表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/1

悪魔に堕ちる

「カーン…カーン…カーン…」


処刑の時間を告げる鐘が鳴り響いている。

罪人「ノイツ・クロイツ」は、処刑台に立ち、自分を殺せと叫ぶ群衆にうつろな目を向けた。


「悪魔を殺せ!悪魔を殺せ!」


国の命令で小さな都市を破壊した時、クロイツには何の感情もわかなかった。だが、崩壊した都市の中に足を踏み入れた時、足に何かが当たり、それを蹴飛ばして見た。…よく見ると、小さな子どもの腕だった。腕だけが千切れ黒く変色している。

クロイツは目を見張って、辺りを見渡した。若い女性の顔や、老人の顔、腕、胴が、千切れ千切れになって散乱している。

その時になって、クロイツは初めて自分の犯した罪の大きさを感じた。息が乱れ、汗がどっと噴き出た。


……


「悪魔を殺せ!悪魔を殺せ!」


群衆が叫んでいる。クロイツは処刑人に押さえつけられ、ギロチン台に首を乗せた。

群衆の声と共に、鐘が鳴り響いている。


「神に祈る言葉は?」


処刑人の隣にいる神父が言った。クロイツは「何もない」と答えた。神父はため息をつき、指で十字を切った。

処刑人と神父がギロチン台から離れた。


クロイツは目を閉じた。自分を裏切った友の顔が浮かんだ。


(ゴーゴン…これでお前は満足か…?)


そして、刃をつないでいる縄が切られた。

刃は容赦なく、大きな音を立ててクロイツの頭を体から切り離した。


……


クロイツは、目を覚ました。

炎の中を逆さに落ちて行っている。

炎はクロイツの体を焦がしているが、クロイツには熱さも痛みも感じない。

クロイツは落ちながら、両手を見た。

紫色に変色している。そして頭に何か違和感を感じ手を当てると、2本の角のようなものが生えていた。

そして、クロイツは気づいていないが、その時にはもう目が紅く変色し、頬には長短2本の傷が入っていた。

クロイツは自分が悪魔に変化していっていることを悟った。


『悪魔を殺せ!悪魔を殺せ!』


そう民衆が叫んでいた声が蘇った。


(俺は本当の悪魔になってしまうのだな…)


クロイツは落ちながらそう思い、目を閉じた。


……


クロイツは、暗い空間で椅子に座らされていた。

手足を縛られる事もなく、ただ座っている。


(今度はなんだ?)


クロイツは辺りを見渡した。だが暗くて何も見えない。ふと、自分の首に手を当てた。


(…何故、首がつながっているんだろう?)


そう思った時、目の前が明るくなった。前には大きな骸骨が椅子に座っている。ボロボロの布を身にまとい頭上にはサビた王冠を乗せている。


「ノイツ・クロイツ」


骸骨がいきなりそう言った。


「お前は今から、この魔界の住人となる。」


クロイツは眉をしかめて答えた。


「…お前は誰だ?」

「私は魔界を司る魔王だ。」

「!…」


クロイツは一瞬目を見開いたが「ふふ」と笑った。


「まだ、生きろと言うのか。」

「人間界ではご苦労だった。それに敬意を表し「大悪魔アークデビル」という称号を与え、歓迎する事に私が決めたのだ。」

「…よけいなことだ。」


クロイツは臆せずに言った。


「まぁ、そう言うな。そのうち私に感謝する気になる。」


骸骨の魔王はそう言い、笑った。


「今後はクロイツという名は捨てて、新しい名前を付けよ。それが悪魔として生きる契約となる。」

「私は生きるつもりなど…」

「だから、そう言うなって。」


魔王がくだけたような口調で言った。


「悪魔としてでも、生きていくことに損はないから…。なっ。」


クロイツは苦笑した。ここで逆らったところで、どうにもならないようだ。

魔王が身を乗り出して言った。


「名前は自分で決めるがよい。…なんという名がいい?」


クロイツは黙り込んだ。だがすぐに口を開いた。


「ザリアベルだ。」

「ザリアベルか。いい名だな。」


魔王は即座にそう答えた。

「ザリアベル」とは、クロイツの国の言葉で「悲しい(=ザリア)鐘の音(=ベル)」を意味するのである。


「では、ザリアベル。これからお前に力を授ける。受け取るがよい。」


魔王が立ち上がった。だが、ザリアベルはすぐには動かなかった。


「どーして、そう腰が重いかなぁー…いったん立ってくれる?」


魔王がまたそう砕けた言葉で言った。ザリアベルはしぶしぶ立ちあがった。


「ザリアベルに「大悪魔アークデビル」の称号と共に、同等の力を授ける。」


魔王はそう言うと、ザリアベルに手をかざした。


「?」


ザリアベルは何の変化も感じない。


「おい、まだなのか?」

「え?」

「力がついたようには思えんが。」

「一応、格好だけつけておこうと思ってね。もうお前には「大悪魔」としての力が備わっておる。」


魔王はそう笑いながら言い、ザリアベルに背を向けた。


「さ、これからお前が暮らす場所へ案内する。ついて来い。」


魔王はそう言いながら、歩き出した。

ザリアベルは動かない。

…魔王とザリアベルの距離がどんどん広がって行く。


魔王は立ち止まり、半ギレして振り返りながら叫んだ。


「ついて来なさいって言ってんの!!」


ザリアベルはため息をついて、仕方なく歩き出した。


……


魔王は、第2地獄にザリアベルを案内した。

(※地獄は天国と同じように、階級により棲むところが決められている。第1地獄から第5地獄まで、1段階ずつ階級が下がって行く。つまり、ザリアベルはかなり高い階級の悪魔だということになる。)


そして、遠くに立つ高い塔を指さして言った。


「あれが「悪魔の塔」じゃ。そこの2階にお前の部屋を用意しておる。」

「部屋など必要なのか?」

「必要でしょうぉぉぉ!?」


魔王は、また半ギレでザリアベルに言った。


「必要ないっての!?え?この荒野みたいな地面で寝るつもりっだっての!?せっかくいい所用意したのに!!」


ザリアベルは(いちいちめんどくさい奴だな)と思った。


「わかった。感謝する。」

「それでいいんだ。」


魔王は満足気にそう言うと、塔に向かって歩き出した。


「早速だが、ザリアベル。明日から仕事を頼みたい。」

「仕事?」

「そうだ。伝令から連絡があってな。明日天使の集団が、ここらへんを襲撃に来るそうだ。」

「…天使の集団が襲撃?」


ザリアベルは魔王の後ろについて歩きながら、眉をしかめた。


「天使が悪魔を襲うのか?」

「正義の名の元にってね。悪魔を1匹でも減らそうってわけだ。ま、安心するがいい。ゼラは来ないようだから雑魚ばかりだ。「大悪魔」の手慣らしにはちょうどいい仕事だろう?」

「もう1度聞く。天使が襲ってくるのか?」

「だから、そう言ってるでしょォぉォっ!?」


魔王がまた半ギレで怒鳴った。


「どうしておんなじこと聞くかなぁぁ!?」

「…イメージがわかないんだ。天使が悪魔を襲うってのが。」

「だから、元人間って困るんだなぁ…」

「?」

「ウリエルって天使知らない?」

「知らん。」

「懺悔の天使って言われてる「ウリエル」を知らないってか!?」

「知らんと言ったら、知らん!しつこいな!」


とうとうザリアベルも、キレ始めて来た。魔王がため息をつきながら説明し始めた。


「「神の御前に立つ天使」の1人でね。「懺悔の天使」って言われてるんだ。神を冒涜するものを業火で焼き、地獄の罪人たちを苦しめるために生まれてきたような奴さ。」

「…さっき「ゼナ」と言ったが?」

「それは日本のドリンク剤!「ゼラ」って言ったの!」


ザリアベルは、片耳に指を入れ、頭を振った。さっきまで我慢していたが、怒鳴られるたびに耳がキーンとなって仕方がない。

魔王が続けた。


「「ゼラ」はウリエルの下僕みたいなもんだ。…これがまた強い奴でね。…まぁ、いつか戦ってもらう日が来るだろうけど。」

「…どうしても戦わなければならんのか?」


ザリアベルは、生前に見た子どもや老人たちの千切れた手足を思い出しながら言った。


「戦わねばならんの。そのために「大悪魔」の称号を授けたんだから。」

「いらんと言ったはずだけどな。」

「だからいつか私に感謝する時があるってばっ!」


また半ギレで魔王が怒鳴った。ザリアベルは、両耳をふさいだ。


……


とうとう始めてしまいました…悪魔「ザリアベル」の成り立ち(?)…。


この「ザリアベル」は、「悪魔の断罪-The Devil's Conviction-ⅠⅡ」「Wahrsagerヴァールザーガー「占い師 風間祐士」」をお読みいただいた方はご存じの、クールで正義感のある悪魔です。


「悪魔の断罪」のあとがきにも書きましたが、この「ザリアベル」は元々、他サイトに掲載している息子の作品に出てくる主人公でありまして、息子の許可をもらいながら、私なりの「ザリアベル」に書き直しております。

今回の「ザリアベル」の成り立ちもその一環で、息子が書くあらすじを元に書き始めました。

時間はかかると思いますが、頑張って最後まで書き切るつもりでおります。


内輪受け感満載の作品でありますが、お付き合いいただけるとうれしいです(^^)


立花祐子

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ