彼が古本を買わなくなった理由
実話怪談みたいな話を書いてみたい。唐突に思いついて、1~2時間程度で書き上げた作品です。ちなみに、平本君の体験は実際にあった(と言うよりも作者が体験した)出来事だったりします。
『彼が古本を買わなくなった理由』
これは、本好きな平本君が高校生時代に経験した話。
平本くんは授業が終わると、学校の最寄り駅から徒歩2,3分の所にある古本屋へ友人と通うのが日課となっていた。
店の入り口で漫画コーナーへ向かう友人たちと一旦別れ、平本君は一人で小説が置かれているコーナーへ足を進める。
(読み応えがありそうな本はあるかな・・・と)
平本君が毎月貰っているお小遣いは、五千円ちょうど。
出費を少しでも抑えるため、百円均一の表示が掲げられた棚にある本を購入するようにしていた。
ハードブック、文庫本の棚を一通りチェックし、興味を引かれる本が無いことに落胆しつつ、新書本コーナーに来てみると、初めて見る作家の作品が一冊だけあった。
「推理小説か……」
裏表紙に書かれたあらすじを読んで、ジャンルを確認する。
ここ最近、(これって推理小説なのか?)と思わず首を傾げたくなる作品が多いと、友人の一人が言っていた気もするが――
「まあ、百円だし。いっか」
平本君はその本を持って、レジに向かった。
その日の夜。
宿題を終えた平本君は、机の脇に置いておいた鞄から、購入した本を取り出した。
本当はベッドに寝転んで本を読みたいところだが、母親に見つかると「目が悪くなるでしょ」とお小言を頂戴してしまうため、とりあえず机で本を読み始める。
しばらくの間、その状態で読み進めていたが、母親が部屋に覗きに来る気配がないため、平本君は、いそいそとベッドに向かった。仰向けに横たわり、本を再び開いた、そのとき、
パサ。
本から何かが胸の上に滑り落ちてきた。
(栞か、ちらしかな?)
何気なく落ちて来たものに目を向けてみて、
平本君は絶句してしまった。
そこにあったのは、恐らく女性のものであろう、髪の毛の束だったのだ。
平本君はすぐにティッシュで髪の毛を包み込み、古本屋がくれたビニール袋の中へ読みかけだった本と一緒に入れると、自宅近くのゴミ集積所へ走り、ごみ袋とごみ袋の隙間に押し込めた。
その後、平本君の身に不可解な出来事は何も起こっていないが、本は必ず新品で購入する様になり、古本を購入する事はやめたという。
【了】