冬
冬が来た。当然だが寒い季節である。俺は寒風に耐えながら家路についている途中である。
「ううー、なんでこんな寒いんだよ。冬なんかなくなっちまえよ」
嘆いても仕方ないことなのに嘆かずにはいられないのは人の性なのだろうか?
「……少年よ、そんなに冬は嫌いか?」
「へっ?」
振り向くと純白の着物を着た女性がくつくつと笑いながらこちらを見据えていた。
「だ、誰だよお前?」
「お前と来たか、礼儀のなっていない少年だなあ。目上の者には敬語で話すのが当然だろ?」
いきなり話しかけてきた怪しい奴に敬語もくそもない気がするのだが。
「それよりも少年、冬は嫌いなのか?」
それよりもって……敬語は結局どうでもいいのだろうか。じゃあ最初からいうなという話だ。
「……冬は、嫌い……かな。寒いし」
そう言った瞬間、少し寂しい表情をした――気がした。しかし、そんなことを微塵も感じさせないほどの笑顔になり、
「よし少年! ついてまいれ!」
「え、え、え!? ちょっと待ってくれよ!!」
その女は俺の腕を掴んだかと思ったら一瞬体が浮――いたかに思えたが、しっかりと足は地面についていた。
「い、今の浮遊感は?」
「少年よ、見てみろこの光景を」
女に言われるがまま俺は目の前に広がる光景を見た。
「う、わあ」
目の前には俺の町があった。今いる位置は先ほどいたところではなく、近くの山の上だった。そしてそこから見下ろして見える光景は非常に美しい雪景色だった。
「さっきまで雪なんて降ってなかったのに……」
そう、確かにさっきまで雪なんて降ってなかった。しかしこの光景どこかで見たことある。
「そうだ。昔に見た光景まんまだ」
俺はまだ小学生くらいの頃、この山からこの光景を誰かと見ていた。その誰かは今はもういない。ある日突然いなくなったのだ。誰に聞いてもそんな子知らないという。
「その子、そうだ。その子も冬が好きだって言ってた。冬だと俺に会えるからって――そうか、お前、あの時の……」
俺はその女を見る。確かにその時の子の面影が残っている。なんて懐かしいんだ。
「やっと思い出してくれたか。私は――いや、これを言うのはよしておこう」
俺にも言いたいこと、そしてこの女の正体がわかった。
「ああ、そうだな――――――この光景や……お前のことを覚えている限り、俺は冬を嫌いになることはないよ」
「ありがとう。もし、忘れてもきっと私が――――」
女が涙を湛えながら精いっぱいの笑顔を俺に向けた。
気付けば俺は元々いた場所にいた。
「――――うう寒い。帰るか」
相変わらず寒かったけど、俺は冬が嫌いになることはなかった。
<了>
冬はセンチになる。そんなことを思いながら書いた作品。