第十一章 愛すべき馬鹿ども 期待篇
進路指導室に向かったはいいものの、三人は俺についてきた。
あまりにも必死すぎて、俺は笑うを通り越していささか感心していた。
確かにうちの学年の女子は、大半がまったくもって可愛くない。
ちなみに、男子もかっこよくない、というのも否定しえない事実である。
一部の可愛かったり普通だったりする女子は、ほとんどがイケメンリア充の彼女になっている。
ちなみに、可愛くて男がいない、という奴は総じて性格が終わっている。
たとえば小佐野のように。
だから、男どもの多くは、他学年や他校や二次元の世界に安らぎを求める傾向があり、女子陣の多くは彼女がいないイケメンに群がっていた。
そういうわけで、小村はいろいろな女子に言い寄られていたが、あまりに小村の理想が高いので、これまで誰とも付き合うには至っていない。
恋愛でも進路関係でも、理想ばっかり高い、というのがこの学年の連中の精神構造の特徴であるらしい。俺も含めて。
「マジで紹介してくれ」階段の踊り場にさしかかったころ、小村が哀願するような目で言った。
ここまで来ると可哀相である。
「俺もせめて、どんな子か一目見たい」徳元が腕を組みながら言い、長沢もそれに同調した。
正直言って、この変態ども四名に飯山を紹介するのは、もはや一種の犯罪のように思える。
特に、小村は外見こそイケメンだが、その中身は生粋の変態である。
こんなところでは言えないような恥ずかしい性癖や気持ち悪い性癖が山ほどあるのだ。確かに飯山自体、ところどころ人間的に破綻しているようなところもあるが、それでも俺やこいつらほどではない。
ひとまず、まずはなんとか小村をあきらめさせなければいけない。
俺は小村のほうを向いた。
「お前、夏休み前はあんなに桐島、桐島言ってたじゃないか」
「さっそく飯山にお乗り換えということは、桐島と何かあったのか」
小村が今までに見たことのない表情をした。俺は必死で笑いをこらえた。
「違う、違う、断じてそんなことはない」
「美加たんもいいけど、初めて見て以降、その飯山ちゃんのことしか考えられないんだよ、察してくれ」
「毎日俺の妄想の中に出てきては俺に抱きついてくるんだよ」
などといった、イケメンが言っても大概気持ち悪い発言を、小村は半泣きになりながら並べ立てた。
小村の変態発言がエスカレートし、そろそろ吐き気を催しそうになってきた。
こんな発言を公衆の面前でするような男に、飯山を紹介するなどもっとのほかである。
「あんたら、特に小村に紹介したらいろいろ面倒くさいことになる気がするから嫌だ」
俺ははっきりと言った。しかし、この男どもはしつこい。
「お前だけそんな可愛い子といちゃいちゃしてずるい」「お前こそ、桐島さんのことが好きじゃなかったのか」などと、各自好き勝手に反論の言葉を並べ立てはじめた。
俺のプライベートな領域にまで話が進みそうになったので、俺は仕方なく妥協案として、本人がいいと言ったら、という条件を提示し、この変態どもは渋々それをのんだ。ようやく話がおさまった。
俺は全員の目の前で飯山にメールを送った後、涼しい進路指導室でのんびりと、O大の過去問を眺めたのだった。
このあとに起きる面倒事のことなど、わかるはずもなかったのだった。
(第十二章に続く)