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表紙
陸軍百式輸送機は満朝国境を越え、朝鮮に入った。同じ満洲帝国内とはいえ安心は出来ない。叛乱が起きたのはその朝鮮領内なのだ。むしろ、敵地に入ったと思うべきだろう。機長は、所定の高度を維持しようと操縦把を握った拳に力を込める。
発動機が換装された愛機は、しかし、機体下面に追加装甲を施したために鈍重となっていた。低空侵入、強行着陸は輸送機の本来任務だろうかと疑わないでもないが、もう遅い。敵には小銃しかないのだと思い込むしかない。
その時、衝撃を受け機体が揺れた。機長は変針を図る。傾いた機体の窓から地上が見えた。発砲炎らしき光点が見える。近い。対空銃架に載せた重機関銃は高射機関銃そのものだ。高度計がおかしいのか。田辺機長は汗をかいていた。