入国
「さて、どうしま──」
「おい!てめぇ!」
聖夜の呟きを武器を持った大人たちのリーダーらしき人が遮った。
聖夜はそれを気にはとめずに振り向き、後ろの馬車の御者に問い掛けた。
「あの、どういう状態ですかね?」
「は、はい!い、今あの盗賊に襲われてます!」
──そうか、盗賊か…。
あの盗賊が悪い奴らというのは分かったがこの御者が悪い人とはまだわからない。
つまり優先的に盗賊を追い払うことになるわけで。
「終わらせますか。」
「お話は終わったか?待ってやったんだ、楽しませろよ?」
ため息をつくように言った聖夜に盗賊のリーダーは卑しい笑みを浮かべて言った。
まるで実力差を分かってないと言うように。
「おめぇら、やっちまえ!」
この言葉で戦いの火蓋は切って落とされた訳だが──
「か、頭ァ!あ、足が動かねぇっす!」
「はぁ?てめぇ何をバカな──あ?お、おい!何しやがった!」
「んー、魔法?」
実際は空の魔法で足を固定しただけなのだが空の魔法も時の魔法も伝承にしか残ってないため何をされたのか聖夜以外は誰にもわからないのだ。
聖夜はおどけたように言ってみせ、一番近くにいた盗賊に近づいていった。
「く、くるなァ!」
「いや、そう言われても…。」
足が動かない盗賊はその手に持っている剣を振り回すが、軸が定まらずにバランスを崩して前のめりに倒れた。
その様子に聖夜は苦笑いをしてしまう。
そして、盗賊の持ってた剣を手に取った。
「試してみるか…。」
──時間退行。
すると聖夜が持っていた剣が形を変え、一つの塊になった。
時の魔法を使い素材の状態まで戻したのだ。
「お、おまえ何をした!?」
別に言ってやる義理もないので聖夜は黙って他の盗賊の剣も素材に戻していく。
「これに懲りたら盗賊なんてもうやらないことだね。」
そう言いながらミョルニルを大きくして見せた。
「次はないよ?」
「は、はいぃ!すすすすいませんでしたっ!」
笑いながら言う聖夜と大きくなったミョルニルを見て盗賊は顔面を蒼白にして逃げていった。
「さて、大丈夫ですか?」
「はい。本当にありがとうございます。命拾いしました。見たことのない魔法ばかりでしたけど、あなたは何者なんでしょう?」
「いえいえ、困っていたらお互い様ですから。けどまだあなたを信用しているわけではありませんので答えることは…。」
──さすがに人前で使うのは控えるか。
「ああ、いえ!魔術師様に手の内を明かせなど、無粋でしたね。」
──この人は強い。覚えていた方が得でしょう。
表では2人とも笑顔を作っているが、同時に別々のことを考えていた。
「あ、そうだ!さっきの塊を見せてもらえます?」
「そこらに転がってるのでどうぞ。」
そう言って御者、中年の男は塊を物色していく。
どうやら終わったようで聖夜に近づいてきた。
「あの、あの鋼の塊全部で銀貨35枚で売ってくれませんか?今日は助けてもらったのでさらに5枚。どうです?」
「あの…相場がわからない上に島国から来たもので…金銭感覚とか全然分からないんですよ。」
そうやって苦笑いして見せた。
男は納得がいったように頷いていた。
「道理で、見たことない服を着てらっしゃる。」
今の聖夜の姿はグレーのパーカーに緑のカーゴパンツをはいていたのだ。
この服、一番お気に入りだったからって落ちる前に再現してもらっていたのだ。
「それでは元々の銀貨35枚とここら辺のことなどの情報、それと一番近くのエルーン王国へ一緒に行くというのはどうでしょうか?」
「なんで…ここまで?単に助けたからではないですよね。」
──ここまでする道理とは…?
「助けてもらったのはもちろん、あなたといれば用心棒になりますし。あと、先行投資ですよ。」
笑いながらそんなことを言ってきた。
前者はわかるが後者はよく分からないといった風に首を傾げた。
「旅のお方、あなたは強い。エルーン王国に滞在するなら我がギルバート商会をご利用ください。」
早い話、聖夜の倒した強い魔物の肉や毛皮などを融通を多少利かすから全てうちの商会へ売ってくれと。ということだ。
強い魔物ほど素材を手に入れるのは難しくなってくるため需要の高い場所へ売りに行けば利益は大きくなっていくのだ。
「なるほど。いいでしょう。ええっと…。」
「申し遅れました。ギルバート商会副会長のダグラスと申します。」
「あ、星野聖夜です。聖夜が名前です。」
「ここら辺では家名は持つものが少ないですから名前だけ名乗るといいですよ。セイヤさん。」
こうして2人は握手を交わした。
◇◇◇
ダグラスさんに鋼全てと銀貨34枚と銅貨100枚を交換し、馬車に乗せてもらい、話を聞いていた。
ダグラスさんからの話によると、まずこの大陸では銅貨、銀貨、金貨、白金貨があり銅貨100枚で銀貨1枚、銀貨100枚で金貨1枚という感じで白金貨持っている人はめったにいないそうだ。
4人家族が1ヶ月暮らすには金貨1枚あれば十分と言うわけだ。
二つ目に貴族だ。貴族制度というものがあり、王家の次に公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵、騎士という順番に権力を持つ。
騎士の場合は平民でもなれる可能性はあるという。
貴族の中には権力を振りかざし、好き勝手やるような人もいるそうで、誰も手が出せないそうだ。
やはり権力の前では動くことができなかったりしているんだそうだ。
そして三つ目。これは奴隷についてだった。
聖夜は少しは予想していたのかあまり驚きはしなかった。
この世界の奴隷はだいたいは貴族が所有している。
理由としては、やはり高いという。
だが、奴隷と言っても人道的な扱いをされるそうだ。
しかし例外もあって、先ほどの好き勝手やるような貴族はいい奴隷を奴隷商人から直接安く買いたたいたりしているそうだ。
最後に冒険者について。
やっぱりそういうのあるんだなと一人納得した聖夜だった。
危険が常に伴うが一番儲かる職業と言っていた。
聖夜はダグラスさんになるなら冒険者でしょう?と、分かっていますよ。なんて感じに言われていた。
◇◇◇
他愛のない話をしていると、王国の入り口はもうすぐそこだった。
「おお、でっかいなー!」
「そうでしょう?いつ見ても壮観ですよ。」
聖夜はダグラスさんに敬語は堅苦しいので、と直されてしまったのだが、ダグラスさんは職業柄敬語の方が楽なんです。と言われこういう形になっていた。
「そこの馬車、止まれ!」
入り口にいた2人の騎士に止められた。
2人はダグラスさんの馬車の中身を検査し始めていた。
「ふむ、この毛皮は?」
「それはレッドベアの毛皮でございます。そろそろ寒くなりましょう?服の素材や寝床の毛布など用途はまちまちでございます。」
「なるほどな。貴様どこの商人だ?そのうち見に行くぞ。」
「ありがとうございます。ギルバート商会にございます。」
「わかった。で、そっちの小僧は?」
「俺──」
「旅の者にございます。ギルドで働きたいと申しております。」
「ほう、冒険者にか。ということはこの国の者ではないな。なら入国料銀貨2枚払ってくれ。」
「は、はい。」
聖夜は袋から銀貨2枚取り出し騎士に手渡した。
「よかろう。ようこそ、エルーン王国へ!」
そう言うと大きい扉は開かれた。
◇◇◇
扉をくぐると人、人、人で賑わっていた。
「ダグラスさん、なんでさっき止めたんだ?それにしてもすっごいなぁ。お祭りみたいだ。」
「騎士といえども貴族。平民は敬語でなくてはならないのですよ。毎日このように賑わっておりますよ。」
「ああ、そっか。そういうものか。」
「そういうものです。これからギルドに行くなら先に宿を取っておくといいでしょう。案内しますよ。」
「お、悪いな。サンキュー。」
「セイヤさん、さんきゅーとは?」
「サンキューっていうのはありがとうって意味さ。友達に使ったりするんだ。」
「珍しい響きですね。セイヤさん、改めて今日はさんきゅーです。」
「お、おう。お互い様だ。」
そう言って人ごみに紛れていく。
2人は今日、“本当”の笑顔を交わした。
鋼の塊全部で金貨35枚
↓
鋼の塊全部で銀貨35枚
貴族しか所有している。
↓
貴族が所有している。
買いたたいたりしする
↓
買いたたいたりしている
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