会議?
一部の抜けだしたプレイヤーを除いて、数百に上るプレイヤーがファルミアに拠点を構えるギルド【桜田ファミリア】の所有する建物にいた。
当初、本当にギルド所有の物なのかという疑問はあったが、ギルドに所属しているもの以外は扉を開ける事が出来なかったため、問題はないだろうという結論に至った。
「それで、どうすんだ。
俺としてはギルドホールを居住空間にして新人を泊めるくらいはかまわんが……さすがにこの人数は無理だぞ。
男女問わず雑魚寝してもらう事になっちまう」
場を用意してくれた男、名をチェリーと言うが、彼はオリヴィエの横に立っている。
今後の方針についての相談をするため、提供者である彼も中心にいてもらいたいという考えからオリヴィエが読んだためだ。
「今日くらいはそれでもかまわないだろうが……そうだな、明日には各々自身の所有するハウスか、ギルドホールに帰還した方がいいだろう。
それと風呂の時間分けや、部屋割りは男女だけで考えない方がいい」
「どういう事だ? 」
「今私たちの見た目はゲームの物になっている、それはいいな」
オリヴィエの言葉に周囲のプレイヤーが首を縦に振る。
「男が女のキャラを操作する、女が男のキャラを操作する。
いまどきそれほど珍しい話でもあるまい」
そう言った瞬間、セラエノを含めた数人が顔をそむけた。
実際の性別とゲームの性別を入れ替えたプレイヤーだ。
「そういう事だ、まあ男の格好をした女はまだいいだろう。
男の裸なんて見ても楽しくないだろうしな。
ただ、俗にいうネカマはアウトだ。
はっきり言って現状では非常に厄介だ」
オリヴィエの言わんとすることを察した者達がしきりに同意している。
その尽くが女性であり、同意しない女性プレイヤーはネカマであろうことがうかがえる。
むしろ居心地が悪そうだ。
「いや、すまない。
別にネカマを責めるわけではないんだ。
だが女の端くれとしては、他人に裸体をさらすというのはどうにも……な。
恥じらいの一環だ。
ほらなんだっけ、べ、別にあなたの事が好きなんじゃないんだからね、というあれだ」
「ツンデレか」
「そうそれだ、とにかくそういう問題があるから気を付けなければいけないのは確かだろうな。
なぁセラエノ? 」
「……俺に振らないでくれ、非常に耳が痛いんだ」
オリヴィエの友人という理由でその場に立たされているセラエノは顔をそむける。
しぐさ、立ち回りなどからセラエノがネカマではないかという話は既にちらほら出ていたが、本人が認めたことで確定した。
「別にネカマを隠すなとは言わんが、禍根になるようなことは避けた方がいいからな。
女は怖いものだ、昔修学旅行で女湯を覗いた男がいたのだが……いや、みなまで語るのはやめておこう」
大げさなそぶりを見せて剣をちらりと見つめたオリヴィエの行動に男プレイヤーは全員背筋に冷たいものを感じた。
数名に多様な経験があるのだろうか、顔を青くしている者や、股間を抑えている者、目が泳いでいる者など様々なリアクションだ。
「そういうわけだ、とりあえずチェリーさん」
「はいよ」
「今日はこれくらいにして、どうだ。
一献、こちらの世界に来た記念ってことで」
「……ほう、俺の手持ちはゴッドスライム酒だ」
ゴッドスライム酒とは、250レベル以上推奨のダンジョンに現れるプラチナスライムのドロップアイテムである。
レアリティはやたら高いくせに、HPもMPもさほど回復しないネタアイテムとされていた。
「悪くないな、なら私は秘蔵の鵺酒をだそう」
鵺酒は酒樽に300レベル推奨ボスモンスターである鵺を丸ごと漬け込んだという奇天烈な酒である。
アイテム説明ではアルコール度数76%と表示されており、火がつくレベルだ。
「よっしゃ! まずは酒盛りジャー! 」
急にテンションを上げたチェリーが声を張り上げる。
数名の呑兵衛が立ち上がり歓声を上げたが大半はどうしたらよいのか悩み、動けずにいた。
「まあ、気を紛らわす意味でも有りっちゃ有りか。
未成年だとか、本来は気をつけなきゃいけないけどいいだろう。
羽目を外しすぎてハメる事にならなきゃいいんじゃねえかな。
腹も減ってきたし食って飲んでだ」
セラエノがフォローに入ったことで、まあ食事は必要かと各々が手持ちの食材を出し合う。
初心者は持ち合わせがない場合も多いようだったが、それに関してはセラエノを中心とした熟練者、上級者が用意した。
「じゃあみんな、乾杯! 」
「「「乾杯! 」」」
こうして、会議はいつの間にか飲み会へと変貌していった。
この後ギルド【桜田ファミリア】は酔いつぶれた面々と、オリヴィエ含む数名の吐しゃ物の処理に追われることになるがそれはまた別の話。




