01 ~シルヴィアの花~
よくある世界のよくある話・・・
誰かが書いたよくある物語は、めでたしめでたしでは終われない
魔王が倒された後、本は棚の奥深くにしまいこまれる
戦いの犠牲者たちには目もくれず
綺麗な素晴らしい物語として忘れ去られる
しかし、動き出した物語は終わらない
綺麗なところだけをすくい取る
世界はそんな人間のような生き方など出来はしない
水をすくえば量が減る
誰かが得れば、誰かは得られない
生きるためにその場所に居座ることは、他の者から場所を奪うことにはならないのだろうか?
善と悪など存在しない
勇者と魔王は生きたいと願い
勇者が生き、魔王は死んだ
きっと民衆は今後の自分たちの生活を考え歓喜したことだろう
人間同士の・・・・殺し合いの結末に
・・・・これは、そのあとの物語
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
勇者と魔王の戦い、そんなよくある話のほんの少し未来の話…
勇者が見せた勇気と希望は民衆の心を少しかすめて消えていき、人々は根源的な欲と嫉妬に必死に片足を突っこんでいる最中だった。
「どうしてこんなことを?」
薄汚れたマントで全身を隠した女性が俺の頭を膝にのせながら聞いてくる
ただ、今の俺はそれに答えられる状態じゃなかった
(別に誰が悪いってわけじゃない)
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
~30分ほど前~
「別に誰が悪いってわけじゃない」廃墟の屋上で一人つぶやく
そう、誰かに傷つけられたわけじゃない
誰も・・・・助けてくれなかっただけ
世界中の人間が医者だったなら助けられた子供もいた
お金さえあれば孤児院もこんな廃墟にならずに済んだだろうし
姉さんが殺されることも無かった
病気の子供を憐れむ声は余るほど聞こえてきたのに・・・
「助けて」と声をあげると、皆一様に目を背けて去って行った
この町の皆が食事を一回我慢してくれれば助かる命だったのに・・・
そうして大切な人たちは皆いなくなった
もう帰る人のいない俺の家は「男の亡霊がさまよう廃墟」とよばれ、幽霊を見に来る人間以外は誰も近づきすらしない
別にいまさら誰かを責める気はない
例えば、俺のことを本気で亡霊と勘違いして切りつけてきた子供のナイフによって、俺の心臓が貫かれていても・・だ
子供は泣きながら逃げて行った
「もう・・いいよな」
血が抜けていき眠るように意識は闇のなかへと落ちて行った
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「レオン?ちゃんと聞いてたの?」
「ん?聞いてたよ、姉さんがピーマンを未だに食べられないことについてだろ?」
「違うわよ!姉さんが魔法使いだってことを貴方に打ち明けておこうと思ったの」
「確かに先月の誕生日会の姉さんの恰好は魔女みたいだったな」
「もういい!あとで教えてって言われても絶対に教えてあげないんだから!」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「レオンが成人したら姉さんがプレゼントを用意しておくわね」
「期待しないで待ってるよ」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「姉さん?姉さん!!?」
「ごめ・・んね・明日成人なのに・・・・ね」
「何言ってるんだよ!!血が・・・・血が止まらない!!・・・誰か!!誰か助けて!!姉さんが!!姉さんが死んじゃう!!」
「レオン・・・少し早いけれど・・・成人おめでとう・・・・」
「な・何言ってんだよ!!とまれ!とまれよぉ!!」
「誰かを責めちゃだめよ?レオンハート・・・・あなたならきっと護れる・・・私の大好きな黒の守護者」
「なにいって・・・・姉さん?姉さん!!」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「は・・あ・・あああ・・ああああああああああああああああ!!!」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
そう、別に誰も悪くない
皆、限られた選択肢の中で精一杯生きているだけ
さっきの子供がごめんなさいと泣きながら走り去っていったのも
その子をそそのかした他の子供たちが入り口で慌てふためいているのも
俺も・・・・・・・・・・・・・・・・・
確かに、お金や権力を持っていなかった俺たちには手放しで喜べるような選択肢は訪れなかった・・・けれど自分が世界一不幸だと嘆いたこともないし、金持ちより劣っている存在とも思わない
少ないながらも選べる選択肢は訪れてたし、自分で選べたのだから俺はきっと幸せだったんだと思う
だから別に、思い残すことも・・・・
(あなたなら・・・きっと護れる)
(姉さん・・・)
「泣いているの?」
(泣いてない)
「このままだと死んでしまうわよ」
(そんなの自分が一番分かっているさ)
「後悔しない?」
(・・・・・・しない)
「私は貴方のことを何も知らないけれど」
(奇遇だな、俺もだ)
「道に頭をこすりつけて、泣きながら助けを求める子供の涙を止めてあげることなら出来る」
(は?)
「助かりたい?」
(もういいだろ)
「本当は少し知っているの、君はこの町では有名人のようだから」
(亡霊として・・か?)
「なぜ、子供たちが毎日のようにこんな廃墟に遊びに来ると思う?なぜ大人たちはそれを止めないの?」
(・・・・・・・・・)
「君は酒場の酒樽に何が入っているか知っている?」
(そりゃ酒だろう)
「お金よ・・・・あなたが育った孤児院へのね」
(!・・・・なんで)
「それも、金貨から小銭まで様々、中には泥まみれだったり血が付いているものもあった」
(・・・何でいまさら)
「昔、馬鹿な男の子がいたらしいわ」
(どうせ俺のことだろ)
「レオンハートというらしいけど」
(ほら)
「身なりの汚いその子供が道に頭をこすりつけて何やら叫んでいたらしいわ」
(誰も助けてくれなかった)
「その時、この町は飢饉だったそうね」
(・・・・・)
「当時この町では餓死者こそ出ていないものの食事を毎日とれるほどの余裕はなかった」
(分かってる)
「誰が悪いわけじゃない・・・皆、来月には死んでいたのかもしれないのだから」
(分かってるんだ)
「最初は罪悪感から逃れるために酒場の店主がコップにコインを1枚だけ入れておいたそうよ」
(・・・)
「私はそこまでしか知らないけれど・・・きっと間に合わなかったのね。でもお金は未だに貯まり続けている」
(・・・)
「そして、定期的に訪れる町の人々」
(・・・)
「きっとあなたは気付いてたのね。いえ、住人のすべての人が気が付いていたのだと思うわ」
(そう、ただ間に合わなかっただけ)
「・・・・・・・・・」
(何か言ってくれ)
「情けない男」
(罵倒してくれとはいっていない)
「でもきっと優しいのね、不器用な人が必死に作ったお墓がたくさんあったわ」
(悪かったな)
「あなたは守れなかった」
(・・・)
「このままだと貴方も、道で泣いている子供も、この町すら守れない」
(まち?)
「この町に再び飢饉が訪れているわ、お金さえあれば他の町から食べ物が買える」
(ならそのお金を)
「でもこの町の大人は例え餓死者が出てもあのお金は使わないでしょうね」
(なんで)
「これは、俺達のお金じゃないからですって」
(さっきの子供たちは)
「きっとあの子たちは退治しに来たのね、お金の持ち主である亡霊を」
(おれを・・・)
「あなたがお金なんていらないといえばこの町はあっさり助かるでしょうね」
(あ、あの)
必死に動かしたが、もう血も出ない体は少し震えただけだった
「・・・助かりたいの?助けたいの?自分のことすらまともに面倒見れないのに?」
(分かってるさ、助けてくれなんていまさらわがままは言わない・・・・だから)
「後悔が無い人は死に際に涙なんて流さないわ、あなたが本気で望むならあなたの口に出して言ってみなさい」
レオンは女性の膝から転がり落ちるとうつ伏せになったまま頭をあげた
「お・・・・ねがい・・・ます・・・おれ・・・に・・・・少し・・だけ・・で・・・・ので」
「・・・・・・・」女性はじっと黙ってそれを聞いていた
「ありが・・とう・・・・と・・・・ごめんな・・さい・・・を・・・・・・・・・い・・・・・・・・う」
(時間を・・・・か)
男の体はすでに熱を失っていた
「私は魔法使いよ・・・・・でも神様じゃない・・何かをするには・・・・・・代償がいる・・・・・・あなたに失う覚悟はある?」
さっきまで人間だった肉の塊は動かない
「あなたはきっと後悔する・・・・・」
遠くから足音が聞こえてくる・・・
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「化け物!!」
「もう、いやなんだ」
「殺してくれぇ!!」
「死にたいんだ!!」
「・・・・・・・・・・・」
「お前になんて・・・・・・・・・出会わなければ・・・・・・」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
頭に浮かぶのは助けた人たちの悲痛な叫び
「それでも」
女性の目から深い悲しみが零れ落ちる
(それでも駄目なら・・・・・私は知らない・・・・・もう味わいたくない・・・・・・・・でも)
「それでも望むなら・・・願いなさい・・・あなたの・・・・願い」
(願い?・・・・・願いならたくさんある・・・・あった・・・・・・・今はもう意味無いけど)
「そして覚悟して・・・・永遠の苦痛を」
(けど・・・少しだけ・・・あと少しだけ時間があったら・・・・)
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
~10年前~
「お兄ちゃん!あたしね!おおきくなったらね!おはなやさんになるの!」
「おまえばかだなぁ!それじゃもうからないだろ?おれはな!かねもちになるんだ!」
「それはおしごとじゃないよぅ」
「今度あの子たちのために学校の真似事をしてみようと思うの」
「兄ちゃん、最近あの女の子来ないけどどうしたんだ?」
「誰にも言うなよ?こっそり聞いたんだけどなんか大変な病気で寝たきりなんだって。お医者さんに診てもらえないと死んじゃうかもって」
(俺がバカだった・・・・今じゃ謝る相手もいない)
「あの子の家ここのちかくだろ?ちょっとみてくる!」
孤児院の子だ、お金なんて持っていない、泥だらけになりながら見つけた名前も無いような花は、お世辞にも輝いているようには見えなかった
コンコン
「・・・・はい」
最早顔見知りとは思えないほど痩せこけた女性が出てきた
「あの・・・・病気だって聞いて・・・・それで!」
「・・・・・・・・ありがとう」一目で金にならないと判断したんだろう、明らかにガッカリした様子で母親はそのまま出掛けて行った
男の子が家に入るのを確認すると、俺は急いで近寄り聞き耳を立てた
「え、えと、久しぶり!元気!じゃ・・ないんだよな・・・ごめん・・・・・・聞こえてるか?」
「・・・・・・・・・」
(今でもなんであんなことを言ったのか後悔してる・・・・時間を巻き戻して自分を殴りたい)
「お、おれさ!おっきくなったら花屋さんになるよ!それでこの町くらい大きな花畑つくってさ!お前に全部やるよ!」
「・・・・・・・・・・」
「だ、だからさ!もう少しの間、頑張って病気治せよ!俺、これから花とかいっぱい覚えて毎日お前に教えに来るからさ!」
ガキ大将のような男の子だったが・・・・・必死だったのだろう、その日から人格が変わったかのように猛勉強したようだ
しかし、1週間と経たずに女の子は息を引き取ってしまった
それから、町では最後に見舞いに来たその男の子のせいで死んでしまったという噂が流れた
誰よりも必死に、誰よりも健気にその子の存在を守ろうとしたのに
その子は皆の敵意の対象になってしまった
半年後・・・心身ともにボロボロにされた男の子は
あの女の子と同じ病気にかかってしまった・・・
精神的外傷で言葉も話せず、食料も手に入らない、それに加えてその病気はあの女の子を死に至らしめた
男の子が人生を諦めるには十分すぎる理由だった
昼間、何とか手に入れた野菜の切れ端を届けに行くと、決まって男の子は安らかな笑みを浮かべていた
俺は心の底から安堵した
これで許されたと思った
夜も特に泣き声がするわけでもなく、朝になるとちゃんと目が覚めていたから
けれど
こんな馬鹿な俺にも現実を知る時がやってきた
夜、トイレに行こうと部屋を出ると、あの子のベットが小刻みに震えていた・・・泣いていることに気がつくのにはしばらくの時間が必要だった・・・・・
あの子がショックで声が出せなくなっていることも、朝起きているからって夜寝ているとは限らないってことも
全て分かっていながら
それでも許されたい俺は、気がつかないふりをして過ごしていた
その後も、誰かに報告することも無く、俺はいつ叫弾されるかとビクビクしながら過ごしていた
そんな惨めな生活は男の子の意識が無くなるまで続いた
朝起きると、俺のベットに紙切れが置いてあった、よく見るとうっすらと黒い線が絡まって見える
・・・・文字?
「ご・・・め・・・・ん・・・・・な・・・・・さ・・・・い?」
「・・・・・・・・・ごめんなさい」
目も見えない状態で必死に書いたのだろう、その紙には少し濡れた跡があった
俺はその時どんな顔をしていたのだろう?今思えばひどく青ざめていたんじゃないかと思う
謝る相手に謝らせてしまった、しかももう返事を聞かせることができない
その晩、俺は1人泣き明かした
次の日から
俺は毎日街道で叫び続けた
許しを請うように
地面に頭をこすりつけながら叫び続けた・・・・
そんな俺に与えられた物は生温かい視線と、握りしめて硬くなった土の塊だけだった
日が暮れるまで叫ぶと、俺はあっさりあきらめて帰った
「何か・・・・・食べなくちゃ」
帰る時には必ずそう呟いていた
もちろん毎日食事が出てきていた訳じゃない
諦める言い訳がほしかった
そして、自分を正当化するために、帰ってから手を差し伸べてくれなかった人たちを呪った
そうして、俺は自我を保つために他人を悪者にしたまま距離を置いた
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
心の中で1年ごとの自分が「あの時のお前が謝っていれば!」と言い合いをしていた
しかし、それはもう過ぎてしまったこと
結局その役割は当然のように今の俺に丸投げされる
謝るのには十分すぎる理由が俺には確かにあった
けれど、特定のだれかに謝れば済む問題でもないし、町の人々を集めるのも申し訳なかった・・・・・怖かった
前の飢饉で不幸が訪れたのは俺だけじゃない・・・何人もの人に不幸はやってきていた
それに何より、皆に謝った後に帰る場所が・・・・・・俺にはもう残っていなかった
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「確かにあなたが引き起こした事件ではなかった、もちろん他の誰でも無い」
「なんだ・・・・全部聞かれてたのか・・・・・魔法使いってのは便利だな・・・・・・・・ん?」
(喋ってる?)
「でもあなたは・・・町の皆は・・・悪いことも・・・そしていいこともしなかった・・・ただ、生きるために」
「今思えば他に選択肢はいくらでもあった、ただあの頃の俺はそれしかないと思ってた」
「確かに誰も責められるべきことはしてこなかった・・・・・けれど、そのせいで死んでしまった人たちが確かにそこにいた」
「自分のせいじゃない理由がほしかった、責められる立場に回りたくなかったんだ」
「みんな、自分以外の悪役がほしかった、責める立場・・・・安全な立場にいたかったのね」
「そしてそれから10年もの時が流れてしまった・・・・・今更謝ることも・・・・無かった事にすることもできなかった」
「町の人々は罪悪感を酒樽に詰め込んで・・・・廃墟の亡霊は命を絶つことで楽になろうとした」
「・・・・・・・・・・・そうだ」
魔法使いは優しい空気を醸し出すとゆっくり口を開いた
「あなたは今日、どの道ここから飛び降りて楽になるつもりだったのでしょう?今からでも間に合うわよ?出来るものならやってみなさい」
「いや、俺は謝る時間が」
「ほら、いいから」その声色はどこまでも優しかった
レオンはゆっくり屋上の縁まで歩いて行くと突然視界がぼやけた
「みんな・・・・・・・・・」
孤児院だった廃墟の前では町中の人々が祈りをささげていた
「あなたが過去に背負った罪の告白は皆に受け入れられた・・・・・だからあなたは今生きている」
「はは・・・・・おかしいな・・・・・前が見えないや」
「何の意味もないからやめなさいって言ったんだけどね・・・・・信じて待つのにこれ以外の恰好は思いつかないって」
レオンはボロボロの洋服で涙を拭うと皆のもとへ駆けて行った
「お兄ちゃん!!」目を真っ赤にはらした子供がレオンの前まで走り寄る
レオンは子供の傷だらけのおでこを自分の服を濡らして拭いてあげると皆に向かって口を開いた
「はは・・・10年会わないと知らない子供がたくさんいるな」
大人たちは未だに顔を合わせづらそうな面持ちだった
「ずっと・・・・ずっと言いたかったことがあるんだ・・・・本当に言わなくちゃいけない人たちはもういないけど」
「わしらも同じじゃよ」先頭に立っていた年寄りがしわがれた声をあげた
老人はゆっくりとレオンに抱きつくと
「すまなかったなぁ・・・・10年は長かったじゃろうに・・・・辛かったなぁ・・・さみしかったよなぁ」と小さな瞳から涙をこぼしながら謝った
「レオン・・・これ・・・・今更なのは分かってるんだが」酒場の店主がそう口にすると町の全員で例の酒樽を運んできた
「なんだよこれ・・・・金貨じゃないか・・・・こっちは土がついてるし・・・・・・それに、これは」
レオンが大きな声をあげると「例の女の子」の両親がゆっくりと歩み出た
「これ・・・・・あんた達の・・・・結婚指輪・・・・それにこの袋のお金・・・・」
「それは去年、私たちが自主的に入れたものだよ」
「これ・・・・」
「それは・・・あの子の医療費になるはずだったものさ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「悲しいもんだね・・・・金の前には親の力なんて無いも同然だった・・・医者一人呼べやしない」
「でもあんた達は・・・・それこそ血を吐く思いで頑張ってたじゃないか」
「努力は・・・・とても尊い行為だね・・・でもそれはあくまで結果を手に入れる手段にすぎない・・・・努力には確かに意味があるけれど、それを誇ったりしたところで結果は何も変わらない・・・・・お前さんが一番知っていることだろう?」
「だからって、そのお金を受け取る理由にはならないよ」
「あんただけが辛いわけじゃ無かった・・・確かにね・・でもあんたが辛かったのは紛れもない事実、それをみんな分かってる」
「わしらにはあの子たちをすくう余裕はなかった」
「俺だって!!・・・・救えなかった」
「私たち親だってそうさね・・・・自分の子供一人救えなかった・・・・・でも・・・・見てみなこの樽一杯のお金を・・・・・これで今度こそ救うことができる」
「・・・・・これはやっぱり受け取れない・・飢饉なんだろ?・・これは皆が生き残るために使ってくれ」
「確かに前の時は何人もが不幸になった・・・・あんたを含めてね・・・・みな自分の身がかわいかった」
「なら!」
「でも、今回は大丈夫さ、あんたが教えてくれたんだよ?確かにあの子たちは助けられなかった・・・・けど、あんたの声は私達に確かに届いてた」
今まで黙っていた父親が口を開いた
「レオン・・・・お前はもうこの町を救ったんだ・・・それはこの飢饉を俺達が乗り越えた先に必ず結果として残る。この金はお前が不条理の中に投げ入れた一石の初めての結果なんだ」
「・・・」
「この町が自分以外の誰かのためにやり遂げた結果なんだ・・・とても大きな一歩だ・・・これはお前の気持ちが起こした奇跡なんだ」
「それを私達が使っちまったら・・・それは自分の為にしたことになっちまう・・・これをレオン・・・お前さんに使ってもらう・・・・それではじめてお互い「ごめんなさい」完了なんだよ」
「俺が使う・・・・」
(一体何に?もう俺に残されたものはこの体と廃墟だけ)
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「お兄ちゃん!あたしね!おおきくなったらね!おはなやさんになるの!」
「おまえばかだなぁ!それじゃもうからないだろ?おれはな!かねもちになるんだ!」
「それはおしごとじゃないよぅ」
「今度あの子たちのために学校の真似事をしてみようと思うの」
「お、おれさ!おっきくなったら花屋さんになるよ!それでこの町くらい大きな花畑つくってさ!お前に全部やるよ!」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「なら・・・・さ」
「ん?なんだい?」
「学校をつくってくれないか?一緒に花畑も・・・・・・・い、今がすごくつらい時期なのはわかってる!だから20年でも30年後でも構わない」
「・・・・・・全く・・・・バカだねぇ」母親の目からは大粒の涙がこぼれていた
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
娘がまだ生きていたころ・・・・ボロボロの洋服の男の子が毎日家を訪ねてきていた
娘が花屋になりたいことを知っていたらしい・・・・毎日一生懸命になって、意識の無い娘の手に覚えたての花の名前を指でなぞっていた
そして必ず帰りに私に泥にまみれた汚い花を一輪だけ渡して帰るのである
孤児院の子供なのは知っていた、お金など持っていないことも・・・・その頃は飢饉だったので作物はお金を出しても買えなかっただろうが
それでも必死になって探しだしたのがこの花なのだろう・・・・・私が嫌そうな顔で花の泥を落とすとそれはそれは綺麗な純白の花が現れた
花は娘の顔の近くに花瓶に生けておいてあげた・・・・せめて花の香りだけでも…と
最初の花の花弁が散った時、男の子の目の前で娘は息をしなくなった
男の子は花弁の無くなった茎を握りしめて「僕のせいだ」と泣いていた
それから少しして、娘はその男の子に殺されたことになっていた・・・
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「必ず・・・必ず作るよ・・・・・」
「よろしく頼むよ」
「ここにお花が咲くの?」子供たちが集まってきていた
「出来ればお前たちに育ててほしいなぁ、この町より大きな花畑にしてほしいな」
「ならさ!・・・・・・ほら!こっちおいでよ!」男の子に促されると小さな女の子が前に出てきた
「こ・・・・・・・これ・・・・あげる」そう言って女の子は白い花を差し出した
「綺麗な花だね・・・ありがとう・・・・なんていう花なの?」
「わかんない・・・・・小さい頃に知らないお兄ちゃんにもらって・・・・町の外で咲いてるの」
その時突然「例の女の子」の母親がポツリとつぶやいた
「シルヴィア」
「え?」
「その花に名前なんて無いんだよ・・けど・・・・あの男の子が・・・・うちの娘・・・・シルヴィアに・・・同じ名前の花があるぞ!って」
「皆・・・この花・・・学校で育ててくれないか?」
「もちろん!綺麗だもんな!シルヴィアの花」
「ありがとう」
次の日の朝・・・・レオンと魔法使いは忽然と姿を消した
白い・・・綺麗な花と共に