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第二章 無限の後悔

一目惚れというのは、読んで字のごとく、一目見て好きになることである。

性格がどうのとか、お互いの相性がどうのとかいうことはそのときは問題ではない。おそらく。

容姿が自分のタイプかどうかですべてを判断してしまう、もっとも恐ろしくて、短絡的で、本能的・動物的ともいえる、異性への好意の抱き方と言えるかもしれない、と俺はうがった見方をしてみる。


俺の桐島への好意に一番最初に気付いたのは、隣の席に座っていた椎葉隆彦だった。

椎葉が敏感だったというより、俺がわかりやすかったのだろう。

「お前、桐島好きやろう」 五月も下旬を迎え、暑くなりだしたころ、椎葉がにやにやしながら俺にこう言った。俺は驚いたが、それを必死で包み隠した。

当時桐島はクラス内でも目立たない女子生徒だった。それをいいことに、おれはとっさの逃げ口上で、「あんな根暗女のこと誰が好きになるんじゃ」と必死で反論した。

「ふーん」椎葉は納得したような表情を見せたが、おそらくすべてお見通しだったのだろう。小声で、「俺、あいつのメアド持ってるぞ」とつぶやいた。

・・・たぶんこいつは嘘をついている。そもそもなんでこいつが桐島さんのメールアドレスを持ってるんだ。ありえない。きっとこれは罠だ。そうに違いない。

一瞬のうちに俺の脳内の思考回路がフル稼働した。

俺が「いらない」と答えかけた矢先に、椎葉は携帯のアドレス帳を開いた。

そこには確かに、「桐島美加」とあった。しかし、すでに「いらない」の「い」が出かかっていた。

ここで言い直すのは俺のプライドが許さなかった。俺はきっぱり、周囲に聞こえるのではないかというくらいの声で、「いらない」と答えてしまったのだった。


あのとき、もし俺がプライドを捨てて「欲しい」と言っていたら、どうなっていただろうか、と俺は一瞬考えた。そしてそのあとすぐ、「何も変わらなかった」という結論に至った。

その時点で俺が桐島のメールアドレスを知っていて、俺が桐島にメールし、親密になっていたとしても、やっぱり結果は同じに違いないということは、俺が一番わかっている。

結局俺が桐島のメールアドレスを知ったのは、高一の夏休みが終わってからだった。

しかも、メールアドレスを直接自分で聞きに行くことはとうとうできず、結局は総合学習の連絡に必要だから、というもっともらしい理由をつけて、クラスメートから聞き出すのがやっとだった。

つくづくヘタレである。恥ずかしい男である。

俺はもともと、他人から拒絶されるのを恐れる人間だった。劣等感も強い。

五月の文化祭以降始まった「カップルブーム」に乗れなかった俺は、トーク力でも外見でもクラスの大多数の男子に負けることを自覚していた。

男女関係なく盛り上がる「リア充」グループにも、クラスの隅っこでゲームやアニメ談義に花を咲かせるオタクグループにもうまくなじめず、かろうじて中途半端グループに交じっていた。

こんなんじゃ駄目だ。なんとかしなければ。 そういう気持ちでいっぱいだった。

幸いにも桐島はおとなしい生徒で、男子との関わりはほとんどなく、男子ももっと派手な女子に目が行っているようだった。今思えば、俺はそれに安住していた。

クラス内ではいてもいなくてもいい存在のままで、友人も数人しかできず、桐島とも授業の合間に多少話す(それでもクラスの男子陣の中では異例だったのだが)以外に特に何も進展はなく、メールのやり取りもさほどしないままに、高一の一年間は終わったのだった。



ここまで回想して俺はひどく後悔した。

やるべきことは山ほどあった。やっておくべきことも山ほどあった。

それなのに、やらなかった。やれなかった。

それで結末が変わったとは思えないが。

本ばかり読んで友人をまともに作らず、外遊びもしなかった幼少期の自分にまで怒りと後悔が押し寄せた時点で、俺は面倒くさくなり、一度回想を止めた。

時計を見ると夜の十一時を回っていた。明日は朝から授業がある。

俺は風呂に入り、寝る準備を済ませると、ベッドにもぐりこんだ。

しかし、なかなか寝付けなかった。


(第三章へ)

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