結成☆学校探検隊!
ナレコ様よりリクエストをいただきました!
お題はアロイヒの放課後の過ごし方、です。
……あいつ何やってるんだろ? そんな風に考えながら書いていたら、何故かこうなりました。
それは、アロイヒ少年がご入学を果たして間もない頃のこと。
学園生活も2カ月が経過して、不慣れな子供達も徐々に新生活に馴染みつつあった。
そんな、頃合いで。
ベスパ少年がアロイヒ少年に声をかけたのが始まりだった。
「ひーちゃん、今日の放課後いっしょに遊ばなーい?」
彼らが暮らす学生寮は、学校の敷地内にある。
まだ親元を離れたばかりで、箱入りの子供達だ。
しかもその身元は貴族が多く、学校の敷地外へ単独で出ることは学校側があまり良い顔をしない。
もしも外に出るのであれば外出許可を申請しなければならないし、下級生は護衛付きでなければ申請を却下されることも多い。理由は誘拐の危険性が高いからだ。
そんな窮屈ともいえる日々は子供たちの鬱屈を溜め込んでしまう。
だから入学間もない生徒たちは、部活動や委員会など学内の活動を推奨されていた。
もちろん、強制ではない。
部活や委員会に興味がないのであれば、無理して入る必要はない。
同年代の子供は周囲にたくさんいるのだ。部活をせずとも、学校の敷地内で遊ぶのは自由であったし、なんなら学内のサロンを予約してお茶会や演奏会などの優雅な集まりを開催することも認められていた。
まだ学校の勝手がわからない1年生諸君は、寮の部屋で顔を突きつけ合わせて一緒に課題に頭を悩ませたりして過ごすことの方が多かったけれども。
そんな、中で。
放課後の生態が微妙に謎なのがアロイヒだった。
何しろ、すぐに姿が消える。
一体どこに消えたのかと、クラスメイト達には謎がいっぱいだ。
学校の授業が終了するのは、夕方の17時ごろ。
寮の食堂が夕飯を提供する時間帯は18時~21時。
少なくとも1時間は夕飯までどうしたって間が開いてしまう。
その時間帯、アロイヒの姿を見かけることは滅多にない。
昨日は裏庭の木陰で、10匹以上の子犬に埋もれて昼寝していた。よく見ると子犬たちの額に小さな角が生えていたのだが、アレは果たして本当に犬だったのだろうか。それとも違う何かだったのだろうか……。
その前に目撃した時は、良く育ったメタセコイヤのてっぺんで傘を開いて天に掲げながら何かの曲を歌っていた。何していたのか謎だが、深く追及するのも怖いので目撃した生徒たちは記憶を胸の奥に封印したという。
たまに見かけることがないこともないが、何をやっているのか多くは謎に包まれていた。
そんなアロイヒの生態に興味を示したのは、好奇心旺盛なベスパ君だった。
「一緒に遊ぶの? 良いよ、何しようか」
裏も何もない、素直さ100%の顔で快諾するアロイヒ。
ベスパの目的は、「アロイヒが普段放課後なにしてるのか気になる!」という好奇心に重きを置いている。よって、当然の如く放課後の過ごし方についてこう提案した。
「ひーちゃんは普段なにやってんの? 良ければひーちゃんの普段やってることに混ぜてよ!」
「僕が普段やってること? んーと、最近は学内探検に時間をかけてるけど」
「学内探検?」
その言葉は、不思議でも何でもない。
何しろ彼らはみんな入学したばっかりの1年生だ。
だから新しい環境である学校に好奇心をそそられて学内をあちこち探検するのは珍しいことじゃないし、みんな1回は探検したことがあるはずだ。
だがこの学校は、なんといっても広い。広すぎた。
敷地内には実技実習用に整備された山や谷や森林地帯といったデンジャラスゾーンまで存在する。
学内のあちこちに学年によって立入制限された区画や、職員以外が立入れない場所、あるいは職員でさえも特別な許可がない限りは進入禁止になっている場所がある。
1年生の内は、意外と行動できる範囲が狭いのだ。
狭いと言っても、それでも迷う生徒がちらほら存在する程度には入り組んでいて広いのだが。
多くの生徒は、許可されている範囲は全部巡ってやる!と意気込んでも1週間もする頃には心が折れて探検を諦める。
だけどアロイヒは、入学から2カ月が過ぎた今頃、学内探検に精を出しているというのだ。
入学直後ではなく、最近になって探検を始めたのか。
それとも2カ月の間、めげることなく地道に探検を続けていたのか。
果たして、どちらだろう。
しかし2カ月もあれば、流石に1年生の行動できる範囲は探検し尽くせそうなものだが。
首を傾げるベスパに、アロイヒは邪気のない顔で言った。
「毎日、生徒の活動が活発化するのに合わせて警備が緩くなる時間帯1時間半を使って、ちょっとづつ探検を進めてるんだ。入学時にもらった学校の地図を参考にね!」
その顔に、悪気は一切なかった。
しかし発言内容に、なんとなく不穏な空気をうっすら感じる。
何がおかしいのかすぐにはわからず、ベスパは更に首を傾げた。
偶然耳にした内容に、感じるものがあったのだろう。
近くにいたスコル少年も、怪訝な顔で寄ってきた。
「ちょっと待ってくれ。なんで学校の探検に学校側の警備体制への注意が必要なんだ?」
「お父様が学校側に地図のことを知られないようにねって言ってたからね。見られない方が良いかな?って思ったんだ」
「……アロイヒ、ちょっとその地図を見せてくれないか?」
「良いよ!」
快いお返事と共に、アロイヒは鞄から取り出した地図を机の上に広げた。
それは、なんだかとても古びた地図だった。
古びた、というか実際に古いんだろうなぁと思わせる地図だった。
スコルは思わず目頭を押さえた。
気のせいじゃなければ……地図の隅に書かれている年号は、この学校の創立年と同じ数字を刻んでいる。
この学校の歴史は古く長い。由緒と伝統のある学校だ。
その学校の、創立時に作られた学内図となれば重要な資料として然るべき場所に保管されていてもおかしくないのだが……同じく由緒も伝統もあるエルレイク侯爵家が保存していた地図なのだろうか。
だけど、気にするべきは歴史的価値でも古さでもない。
その地図の、詳細さとでも言おうか。
ぶっちゃけて言うと、部外者にお知らせしてはいけないような情報が記載されていた。
隠し通路とか、隠し部屋とか、隠し金庫とかである。
1年生が立入れない場所も、関係者以外立入禁止の場所も、それどころか今となっては誰1人入り込むことのないように封印された場所までしっかり細かく詳細に記載されている。どこからどんな道順で、どういう風に進めば良いのかまでバッチリだ。
あまりの地図の詳細さに、スコルは言葉にならない呻きを漏らす。
「あ、アロイヒ? この地図は一体?」
「僕の家に代々伝わっている地図? 子供が入学する時には持たせてやるのが伝統だってお父様が言ってた気がする。同時に僕に持たせるのは不安でいっぱいとも言っていたけどね!」
「だったらなんでアロイヒに持たせちゃったんだエルレイク侯爵閣下ー!!」
「だから、伝統? 常に最新の情報へ更新するのが代々定番の暇つぶしだそうだよ? 暇を持て余して余計なことをしないよう、暇になったらこの地図の情報更新をしなさいとお父様が」
「あ、アロイヒをなるべく野放しにしないための苦肉の策なのか……っ」
「地図に書いてある情報の正誤を確認しながら、行ける範囲全部しらみつぶししていくの。宝探しみたいで面白いよ! 時々本当に『宝箱』が見つかるしね」
「ひーちゃん、それ本当に『宝箱』? 誰かの忘れ物だったりしない? っていうか行ける範囲って、この地図抜け道やら隠し通路やら記載されまくりだけど、どこ行ってるの?」
「うーんと、数百年前に閉じられた隠し部屋の中にあったりするから、誰かの忘れ物だとしても元の持ち主は現れないんじゃないかな。行ける範囲は、行ける範囲だよ? 毎日1時間、ちょっとずつ場所を変えて探検してるよ。1日1時間って決めてるから、中々探検し終わらないんだけどね」
「おい、おい……! 良いのか、それ! 大丈夫なのか、それ!」
「どうしよ、ひーちゃんがやってること先生にバレたら全力で怒られ案件な気がするよ! でもひーちゃん家が個人所蔵してるような地図、取り上げるのもなんか怖いし! っていうか侯爵閣下のひーちゃんが暇になってふらふらしないようにっていう心配が凄い! これ探検やめさせてひーちゃんが暇になったら何するのかもちょっとコワイ!」
「………………なあ、アロイヒ」
「うん? なんだい、スコル」
「今日も学校を探検するんだよな?」
「ベスパが構わないならそのつもりだよ」
「……だったら、今日は僕もついていこう」
「……え? 委員長、正気? いつもだったら絶対に怒るとこでしょ、これ」
「いや、確かに叱った方が良い、とは思うんだが……日課の探検を止めさせて、野放しにするのもマズイ気がしてな。アロイヒが何をやっているのか、実態もわからないし。今日はひとまず、叱るよりも具体的にどんなことをやっているのか実態を探った方が良い気がして、な……」
「ああ……納得」
じゃあ今日は、アロイヒが普段どんなことをやっているのか確かめる為にも。
3人で、アロイヒにとって『普段通り』の探検をしてみようか、と。
話はそんな風にまとまり、こうして少年達の『学内☆探検隊』が結成された。
ベスパとスコルが結成を後悔するのは、この5分後のことである。
長い歴史を誇る、複雑怪奇な校舎の中……
探検隊の隊員たちが、隠し通路の先で遭遇したのは――?
a.生徒指導の先生
b.天狗
c.隠し通路の番人
d.PTA会長
e.校舎裏にたむろする不良たち
さあ、果たして彼らは無事に探検できるのか?
何のハプニングもなく、引き上げることが出来るのだろうか……
次回、『徘徊☆学校探検隊』
少年達の右往左往をどうぞお楽しみに☆




