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4.生き抜く方法を修行で(1)


「俺はスピードに順応しないといけない。ステフは魔法の応用、ガルドは力の使い方を学んで欲しい」

「力の使い方ですか?」

「うん。実はスピード10倍ならダメージが100倍って言ったけど、実際にはもう少しだけ深い理論があるんだ」

「わ……私は関係ないから理解しなくてもいいわよね……?」

「簡単な理論だとありがたいのですが……」

「すごく簡単だよ。例えばここに巨大な豆腐があるとする」

「木綿ですか?絹ですか?」

「いやどっちでもいいけど……続けるね。10mくらいの巨大な絹ごし豆腐があるとするよね」

「はい」

「例えば、落ちてる手のひらサイズ石を豆腐に投げつけたら、どうなる?」

「貫通するか、途中で止まると思います」

「そうだね。石を投げたスピードが速ければ貫通するし、遅ければ中に埋もれてしまう」

「……これが速さが10倍だとダメージ100倍ってことですね」

「だけど10mの豆腐を貫通した石。これが超巨大な100mの豆腐だとどうなる?」

「さすがに途中で止まりそうですけど……」

「もし貫通できたとしても投げた瞬間より勢いがなくなってることは確かだよね?」

「はい」

「つまり、速さはどんどん減衰していくものなんだ。最終的には必ず停止する。でも、どんな巨大な豆腐でも石を貫通させる方法があるんだ」

「そんな方法が?」

「それは、力だ。後から石を押してやればいい。」

「なんかずるいですね」

「これが、加速度。速度は時間と共に落ちていくものだけど、加速度は時間が進むたびにどんどん速くなっていく。加速度の使い方でダメージが決まる」

「力の使い方、つまり加速度を学ぶことに繋がるのですね」

「オーク領侵略クエストで最初にガルドが放った一撃。勢い良く斬りかかったのに簡単に弾かれたよね」

「情けない話です」

「あれは加速度が剣に乗ってなかったからなんだ。初心者の剣が軽かったってのもあるけど」

「ジェイク殿、勉強になりました」

「さっぱりわかんないわ……」


なんだかんだで修行が始まった。

まさかゲームの世界で狩りじゃなくて修行することになるなんて。

お師匠様みたいな役目の人もいないし、感謝の正拳突き1万回でもやってみるかな……。

俺達の領地、つまり湿原には修行に使えそうなものが無かったので森へ向かうことにした。


修行相手は木だ。

一度やって見たかったんだー。大木に向かって黙々とパンチする修行。

すごい格闘家っぽくない?

でも、俺かっけー!とか思いながら木に正拳突きしてる格闘家ってすごいダサい……。


言いだしっぺが全然修行せずに一人妄想を繰り広げていると、隣で馬鹿でかい巨木に向かって剣を振ってるガルド改め木こりが話しかけてきた。

装備している剣はオークアーマーから拝借したものらしい。


「ジェイク殿。木にもHPがあるみたいです」


少し見上げると、確かにHPバーが確認できた。


「これは丁度いいね。与えたダメージの目安になりそう」


素材収集の伐採用HPなのだろうか。

ガルドが剣を振るうたびにHPが1%ずつ減っているようだ。


「ガルド、一回本気で斬ってみて」

「わかりました。助走付けます」


ガルドは2歩後ずさり刀身を肩に乗せた。

一呼吸置き、跳躍。

上段に構え、全体重を刀身に乗せて木を一刀両断する勢いで斜めから斬り下ろした。


ガイーン……。


剣は巨木を両断できずに、哀愁を漂わせながら木に挟まれている。


「ふぅ。豆腐の中の小石……ですな」

「そんなことわざないよ」


よっこらせとガルドが剣を引き抜く。巨木のHPは1割ほど削れていた。


「必殺の一撃って感じだね。いつか一撃で木をぶった切る日が楽しみだね」

「実践ではなかなか使えない太刀筋ですが……」

「実践かー。隙が大きいからね」

「ですね。もっとコンパクトに切り裂くような剣を練習します」

「ガルドはステータス的には最強クラスのはずだから、その方がいいかもね」

「アドバイスが欲しいですジェイク殿」

「うーん。剣の先端がいわば最速なわけだよね。対象を斬るときに適度にえぐればいいんじゃない?そしたらさっきみたいに剣が挟まることも無いだろうし」

「剣が身体にめり込むのは改めて考えるとなかなかグロテスクですね」

「オーク相手に切り刻んでたよね」

「奴らは最初からグロテスクですから……」

「たしかに」


ガルドが巨木を薙ぐ。刀身の先で巨木を切り裂くようにして横に薙ぐ。

巨木のHPが更に1割減った。


「すごいじゃないか」

「最後まで力を加え続けるイメージで斬ってみましたけど、こちらの方が良いみたいです」


途中で止まらず剣を振りぬいた方が効率が良いのか。

ステフの様子も見てこよう。


「ステフー。調子はどう?」


ステフは少し離れた場所で水属性の魔法の応用練習をしていた。

ずぶ濡れのステフに声を掛ける。なんかエロい。


「あっジェイク。水球の応用だけど、4つまでならずっと空中で維持できるようになったわ」

「……驚いたな」


維持するどころか、4つの水球を自由自在にコントロールして見せた。

ゆっくりではあるが木々の間を縫って移動する。

まるで生きているようだ。


「ドヤァ」

「口に出すな口に」


4つ同時に別々の動きをすることは難しいようだ。

脳は一つしかないから仕方ないか。


「あー!新しい水属性魔法を覚えてるわ」

「おっ何ていう名前?」

「アクアジェット」


そう答えるとステフは俺に向かってスキルを放つ。

ステフのロッドから放水器のように大量の水が発射された。

反射で上に跳んで避ける。

名前から魔法の特徴をある程度予測できたから辛うじて回避できたものの……


「危ないじゃないか!」

「ちっ」


態度悪っ!

まぁ無事だったし……いっか。


「ジェイク殿ー!先ほどの水は!?」


ずぶ濡れのガルドがやってきた。

完全に水を浴びた後だった。


「ステフの新しい魔法だよ」

「へぇー。なんて魔法なんですか?」

「知りたい?」


ステフが問う。このフリは……


「えぇ。知りたいですよ」

「アクアジェット!」


ガルドは大量の水と共にどこまでも吹っ飛んでいった。


「そのアクアジェットも応用できそう?」

「んと……どんな風に?」

「口径を絞れる?」


極限まで水圧を高くしてマッハ3を超える速度で水を打ち出すと、鉄板も切断できると聞いたことがある。

更に研磨剤を混ぜるとダイヤモンドすらカットできるのだが、研磨剤なんてこの世界に無いだろう。

しかし水だけでもかなりの攻撃力になるはず。


「やってみるわ」

「頼むから俺に向けて打つなよ!」

「ダチョウ?」

「ダチョウじゃない!」

「ちっわかってるわよ」


ステフはアクアジェットを放つ。

口径を絞るように言ったのだが……


「だめー!威力が弱まるだけだわ」

「口径を絞るっていうイメージが良くないのかな。威力を上げて、放出するスピードが速くなる感じでしてみて」


水に勢いをつけるということは、口径を絞ることではない。

水圧を上昇させること。力を使うこと。魔力を使うこと。

ステフは再度アクアジェットを放つ。


「少し良くなったかも……?」


ステフはこちらを伺うように見ているが、俺が想像している水の勢いには全く届いていなかった。

たしかに少しは勢いが増しているような気もするが。


「ステフ……魔力を全部使うつもりで一度やってみてほしいんだ」

「全部!?」

「うん。グッと力を溜め込んでとにかく勢いを強くすることだけに意識して」

「わかったわよ。なんか不安だけど」


深呼吸を何度か行い、ステフはアクアジェットを放つ。

ドゴーンと爆音が鳴ると同時になぜか後ろへ吹っ飛ぶステフ。

肝心の水の勢いは……?


大木に巨大な穴。

……貫通こそしていないがこの破壊力。

口径を狭めたら貫通するんじゃないか?

おそるべし。

魔力を使い果たしたステフは後へ吹っ飛んで気を失ったようだ。


「ジェイク殿!先ほどの音は一体!?」

「ステフが魔法を使って気を失ったんだ。リザードマンの姿に戻ってるでしょ」

「あっ本当ですね。……それにしてもブスですねー」


聞かれたら殴られるだろうに。

あっ起きた。

殴った。



―――こうして修行は始まった。


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