表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/27

第一章 回想の開始

大学生になって一か月半が経った。早いものだ。


大手予備校が言うところの「難関10国立大」の一角を占める某大学の工学部に何とか滑り込んだことによって生まれた自尊心と、生きる活力も、中間テストの失敗やその他もろもろの要素によってそろそろ失われそうになってきた。なんとか気分を変えなければならない。

幸いにも俺の部屋は受験生時代とほとんど様子が変わっていない。参考書やら予備校のテキストやら問題集やらが無造作に積まれ、並べられていて、汚いことこの上ない。


この部屋をきっちり片付ければ、きっと気持ちが晴れるだろうと俺は思った。


そして、特に深い意味もなく、ふと数学の問題集を一冊手に取ると、ぱらぱらとめくった。しばらくしてそれを無造作に床に放り出すと、次は英単語帳に目を通す。そうこうしているうちに、俺の甘酢っぱくもしょっぱく、そして苦い、全くもって理解不能な風味の高校時代の記憶がよみがえってきた。

まあ、もっとも、よみがえる、というほど過去のことでもないし、通学の電車で高校時代の同級生に会うこともしばしばあるし、何より俺は部屋を片付けるつもりだったはずなのだが、それらのことは一度置いておき、俺は回想にふけることにした。




俺の高校時代を回想するにあたって、絶対にはずせない人物が一人いる。

その名を桐島美加という。お察しの通り女性である。

桐島に対して俺は、愛憎入り混じった複雑な感情を抱いているのだが、少なくとも「愛」に関しては俺から霧島への完全な一方通行であり、「憎」に関して言えばただの逆恨みである。

そして向こうからすれば、おそらく俺の存在はあってないようなものである。我ながらつくづくダメな男だと思う。情けない。

桐島と出会ったのは高校の入学式前の登校日である。俺と桐島は同じクラスだったのだ。

そして、単刀直入に言うと、俺は出会ったその日に、あろうことか、桐島に一目惚れしたのである。

今思えばつくづく軽薄だったと思う。しかし俺はその時、まだ幼かった。

どうしようもなく幼かった。桐島に一目ぼれしたという事実が、のちに自分を苦しめることになるとは、全く思いもしなかったのだった。


(続く)






















評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ