本当にカード好きなプレイヤーなら好きなカードで勝てるようになるべき
TCG物書きたいけど特になかったお…
じゃあ自分で書くお!!
という冗談はさておきTCGを題材にした少し不思議ファンタジー物です。
ある程度TCG用語を知っていると理解しやすいかもしれません。
相手の息遣いが聞こえる。自分の勝利を疑ってないかのように顔を真っ赤に蒸気させ、こちらを睨むように見つめてくる。
「毒尾のワイバーン召喚。場にいる騎乗騎士ファストのスキル発動。毒尾のワイバーンに騎乗し+2点ずつ補正。さらにマナブースト。毒尾のワイバーンのマナを転換。合計攻撃力は10点。攻撃だ」
相手の勝ち誇った声が聞こえる。だが攻撃を通したらこちらの負けが確定する。
「手札から即時魔法献身の贄を発動。コストはロックゴーレムから。場のロックゴーレム2体を除外し、防御力分相手の攻撃力を下げます。ロックゴーレムの防御力はデフォルトで3点。さらにイシュタルの効果で+1点ずつ補正されてます。-8されるのでダメージは2点になります」
相手から舌打ちが聞こえる。残り生命は2点。戦況はこちらが劣勢だ。
攻撃を防いでくれていたロックゴーレムも先ほど2体使ってしまい次はない。
相手は残り16点。場のユニットでは削りきるには足らない。あのカードさえくれば逆転も可能なのだが…
「ま、いい。マナ補充はなし。ターン終了だ。最後の足掻きを頑張ってくれたまえ」
このドローで全てが決まる。唯一逆転のカードはただ1枚だけ
(…大丈夫。貴方は私が勝たせてあげる)
「えっ?」
緊張しすぎて幻聴が聞こえたようだ。不思議と先ほどまであった不安はない。まるで引くカードが分かるような感覚。
「ドロー」
カードを引く。大丈夫。何故かそんな気がした。手にあるのはいつも使っている少しボロくなったボクの切り札。
「…この勝負勝たせてもらいます。マナコストをイシュタルから3、白猫皇女から2、荘園のエルフから2、エレメンタルゴーレムから3支払います」
「コスト10…? まさか!」
ありがとうきてくれて。そう心の中で呟くとカードが微笑んだような気がした。
「愛された女神イシュタルを明けの明星イシュタルにクラスアップ。効果で味方ユニット全ての攻撃と防御に+4点補正が入ります」
対戦相手が途端に苦い顔に変わる。このゲームでファンカードにやられるのは屈辱に近い。特に自分がガッチガチのトップデッキだった時には。
「行きます。荘園のエルフでアタック。修正値込みで6点です」
「ちっ ゴブリン盗掘団でガード」
「続いてエレメンタルゴーレムでアタック。修正値込みで5点貫通能力付きです」
「ダークエルフ守備隊でガード。さらにダークエルフ傭兵団の効果を発動して防御に。2点通す」
「白猫皇女でアタック。修正値込みで6点」
「…龍の女神アリシアでガード」
すでにガードできるユニットは相手にはいない。
「明けの明星イシュタルでアタック。マナブースト発動。8消費して14点です」
「くっ…ガードなしだ…」
相手の生命カウンターが0点になり、ジャッジが勝利宣言をする。
「エレニウムTCG日本大会決勝。勝者は関東3ブロック言川雅君です!」
勝者宣言を受けて立ち上がる。周りにはカメラや人の視線。それほどまでに注目された一戦だった。
下馬評では決勝は相手のゴブダエルドラデッキの圧勝とされていた。ゴブリンで展開し、ダークエルフの補助で場をかき回し、ドラゴン召喚で場を制圧するエレニウムTCGでは鉄板のトップデッキであった。
対して雅の使ったデッキはデッキには入らないカードNo1の座を長年維持し続けているイシュタル軸のバウンスデッキ
クラスアップのコストが従来は3~5に対しイシュタルは10必要とした。その癖効果は召喚した時に味方ユニットの攻撃と防御を+4点補正するという何とも使い勝手の悪いカードだった。
+4点の補正は確かに強いが10コスト払ってそれなら…というのが一般的な考え。デッキに採用しても10コストの壁が高く出すことすら稀。とすら言われる
そもそもクラスアップ前のイシュタル自体もコストだけは高く基本値も最低の1、効果も味方を+1ずつ上げるだけである。
そのくせレアリティは最高の5。数が少ない上に微妙。コレクターカード扱いされていた。
エレニウムTCGは30点の生命をユニットや魔法を使って削り取っていくゲームだ。
従来のTCGならイシュタルのようなパンプアップ系は速攻系で採用されるのだが、このゲームではマナブーストといったコストを一時的に攻撃力に変換するというどんなユニットでも使える固有能力のおかげで微妙扱いされていた。
パンプするならマナブーストでいい。
これがエレニウムTCG一般プレイヤーに浸透した考えであった。
エレニウムTCGは元々日本で開発され、海外の会社に版権を取られ、日本に逆輸入されたカードゲームである。
プレイヤーは異世界の召喚者となり思い思いのユニットを使い他の召喚者を倒していく。といったバックストーリーがあり、これは日本で開発された当初から存在していた。
だが日本ではブームにすらならず、版権は海外へ。数年後海外資本となった大会には賞金が付き、プレイ人口が一気に増えた。日本大会では1000万。世界大会優勝となれば10億の賞金が優勝者に渡される。
すでに海外のトッププレイヤーにはこれで生活するプロが出てきているらしい。
「日本大会優勝者の言川雅君にはトロフィーと優勝賞金1000万。そして夏に行われる世界大会のシード権が授与されます」
司会の人がそう言い馬鹿でかいトロフィーを持ってくる。受け取ると重い。
「では、優勝した感想をどうぞ」
「すみません。これ後で宅配便で送って…あぁ、世界大会も頑張ります」
周りから空気読めーといった野次が飛んできた。仕方ないじゃないか重いんだぞこれ
「はいありがとうございましたー。トロフィーは後で宅急便でお送りさせていただきます。ではエレニウムTCG日本大会授賞式はこれで終わりとさせていただきます。皆様お気をつけてお帰りください」
「ふー終わった終わった。まさか優勝するなんて思わなかったなー しかしカードの声が聞こえる幻聴なんて一度医者にでも行った方がいいかもな」
手には少しボロくなったレアカードイシュタルがある。確かに声が聞こえた気がしたのだが、こんなこと他人に話したら精神病院行くことを勧められてしまう。
「ま、いいか。今日は勝たせてくれてありがとう」
左胸のポケットにカードを入れる。プレイヤー的にはカードが曲がったり傷が付くためよくない行為なのだが、イシュタルのカードだけは何故かそうした。何だか近く感じる。そんな気がしている時点で心の病気なのかもしれないと自分自身危ない人間なんじゃないかと思ってしまう。
走ってくる人影が見える。息が荒い
トンッ
不意に左胸に痛みが走った。
痛い。声が出ない。
「お、お前が悪いんだ。積み込みなんてするから!!」
声がした方向へ振り向くもすでに刺した人間は去っていた。
「あー…何かあっけない最後だな。誤解で殺されるって何か切ないなー」
左の胸ポケットを探る。穴の開いたイシュタルが雅の血で赤く染まっていた。
「汚しちゃったな。あぁ、何か眠くなってき…た…」
その夜緊急速報でニュースが入り大会会場近くで人の死亡が確認された。
「言川雅さん23歳。左胸を刺され放置されているのを通行人が発見。警察では現在犯人を捜索中です。お近くに住んでいる方は戸締りをしっかりして出歩かないようにしてください」
言川雅享年23歳
死因 鋭利な刃物による左胸刺突
この世に言川雅という存在が消えた日であった。