第四章 我が悪友たち。
ほとんど何も起きなかった高二の一年間と高三の前半をすっ飛ばして、高校三年生の初夏。
あと半年後には、受験生にとっては運命を分けるセンター試験があるというのに、俺と俺の友人たちは今考えれば笑ってしまうくらいにのほほんとしていた。
俺を含めて、自分たちの実力が自分たちが思っている以上に低いことなど知ってもいなかったのだった。
俺は真面目で有名な地元二番手国立大、O大学の工学部の機械系をなんとなく志望していた。
学力が足りないのは知っていたが、下宿を親が嫌がったのと、地元三番手の国立K大学はリア充ぽっくて嫌だ、というのが理由だった。
友人の一人、小村悠太郎も同じ大学の工学部化学系を志望していた。
小村は高学力高身長のスポーツマン、かつイケメンで、学校内に非公認のファンクラブまで存在するという憎々しい奴であったが、いつだったかに「桐島美加は学校一可愛い」という内容の会話で盛り上がって以来の仲だった。基本的にはいい奴なのだが、天賦の才が有り余っているせいかなんとなく人を見下したようなところがあり、また、人を嘲るのが大好きである。他人のせいにするつもりはないが、俺の性格が微妙に歪んだのはこいつのせいでもある。
仲間内で唯一の生物選択者、徳元雅典は国立H大学の看板学部、農学部を志望していた。
徳元は外見がいささかヤンキーっぽいが、根はいい奴である。女子からは妙に人気があり、「オシャレ」だの「面白い」だの、俺とは正反対の評価を受けていた。
自他ともに認める数学オタクで、天才が全国から集まることで有名な国立K大学理学部数学科志望の藤岡淳也は、見るからにオタクっぽい風貌だが、訳の分からない積極性で手当たり次第に女子に声をかけていて、毎日のように小村に「鏡見てこい」と嘲られていた。
高三からの転校生で、国立T大学薬学部志望の長沢一昭は女子のルックスに対する評価が異常に厳しく、転校三日目にして「この高校の女子は九割ジャガイモ」という名言を残したという噂である。
長沢は大手製薬会社の研究になりたい、と常日頃から言っていた。
その理由は二つあり、一つは単純に人の命を救いたいからで、もう一つは高収入になればモテて美人と結婚できるかららしい。どちらが本当の理由だったのかは定かではない。
こんな感じのむさくるしい男五人組で、いつも放課後の補習が行われる教室の最後列を占領していた。
俺はこの年の春先に一度桐島に告白していたのだがあっさり振られ、忘れなければならないが同じクラスであるがゆえになかなかそういうわけにもいかず、そもそも二年越しの恋をそう簡単に忘れることなどできず、悶々としていた。
(第五章に続く)