっと背筋に電流が走った。切り飛ばした欠片は後ろの河に落ちているんだけれど。
うわっ! 河の中で集結しつつある。て言うか! 無害になったと警戒されていないことを良い事に、密かに河を渡っている。
岸に上がるスライムの中に、僕は巨大な核がある事を発見した。あちらが本体だ! 今しもアレナガおじさん達後方支援組の間近にスライムは迫っていた。
「クリスちゃん! 逃げて!」
気付いた時には離れている僕には間に合わない。
アレナガおじさん達を庇うように、飛び出したクリスちゃん。
クリスちゃんがスライムに飲み込まれそうになった時、僕の意識は真っ白に染まった。





