光を浴びて
苦しかった。でもそれ以上に逃げ出したくてたまらなかった。
だから走っていた。怖くて、苦しくて、でも走り続けた。
この恐怖から逃げるためにひたすら前を向いていた。
うしろから追ってきたものが呼んでいる。その声に振り向きたくない。
振り向けば、もう自分には戻れないことを知っている。
立ち止まって捕まったら終わりだということはわかっている。
走って走って、走り続けて、どこまで行けば安心して立ち止まれるのだろう?
そんな疑問がふわりと体を包んで、足が重くなる。
何を目指してどこへ行けばいいのか、いつの間にかわからなくなっている自分に気付く。
ただ一つだけ頭の中に残っている「逃げろ!!」と叫ぶ警告音。
それが響いて思考をかき乱し、不安を募らせる。
クラクラする頭。歪んだ視界から目を背けて前へと足を踏み出した。
喉の奥へ恐怖を押し込む。カラカラに乾いた喉が、吐きそうなほど熱を持った。
苦しい!もう走れない。
それなのに、どうして止まってはいけないんだ?
この苦しみから逃れるためには、何を失ったってかまわないのに!
ズタズタに傷ついた足が赤い足跡を残し、それを背後から追う奴らが嘲る。
「どうして追いかけてくるんだ!」
そう叫んでも意味はない。奴らの乾いた笑い声がこだまする。
逃げたって追いかけてくる。どこにも安心していられる場所なんかない。
誰もここにはいない。誰も助けてはくれない。
背中を押してくれるような誰かは、もうどこにもいない。
誰もが、何もできずに逃げ回るこの姿をわらっているだけだ。
もう終わらせよう。
逃げるだけだったこのときを。
そして始める。
追う者に立ち向かい、戦うときを。
光を浴びて立ち止まれる瞬間が来るまで。
とりあえずこれで一区切りということにさせていただきます。ありがとうございました。