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第三章 古傷えぐり。

翌朝、朦朧とした意識の中で目覚まし時計を見て、かなり寝坊したことに気付いた。

ベッドから飛び起きて、あわてて支度をする。走って駅に向かい、発車寸前の電車に滑り込む。

昨晩は結局ほとんど寝られなかった。かなり眠い。

ウトウトしながら電車に揺られ、乗り換えも含めて数十分、大学の最寄り駅に着いたことにふと気づいた。

ウチの大学の学生と、近隣の、この辺ではお嬢様女子大で有名な大学の学生であふれかえった車内が、一気にあわただしくなる。この駅は、二つの大学の生徒がほぼ同時に降りることを考えると、あまりに狭くて小さい。だが、近隣は住宅街であり、改装は不可能に近いだろう。俺は人だかりに飲み込まれながらも、なんとか改札までたどり着き、定期を通し、駅の外へ出た。新鮮な空気があふれていた。


バスに揺られて大学に着いた。俺は大講義室の後ろのほうに陣取った友人たちのところまで行き、席を確保した。レポートの提出期限やらを話しているうちにチャイムが鳴り、眠い授業をすることで有名な教授が入ってきた。


その一限の教養の時間、俺はずっと、高校時代の、桐島絡みの記憶の回想をしていた。

というより、勝手に頭が働いていた。


何の運命のいたずらか、俺は桐島と三年間同じクラスだった。

しかし、楽しかったり、美しかったりする記憶は、大半がつらかったり、悲しかったり、憎かったりしたときの記憶に塗りつぶされ、ほとんど思い出せない。または、その輝きを失った。

もし記憶に色がついているならば、高三の途中までの俺の桐島絡みの記憶の色はまさに、淡い、美しい水色である。

しかし、高三の夏以降の俺の桐島絡みの記憶は、どうしようもなく真っ黒である。

水色は黒にはかなわない。ほとんどすべて塗り隠されてしまった。


俺はその真っ黒の記憶をたどることにした。

それは自分自身の心の傷口をえぐる行為に他ならなかった。

しかし、俺はなぜか、回想を止めることができなかった。


(第四回へ続く)

















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