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 死屍累々と言った様子の者たちがゾンビのように動き始めた頃、既に太陽は真上に位置していた。


「うぁ……あぁ……ごふっ」


 みな一様にうなり声をあげて蠢いている。

 まさしく生ける屍といった様子だが、彼らは二日酔いに悩まされている者達だ。

 未成年や酒を嗜まない者たちは既に行動を開始しており、各々昨晩の片づけや朝食の準備に勤しんでいた。

 時刻的には昼食という扱いになるが、軽めの物を用意する。


 それぞれの持ち合わせで作ったフルーツサラダや、パンを細かくちぎってカリカリに焼き上げたものを牛乳に浸した物、その他パンやおにぎりといった簡単につまめるものを用意して起きた者に順番にふるまっていった。


「あー死ぬ」


「飲みすぎだ」


「そうは言うけどな、あんな美味い酒は今までに飲んだことがないぞ」


 そう言ったのは酷い顔色のオリヴィエだった。

 幸いセラエノは酔いにくい体質なため、二日酔いにはなっていなかったがオリヴィエは酒好きの割には弱いという難儀な体質だったため地獄のような激痛に苛まれていた。


「水のめ水。

二日酔いは脳みそに水分が足りてない時の危険信号だ。

完全に治る事はなくても水分をとれば多少はましになる」


「そうしよ……うっぷ」


「吐くならトイレか外な。

なんなら背中さすってやろうか」


「……いや、遠慮させてもらう。

元とはいえ男相手に醜態をさらすのは避けた……うぶ」


「早く行ってこい」


「うぶ」


 死にそうな声で返事をしてトイレに駆け込んだのを見てからセラエノは朝食を口に運んだ。

 瑞々しい果物の香りが心地よい、そう思いながらサラダを咀嚼し嚥下する。

 それから10分ほどしてオリヴィエが返ってきた。


「ん」


「すまない」


 セラエノが差し出した水を飲んで一息ついたのかオリヴィエは大きなため息をついた。

 それからカットフルーツをつまんで、ふらふらと寝室に向かっていった。


「セラエノ、夕方まで寝るわ」


「そうしておけ、おれはチェリーとちょっと話してくる」


「あぁ……」


 朝食もとい昼食を食べ終えたセラエノは床に転がった者達を足蹴に顔を確認していき、ようやくチェリーを探し当てた。

 そして濡れタオルを額に載せて、近くにいる者達にも同様の処置を行ってから、起きるまでなにかわかることはないかといろいろメニュー画面を操作して待っていた。

 

「おえ……」


 寝起きでえづいたチェリーに水を差し出した。


「おはよう」


「……寝起き美人、そうかここは天国か」


「馬鹿なこと言ってないでさっさと頭を起こせ。

少し話したいことがある」


「少し待ってくんろ……よしOK」


 数秒頭を振ってチェリーが起き上がる。

 そして水を受け取って一気に飲み干した。


「ぷはっ、生き返ったわ。

で、まじめな話って何よ」


「今後の方針について」


「……それは俺達だけで話していい事なのか? 」


「そんなに大げさなもんはないさ。

今日か明日にはみんな各々のギルドホールか家に帰るだろうさ。

その時に問題になるのが低レベルのプレイヤーだ。

それをどうするかについての相談だ」


「なるほどな……ここに数日間泊めるのは構わないが当面の問題解決にはならんだろ。

ついでに言えばこのギルドは俺だけのギルドじゃないからな。

ずっと俺が勝手に使っていい場所じゃないからな」


「だろうな、そこで相談なんだがある程度の金銭をこちらで用意する。

それを使って何人か高レベルのプレイヤーを貸してはもらえないか。

生憎俺とオリヴィエはボッチでな。

金は余っているんだが如何せん手が足りない」


「それでどうしろと」


「低レベルプレイヤーを所属ギルドのホールか家まで送ってやってほしい。

それが出来ないなら宿泊費に当ててほしいという事だ」


「……難しいな、今はみんないっぱいいっぱいだ。

強がっていたり、この世界を楽しんでいたりするがそれも時間の問題だ」


「……そうか、それなら仕方がない。

じゃあ次の話だ。

俺も自分の所属するギルドホールへ足を運ぶ予定だ。

そこで昔の仲間がいれば、どうなると思う」


「そりゃあ……ん?

いやまて、それはおかしいだろ。

転移したのは俺達だけじゃ……」


「それがわからないから言っているんだ。

あのアイテムを持っている俺達だけがこちらに転移したのか、それとも他に似たようなアイテムがあったのか、はたまた別の要因か」


「その検証か……」


「そうだ、それでいざという時のために連絡を取れる相手がほしい。

今のオリヴィエくらいしか安定して連絡は取れない。

残念なことにギルドのメンバーにもコールを飛ばしているんだが返事はない。

距離の問題かもしれないけどな」


「フレンド登録、だな。

いいぞ、承認する」


 チェリーがそう言った瞬間、先ほどまで閉じていたメニュー画面が二人の前に現れる。

 そこにはフレンドにチェリーが追加されました、フレンドにセラエノが追加されましたという文字が映し出されていた。


「……これは便利だ」


「また新しい事がわかったな」


「いろいろ検証が必要だな、まったく検証組なんて血気盛んな奴がやる事だと思っていたんだがな」


 そう言ったチェリーの表情はどこか楽しげだった。

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