第二十四章 誤りの結論
俺を含む六人は次第にその男女二人組に近づいていった。嫌な予感がしてしょうがない。
このクソ寒い中、ベンチで身を寄せ合っていちゃいちゃしているのは、桐島美加とさっきの男以外の誰でもない。俺の胃がひどく痛みだした。
秋に俺は桐島を諦めたはずだが、目の前で他の男とイチャイチャされるのはさすがに嫌だし、そもそも本当に諦めがついたのか、現時点でもまだはっきりとはわからない。俺は自分が嫌になった。
二人の座ったベンチの前を通りがかったとき、高濱が「あっ」と小さく声を上げた。
その声に反応してベンチの二人がこちらを見た。一瞬空気が止まる。
俺を含む六人は二人に軽く会釈した後、速やかに退散した。
全員が二人から50メートルほど離れたところで、俺は全員に聞こえるような声で「さっきの男の奴誰?」と聞いた。
「元H中の和田悠真」そう答えたのは高濱だった。「まあ、見た通りの男」
それは要するにチャらいということだろうか。なんにせよ、いよいよ恐れていたその時がやってきてしまったというのが事実だった。
さっさと彼氏を作ってくれたほうが諦めがつく、とは思っていたが、それはあくまでも「まともな」男とくっつくというのが前提である。あんな穢らわしい男なんてまっぴらごめんである。
そんなふうに、俺はまるで桐島の父親のようなことを考えていた。だが、俺にはどうしようもなかった。
翌日、昨日の計画に参加した男子メンバーは固まって三年一組の教室に入った。小村がかんかんになっていてもおかしくないと考えたからである。
教室に俺を含む四人が一緒に入ると、小村の姿が目に入った。小村はこちらを見るとニヤッと笑った。
―なにかおかしいぞ。嵐の前のなんとかだろうか。
俺はそう思ったが、それは杞憂だった。小村の勝ち誇ったような笑いが鼻につく。いったいなんだ。
「おはよう、童貞君たち」小村は勝ち誇った顔でゆっくりと言った。四人はすべてを悟った。
「嘘だろ」長沢が呟いた。「ありえない、常識的にありえない」藤岡が続けた。
「いや、倫理的にだな」俺はさらにそう続けた。四人は小村を軽蔑しきった目で見た。
「お前ら、勘違いだ」「誘ってきたのは向こうだ」小村はあわてて言った。
俺は背筋に電流が走ったような衝撃を受けた。なんと軽い女、小佐野。
「うっわー」筑紫が顔をしかめながら言った。「お前ら大概だわ」「ありえんわ」「カスだわ」
そのあとの詳しい話はいいとして、「小佐野は糞」という見解で四人は一致した。
あまりにもいろいろなことが起きすぎて、俺は頭がパンクしそうだった。
何とか頭を整理し、昨日起きた様々なことを総合して、俺は考えた。もしかして恋愛などというものは、ひどく単純で浅薄なものなのかもしれない。俺は恋愛に幻想を抱いていたのではないだろうか。というより、抱いていた。
俺はふと窓の外を見た。見えるのは高速道路と住宅街ばかりである。だが、今の俺にはこれで十分だ。
しばらく考えた後、俺は、今後の人生では一切恋愛を放棄しよう、と決意した。
(第二十五章へ続く)