夢見
「ほっほっほ。コロコロと表情を変えおって、お主はおもしろいのう。」
「いやっ、まあ…よくいわれてたけど…」
──そんなに顔に出てるのかな、俺…。
もう知る由はないのだが実は、スポーツができて容姿もまあまあよくて喜怒哀楽がはっきりしている聖夜には、密かに聖夜のことが好きな人が少なからずはいたのだ。
「そうじゃろな。それで次に魔人について話すぞ?」
「あ、ああ。よろしく。」
「魔人というのはな亜人のように部分的に能力が優れているのではなく全体的に能力が高いのじゃよ。まあ特徴と言えば褐色の肌かのう。あと人間に比べて数が圧倒的に少ないんじゃよ。」
「強いのになんでなんだ?」
「それはじゃな、まず寿命の問題じゃ。魔人の寿命は約300年くらいなんでな、あまり子孫を残すということに焦りを感じないんじゃ。問題なのはもう一つでな、人間というのは未知の力や強大な力を畏れるじゃろ?」
「…確かに、怖いものは怖いな。でもそれがどういう…。」
──日本はアメリカ相手に武力じゃ勝てないから下についているのに…。
「分からぬか?怖いものがあるならなくせばいい。戦争じゃよ。魔人側の王を魔王というんじゃが、人間側はその魔王が悪いことを企んでいると言いだして戦争を起こしたのじゃ。もちろん魔王は魔人の王なだけで悪いことなんて一つもないし、戦争だって人間が攻めてきたから戦っただけじゃ。」
「そんな…こと…あってもいいのか…?」
自分と同じ人間がそんなことをしていることに愕然とし、自分と同じ人間だからこそ恥ずかしくなってしまう。もし自分がその世界の住人だったならば同じようにしていたかもしれないと思うと。
「人間側で一番大きな国の王が言い出したこと、誰も咎めることができないんじゃ。そして国民は真実を知らんがずっと魔人が悪いものだと思いこんどる。」
「そんなのは…間違ってる。」
「そうじゃな、間違っておる。じゃが、それが世界の常理じゃ。どうしようもできない。どこの世界でもいつの時代でも。…じゃが一度できた結びつきはなかなかほどけないものじゃ。」
「…」
その言葉に何も言い返すことができなかった。あまりにも無知だと。無知は罪なり。こういうことを言うのかと、思い知らされた。
「…どっちに勝敗があがったんだ?それと、亜人は?」
こんな質問、気休めにしかならないということは聖夜もわかっている。
「勝敗のう…。魔人のほうが優れているといえど人間の数にはさすがにキツいものじゃてな、人間と魔人の戦争は拮抗しておるのう。亜人は中立じゃな、傍観者といったところかの。」
「…そう、か。…俺に何かできることってあるか…?」
「なぜじゃ?なぜこの世界の住人でないお主が、首を突っ込む?」
スッとお爺さんの目は何かを見極めるように鋭くなる。
「それは─」
「それにお主が行ったところで何ができる!?自分の力量も知らぬでそう簡単に首を突っ込むでないっ!」
聖夜の言葉を遮り怒鳴り散らすように言葉を放った。
「……っ、わかっている、わかっているさ!けど、この話を聞いてじっとしていることなんてできるはずないだろ!?…でも確かに俺には力がない、でも、多分、きっと、あなたは力を持っている、んだと思う。だから、俺に力を、貸してく…貸してください…。」
そう言って聖夜は頭を深く下げた。お爺さんの声がかかるまで頭を上げることはなかった。
「…お主は、本当に優しいんじゃな。ほっほっほ。今時の若いもんに見習ってほしいぐらいじゃ。」
3分くらいしてからお爺さんの声が頭に降りかかった。
「…え?」
さっきとは打って変わり孫を見るような顔で聖夜を見つめる。
「試すような真似をして悪かったのう。お主は自分の強さを知り、他人に頼ることができる。なかなかできないもんじゃ。」
「はあ…そうですか…?」
──何が起こった!?誰か状況説明を求む…。
「それで、お主はさっきの言葉に変わりはないかの?」
「え?あ、はい。」
──俺にも、できることがあるなら、それを全力でやるまで。
「よかったわい。実はお主をここに呼んだのにはさっきの話とは別にこの世界でやってもらいたいことがあるのじゃよ。あとついででいいのじゃ、戦争のことも頼みたい。この通りじゃ。」
今度はお爺さんが頭を下げる番だった。
「いやいや、顔あげてよ。言われなくても最初からそのつもりだったさ。でも俺なんかでよかったのか?」
笑いながらそう言葉をかける。別に自分じゃなくてもよかったんじゃないか。そんな思いが逡巡する。
「お主は自分が思ってるより力を持っておるよ。お主の魂はとてつもなく大きい、それなのに安定しておる。何か強い意志があるのかのう。それにわしはお主を気に入っておる。優しいだけじゃない、厳しさも持ち合わせておる。優しいだけなら誰でもなれる。じゃが厳しさを以て誰かを指南し導く。なかなかできないもんじゃ。」
「普通に生きてきたんだけどな。」
──俺も父さんの子ってことかな。
普通に過ごしてきたと思ったら実はすごい。なんていきなり言われても心中複雑である。
──でも素直に褒められると嬉しいもんだな。
そう思いすぐにはにかんだ顔になってしまう。
「それで頼みたいことなんじゃが、その世界の精霊が人為的に殺されている可能性があるのじゃ。それを調べてほしい。頼めるかの?」
「もちろん。やらせてくれ!…けどさっきも言ったように俺には力がない。どうすればいい?」
──自慢じゃないがテニス以外はあまりやったことがないからなあ…。
「大丈夫じゃ。わしと契約した後にしばらく修行を積んでもらう。」
「修行?わかった。頑張るしかないな!」
「契約してから魔法については話すとしようかの。お主の行く世界については修行が終わってからにしよう。これから場所を移動するが何かあるかの?」
「そういえば魔法がどうたらこうたらって言ってたな…。それで何か、か。…俺、親に別れの挨拶できてないんだけど…頼めるか?」
──ダメ元で、ダメならダメで仕方ない。
「……お主の頼みじゃ、特別じゃよ?」
そう言いお爺さんは微笑んだ。聖夜はその笑みに微笑み返した。
「お主と親の夢をつなぎ合わせるでの。ちょっと眠ってくれ。母親でいいかの?」
「…ああ、頼んだ。」
そう言って聖夜は意識を手放した。
◇◇◇
星野家
「…お父さん!起きて!お父さん!」
「…なんだ、騒がしいぞ。聖夜がゆっくり眠れないぞ?」
今日は聖夜のお通夜の日だった。
「その聖夜がね!夢に出てきたの!」
お母さんは目に涙を溜めながらそう言う。
「……そう、か。」
「あまり…驚かないのね?」
あまりにも淡白な反応だが、当たり前だという風にも見えた。
「…だって俺たちの子供だ、一言も挨拶がなかったらあいつの頬をビンタしてやってたさ。」
「そう…よね。聖夜だもんね。それでねあの子、私たちに『父さんと母さんの息子でよかった。親不孝でごめんなさい。』って言ったのよ?あの子全然分かってないわ。聖夜が生まれてきただけで私たちは幸せなのよ。ね、お父さん?」
「…そうだな。」
「それで最後に『お元気で、行ってきます。』だって。元気じゃないのはどっちよ!って話よ。ね、お父さん?」
「…そうだな。…でもあいつが『行ってきます。』と言ったんだ。俺たちは笑顔で見送らなきゃダメだ。」
「何言ってるのよ。お父さんだって泣いてるわよ?」
「…うるさい。」
「ふふ…。」
──聖夜、いってらっしゃい。
最後の方自分で書いてて泣きそうになりました 笑




