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魔物

戦闘描写難しいですね…。




異次元の穴を越えるとそこは森だった。

木々の背は高く少し薄暗い。1人なら間違いなく不安になるだろう。聖夜だって例外ではない。


「ヤバいだろここ…絶対なんかでるって…。」


たとえ1人でも声を出してないと不安になるというものだ。


「ちょっと歩いてみるか。」


草を踏み倒しながら1,2分歩いていくと小さな小屋があるのに気づいた。山姥が住んでそうな、少しボロい小屋だった。


「…誰も、いないよな…。」

──これは、フラグじゃない。大丈夫だ。大丈夫。


ギィ…と音を立てて扉を開く。何もなかったことに内心安堵しながら。中を見渡す。家具という家具はなくテーブル、イス、ベッドがありテーブルの上に紙切れと袋が置いてあった。


──爺さんからの手紙かな?


予想してみるが十中八九そうだろう。


「どれどれ…。」


『スカイウェーじゃ。まずこの小屋についてじゃが、基本就寝くらいにしか使わんじゃろ。それで一緒に置いてある袋には剥ぎ取り用のナイフと火石と呼ばれる魔石が4つ入れてある。ナイフは言わずともそのまんまの意味で魔物を倒した後に食糧確保のために使うんじゃ。で、火石というのは精霊がいなくとも火を出せる石のことじゃ。だいたい3ヶ月くらいで魔力が切れるようじゃから4つじゃ。魔力が切れるとただの石になるから捨ててよい。あと魔物についてじゃが体感約半年までは下位と中位の魔物しか出ん。が、残りの半年は上位の魔物しか出ないようにしてある。つまりこっからが本当の修行じゃな。死なぬよう頑張ってくれ。健闘を祈る。』


“死なぬよう”と書かれていた。つまり死ぬこともあり得るということだ。やらねばやられる。そういうことだ。


──なるほどな。完全に狩人になれっていうことか。やってやろうじゃないの!


聖夜はナイフを手に取り小屋を出た。





◇◇◇

修行1日目




小屋の周りを散策してみると井戸があった。


「水はあるみたいだな。」

──てことは川もあるかもしれないな。風呂とは言わないけど水浴びくらいならなんとかなりそうだな。


そんなことを考えながら歩いていると木の実がなっているのに気づいた。その実は緑色をしていた。


「…食えんのかな。まあ試さないことにはどうにもならないよな…。」


そう言い聞かせてシャキッと一かじりしてみる。


「お、うまいな。りんごみたいな味だな。」

──問題はないっぽいね。


そのとき後ろのほうでガサッと音がしたため振り返ってみると一本の角が額から生えた体長50cmくらいのウサギがいた。


──こいつが魔物って奴かな?ていうかそうだよな、ここにいるんだし。


そう考えながら背中に背負っていたミョルニルを手に掛ける。聖夜とウサギ?の距離は約5m。それと同時にウサギが跳ねだした。実は気付いたのだがこのミョルニル、篭手を付けてれば体のどこに当たっても熱くはないのだ。


──なんだ?いきなり……マズッ!


ウサギが跳ねるのをやめたと思ったらすごい勢いで飛び跳ねてきたのだ。聖夜はとっさに転がり回避していた。


──あぶねぇ。けどあんまり速くはないな。おおよそ“時速100km”ってとこか?


聖夜はそう思っているが実際時速100kmは速い。しかしテニスのサーブで時速100kmはさほど速くはない。余談だが聖夜自身が放つサーブの速さは最高で時速180kmをマークしていた。このレベルになると周りもだいたいこのくらいなのだ。普段の練習の賜物だ。


──次でしとめる!


ミョルニルを体の前で構える。ウサギが跳ねる。そして──


──キタッ!


水平にミョルニルを引く。タイミングはバッチリだった。


「甘い!っらああぁぁ!」


ウサギが水平に吹っ飛んでいった。とんでもない威力である。普通に人間が同じことをやったなら骨に日々が入っていてもおかしくはないのだが強化された身体である上にテニスプレイヤーである。そうそう腕が壊れたりはしない。


「…終わったか。」

──殺してしまった…。


分かっていた。殺さなくてはいけないことは。分かっているが故に罪悪感がどんどん大きくなる。命のやり取りが終わって緊張の糸が切れたのか座り込んでしまった。


──これはくるなぁ…。でもやらなければいけなかった…。


そう自分に言い聞かせ、立ち上がりウサギの近くへ歩いていく。既に肉塊へと成り変わっていた。


──…っ、ダメだ。目をそらすな。自分のやったことだから…。


「…ごめんな。恨むなら俺を恨め。」


そういい腰に差していたナイフで肉を剥ぎ取った。


「今日はもう帰るか。ゆっくり、ゆっくりやっていこう。」


そういい小屋へ帰って行く。もし今日の相手が人だったら。なんて考えなかった。考えたくなかった。怖くなった…。そんな想いが行き場をなくしさまよっていた。





◇◇◇

修行50日目





だいたいミョルニルも空の魔法も使い方はうまくなってきていた。ミョルニルに至っては最初は力付くで振り回していたが今では踊るように流れに身を任せて振り回していた。


「今日は狼の群れか。」


グルルルルル…!

そういう聖夜の前には牙を剥き出しにし、唸っている狼が5匹いる。そして一斉に飛びかかってくる。


「展開!」


聖夜が手を突きだしそう言うと不可視の壁が現れた。「展開」と言ったのはイメージを濃くするために言っているのだ。


狼達はギャンッと鳴いて体勢を崩す。そこにすかさず聖夜が攻撃の手を入れようとする。聖夜はフィギュアスケートのように一回転し、その勢いでミョルニルで横薙ぎを繰り出す。


ドゴォ!と凄まじい音が響いた。


これに3匹呑み込まれ、残り2匹。2匹とも圧倒的な実力差から逃げ出そうと走り出すが1匹は空の魔法で足を捕らえられ動けなくなった。


「悪いな…。スタンプ!」


その名の通り地面に垂直にハンマーを振り落とす技である。純粋な威力では一番の攻撃力を誇るがリスクとして隙が多いためあまり使わないのだ。これで残り1匹。だいぶ距離ができてしまった。だが、聖夜は近距離しか対応できないわけじゃない。


聖夜は空の魔法で空気の球を作り出す。ちょうど“テニスボール”くらいのものを。ミョルニルを右手で持ち、左手で球を地面でバウンドさせ、狙いを定めた。


球を頭上に投げ、同時にミョルニルを頭の後ろまで振りかぶる。そう、これはどっからどう見てもサーブのフォームである。長年かけて染み付いたものは簡単には落ちないそうだ。


そしてタイミングよく──


「打つ!」


見事に直撃した。強化された身体で放つサーブはゆうに時速250kmは出ていた。


「ふう…。今日はここまで。」


聖夜は狼の肉を剥ぎ取り帰って行った。その後ろ姿は少しだけ寂しそうに見えた。





◇◇◇

修行184日目




「お、2個目の火石が切れたってことはそろそろ上位の魔物が出るってことか…。」


そういってミョルニルを手に取り今日も魔物を狩っていく。





◇◇◇

修行365日目




実際上位の魔物も聖夜の前では無意味だった。その中には向こうの世界では特定危険生物とされる魔物もうようよいたのだが。


そして今日、約束の1年が経つ。長かったような短かったような。ただ、人恋しさはあったのだが。


「今日の森はやけに静かだな…。」

──何かが、いる…?


ギャオオオオオオオオオオッ!


──ッ!なんの鳴き声だ!?


もはや鳴き声というよりは砲哮といったほうが近いのだが。そして聖夜が振り返るとそこには真っ黒なドラゴンが両翼を広げていた。


「まじかよ…。」

──でっかいな、おい。10mは軽くあるんじゃねぇのか?というかラスボス?


お互いに目が合った。戦闘は始まった。聖夜は木々の間を走り抜けドラゴンの足下までくる。しかし、屁でもないと言うように尻尾で一帯に横薙ぎをしてきた。


──あれじゃ近づくのは難しいか…?


聖夜はとっさに後ろへ跳び回避していた。

するとドラゴンはいきなり飛び上がって聖夜の方へに口を向けてきた。


──何がくる?…ブレスか!間に合わないか!?


「展か──」


ゴウッ!辺りが真っ赤な炎に包まれ聖夜もろとも呑み込んでしまった。ドラゴンがブレスをやめると煙で視界が悪くなっていた。ドラゴンは他愛もないという風に身を翻そうとした。


バコンッ!バコンッ!と何度も音が聞こえてきた。

聞こえる度にドラゴンの翼には穴があいていた。


「…さすがに今のは肝が冷えたよ。」


苦笑した聖夜が煙の中から出てきた。別に「展開」と言わなくてもイメージさえすれば魔法の形成はできる。とっさに炎の軌道をずらしていたのだ。


「お前はもう飛べない。」


言った直後に聖夜は空の魔法で空中に足場を作り駆け上がっていく。

そしてドラゴンの頭上まできた。翼という機動力をなくしたドラゴンは空中で身動きをとれなくなっていた。


墜ちていくドラゴンに聖夜が飛び込んでいき、ミョルニルを通常の10倍近くまで大きくし、振り上げた──


「終わりにしてやる!特大スタンプ!」


バゴォオオオオオ!という音が響いたと思ったら辺りは静けさに包まれていた。



肝心のドラゴンは絶命していた。





「終わったあああああああ!」


終わったのだ。嬉しさから目には少し涙が浮かんでいた。聖夜が叫んでいると、いつぞや見た異次元の穴が開いた。


「ただいま。」


彼は小さく呟いた。

ちなみに私のサーブは全盛期でだいたい160kmくらいです。

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